小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

政治

2110 ウクライナ住民とロシア兵士の攻防『ひまわり』の街で

ロシア軍のウクライナ侵攻に関して、春江一也『プラハの春』(集英社文庫)で紹介されたものと似た動きがウクライナ国内で起きているという。プラハの春は、54年前の1968年に中欧チェコスロヴァキア(現在はチェコとスロヴァキアに分離)で起きた民主…

2106虹を見た朝に 自然との対話/五輪をめぐって

今朝8時前、短い時間でしたが、調整池の向こう側に「冬の虹」が立ちました。短い時間と書いた通り、私が歩いている間の5分程度で消えてしまいました。まさに「冬の虹消えむとしたるとき気づく」(安住敦)の句通りの、幻のような虹でした。その間、周辺は…

2095 遥かな空に描かれた文字は 武満徹『翼』を聴く

現代音楽の作曲家、武満徹(1930~1996)は、自身が作詞したポピュラー曲も少なくない。中でもよく知られているのは『翼』と『小さな空』だ。元同僚は、今年の年賀状にこの『翼』のことを書いてきた。この曲は「遥かな空に描く『自由』という字を」…

2094 「思索」の信越の旅 紀行文を読む楽しみ

英国人女性、イザベラ・バードは文明開化期といわれた1878(明治11)年横浜に上陸、6月から9月にかけて北日本を旅し、さらに10月から関西を歩いた。この記録が『日本紀行』あるいは『日本奥地紀行』として今も読み継がれ、紀行文の名著になってい…

2087 アナログへの回帰再び 新聞と行政の協定に衝撃

今年は私にとって「静」の漢字が似合う一年だった。ほとんど遠出はせず、東京の美術館には2回しか行かなかった。それでも自宅周辺の散歩だけは欠かさなかった。このほか古いレコードをアナログプレーヤーで聴き直し、それだけでは治まらずに長い間使ってい…

2077 絶望を託された私たち 上間陽子『海をあげる』

《私は静かな部屋でこれを読んでいるあなたにあげる。私は電車でこれを読んでいるあなたにあげる。私は川のほとりでこれを読んでいるあなたにあげる。この海をひとりで抱えることはもうできない。だからあなたに、海をあげる。》 上間陽子著『海をあげる』(…

2068 学ぶことを忘れると堕落する 2つのニュースを読んで

最近2つの新聞記事に驚いた。いずれも政治にかかわるニュースであり、政治の信頼とは何かを考えさせられたのは私だけではないはずだ。近くにあった高橋健二訳『ゲーテ格言集』(新潮文庫)を見ていたら、「有能な人は、常に学ぶ人である」という言葉が出て…

2062 「よく分からないから不気味」コロナ感染急減の背景は 

「なぜ、コロナ感染者がこんなに急に減ったのだろうね。よく分からないから不気味なの」。小学校高学年の家族が「登校中、低学年を送ってきた大人がこんなことを話しているのが聞こえたよ」と教えてくれた。今夏、あれほど猛威を振るったコロナ禍。一時は1…

2058 岸田氏は普通の人か 小学生が見た自民党総裁選

「Aは影が薄い、Bは普通、Cは影が濃い」。自民党総裁選をテレビで一緒に見ていた小学5年生の家族が、こんな感想を漏らした。影が薄いは、存在感がないという意味だ。最近の子どもは社会の動きをよく見ている。私はこの指摘に舌を巻きながら、同じ思いに…

2053 散歩道に秋の香り「木犀の匂の中ですれ違ふ」

金木星の花が咲き出した。小さな橙色の花はあまり見えない。しかし、あの独特の香りで季節の花の開花を知った。備忘録によると今から6年前の2015年は9月23日に「金木犀開花。例年よりかなり早い」とあるから、今年は夏から秋への移ろいというバトン…

2050 シメールを背負った国会議員たち 短命・菅首相退任劇の中で

菅首相が3日、