小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2017-01-01から1年間の記事一覧

1611「痛」の1年について 心の渇き癒す読書

今年の世相を表す漢字は「北」で、流行語大賞は「忖度」だった。双方の背景はここでは省くが、いずれにしてもマイナスイメージの言葉だ。では私の場合、今年1年を振り返って、どんな漢字・言葉が適当なのだろう。それは「痛」だった。 広辞苑を開くと、「痛…

1610 ある小さな音楽交流会 クリスマスイブの名盤鑑賞

音楽の世界には老若男女の差別はない。クラシックが好きなひともいれば、ポピュラー音楽を聴くのを楽しみにしている人もいる。幅広い音楽の世界を味わおうと、レコードを中心に音楽鑑賞をしているグループがあり、私も初めて参加した。24日午後のひと時であ…

1609 四国からの懐かしい便り 元同僚からのミカンの贈り物

「四国西部にあり、瀬戸内海、宇和海に面する。山がちな県で、温暖な気候を利用して、ミカン、イヨカン、キウイフルーツなどの栽培がさかん。また、養殖漁業もさかんで、真珠、ハマチ、マダイは全国有数の水揚げをほこる。今治市は全国一のタオル生産地だ」 …

1608 ラジオ体操人目指して 師走の独り言

12月も中旬になると、日の出も遅くなった。いまは七十二候でいう「大雪 末候の鱖魚群(さけむら)がる」時期で、最も昼の時間(日の出から日の入りまで)が短い冬至は22日だから当然なのだ。私が住む千葉のけさの日の出は午前6時41分40秒(CASIOのK…

1607 イギリス現代史の断面 ジェフリー・アーチャー『クリフトン年代記』完結

ジェフリー・アーチャーはイギリスの政治家で作家である。彼のライフワークともいえる『クリフトン年代記』は、第7部「永遠に残るは」(新潮文庫、戸田裕之訳)で完結した。1920年に労働者の家に生まれたハリー・クリフトンの生涯を描いた大河小説で、…

1606 人の心を打つ言葉 カズオ・イシグロとサーロー節子さん

「自分の目、耳、肌、心でつかまえたものを、借りものではない自分の言葉でわかりやすく人に伝えること」。6日に老衰のため87歳で亡くなった元朝日新聞天声人語担当のジャーナリスト、辰野和男さんの著書『文章のみがき方』(岩波新書)の中に、先輩記者…

1605 遠くなった無冠の帝王 『デスク日記』の原さんの死

「無冠の帝王」という言葉がある。「(地位はないが強い力のある者、または権力に屈しない者の意で)新聞記者。ジャーナリスト」(広辞苑)という意味だった。「だった」と過去形で書くのは、昨今の記者たちが権力に屈してしまっている印象が強く、「無冠の…

1604 生を愛し日々を楽しむ 冬木立の中で

12月ともなると、遊歩道の街路樹のけやきもほぼ葉を落とした。我が家のすぐ前にある2本だけがなぜか、頑張って赤茶けた葉を3分の1ほど残している。しかし、間もなくこの木の葉も落ちてしまい、遊歩道は「冬木立」の風景になるだろう。「妻逝きて我に見…

1603 孤立する元中国残留孤児 2世も定年世代に

中国残留孤児が社会問題としてクローズアップされたのは、1980年代だった。1981年3月2日、中国残留孤児の訪日肉親調査がスタートし、1999年まで30回にわたって集団訪日調査が続いた。その結果、孤児とその家族の多くが帰国を果たしたのだが…

1602 最善説への痛烈な皮肉 小説『カンディート』の世界

今年も残すところ、きょうを入れて30日になった。少し早いが、2017年を回顧すると、内外とも芳しくない年だったといえよう。この世は到底、哲学の「最善説」を信じることができない時代であることを思い知らされた1年だった。そんな思いに浸っている…

1601 つまらないことが多すぎる 昨今の日本

どうも、いまの日本はつまらないことが多すぎる。つまらないは、つまらぬとも言うが、広辞苑を引くと、5つの意味があるという。今朝の新聞記事を見ながら、ついそれらの意味を考えてしまった。 広辞苑によると、それは①道理に合わない。得心できない②意に満…

1600 世界的画家の心情 ピカソとゴッホを描いた原田マハ

世界的画家と言えば、だれを思い浮かべるだろう。ほとんどの人がパブロ・ピカソ、あるいはフィンセント・ファン・ゴッホの名をあげるはずだ。2人の天才画家をモチーフにした原田マハの『暗幕のゲルニカ』(新潮社)と『たゆたえども沈まず』(幻冬舎)を読…

1599 ボージョレ・ヌーボ解禁日に 角界の騒動と酒の破壊力

大相撲の横綱日馬富士が、酒の席で同じモンゴル出身の幕内力士貴ノ岩に暴力を振るったことが角界を揺るがす大問題になっている。日馬富士の引退という事態に発展するという指摘もある。酒は百薬の長という半面、人の心を狂わす力もある。このニュースを見な…

1598 ある友人の墓碑銘 「一忍」を胸に…

9月に亡くなった高校時代の友人の墓に詣でた。千葉県鎌ケ谷市のプロ野球日本ハム2軍用の「ファイターズ鎌ヶ谷スタジアム」に近い、自然公園風の美しい墓地である。50段近い階段(足腰の悪い人用にはモノライダーという小さなモノレールのような乗り物が…

1597「ゲルニカは巨大な錯覚の集合体」なのか? シャガール作品と既視感

遊歩道のけやきの葉が緑から黄色へ、さらに黄金色に変化した。その葉が落ち始め、遊歩道は黄金色の絨毯に覆われたようだ。《むさしのの空真青なる落葉かな》水原秋櫻子の句である。私が住むのは武蔵野ではないが、遊歩道から見上げる空はまさに蒼茫の世界が…

1596 病室は高齢化社会の縮図 わが入院記

足のひざ付近のけがで26日間にわたって、入院する羽目になった。当初、手術から1週間程度で退院できるのではないかという医師の話だった。だが、実際に患部を開いてみると傷は大きく、結果的に1カ月近い入院生活を送らざるを得なかった。入院した4人部…

1595 リハビリと読書 秋雨はさびしい

既に書いたように、足のけがで1カ月近く入院した。その間、やることと言えば、一日3回(土日は2回)のリハビリと3度の食事ぐらいだから、消灯(午後9時)までに時間はかなりある。テレビは、ニュースもワイドショーも、希望の党と小池氏のことに集中し…

1594 信用ならない野心家やおしゃべり セイダカアワダチソウの季節に

大佛次郎の『パリ燃ゆ』(朝日新聞)を入院中のベッドで読んだ。ナポレオン三世による国民議会に対するクーデターと第二帝政、普仏戦争でのフランスの敗戦という歴史を経て、パリで蜂起したパリ・コミューンとヴェルサイユの国防政府(政府軍)との攻防を描…

1593 病床の不思議な夢 カズオ・イシグロのノーベル文学賞

けがのため、入院している。その病床で数日前、夢を見た。イギリス国籍の日系作家、カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞したというのだ。それは正夢だった。このところ毎年のように、ノーベル賞の時期になると、村上春樹が文学賞をもらうのではないかと…

1592 夕焼け断章 暗くなるまで見ていたい

先日、素晴らしい夕焼けを見た。夕焼けは、太陽が沈む前に西の空が燃えるような紅色になる自然現象である。四季折々に見られるのだが、俳句では夏の季語になるそうだ。 夕焼けといえば、あの童謡を思い浮かべる人が多いかもしれない。あれは、やはり夏の歌な…

1591 キノコのある生活 山形から季節の便り

山形に住む友人から、季節の便りが届いた。この季節といえば、どんなことをしているのだろうと思っていたが、そう、山歩きが趣味の友人は、キノコ採りに明け暮れているのである。 友人が採っているのは海の紅色サンゴと似ているホウキダケである。かなりおい…

1590 難を乗り切れ スポーツ選手とけがの闘い

前回のブログで紹介した陸上競技の桐生は、大記録を達成した後「肉離れしたらしゃあないと思ってスタートしたら、思い切り出られた。けがなく終わってよかった」と、述懐している。この言葉から、スポーツ選手にとって、試合に出ることはけがとの闘いである…

1589 韋駄天の輝きを 厚い壁を破った桐生

「桐生祥秀(21)が100メートルで10秒の壁を破った」というニュースを見て、韋駄天という神の存在を思い出した人もいるだろう。韋駄天は、もともと古代ヒンドゥー教の神だったが、仏教に入り、仏法の守護神になったといわれる。 古代インド神話の捷疾鬼(…

1588 ある秋の詩 小詩集『風信』より

このところ、私が住む関東南部は涼しい日が続いている。9月の初旬といえば、「残暑」という言葉通り、例年はまだエアコンに頼っているのだが、ことしはそうではない。秋の気配が例年より早く漂い始めているのである。そんな時、一つの詩を読んだ。その詩は…

1587 9月に吹く風 変わらぬ人間性

物いへば唇寒し秋の風 松尾芭蕉 今日から9月。急に涼しくなった。秋風が吹き、街路樹のトチノキの実が落ち始めた。詩人の大岡信は、日本人の秋風に対する思いについて、面白いことを書いている。最近、ニュースになった政治家のヒトラーに関する発言を考え…

1586 「読書は人をつくる」 時間の無駄では決してない

「読書は満ちた人をつくる」という言葉が好きだ。イギリスのフランシス・ベーコンの『随想集』にあり、原文は「Reading maketh a full man」だ。岩波文庫の渡辺義雄訳は「読書は充実した人間を作り」とあり、英文学者の福原麟太郎は『読書と或る人生』(新潮選…

1585 信じたい「人道主義」 バルセロナのテロに思う

スペインの大都市、バルセロナの中心部で通行人の中にワゴン車が突っ込むというテロがあり、これまでに13人が死亡、100人以上が負傷した。イスラム過激派による犯行とみられている。この街のメーンストリート、ランブラス通りでの惨事である。かつて私…

1584 咲き続ける朝顔 季語は秋でも夏の風物詩

小学校1年生の孫娘から預かった鉢植えの朝顔が咲き続けている。わが家にやってきてから111個、実際に咲き始めてからちょうど150個になる。この先どれほどの花が咲くのだろう。俳句歳時記によると、朝顔は夏の季語ではなく秋の季語だ。 「朝顔市」をは…

1583 ガダルカナル・インパールを生き抜く 元兵士の手記

72回目の終戦の日である。太平洋戦争で310万といわれる日本人が死亡し、中国(1000万人)をはじめアジア各国で2000万人以上が犠牲になったといわれる。天皇陛下は戦没者追悼式で「ここに過去を顧み、深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び…

1582 戦争文学を読む 72年目の夏

最近読んだ本は、「戦争文学」といえる3冊だ。特攻隊長の体験を基にした島尾敏男の短編集『島の果て』(集英社文庫)、戦争を知らない世代が書いた高橋弘希『指の骨』(新潮文庫)、フィリピン・ミンダナオ島で生まれ、ジャングルでの避難生活を体験した衣…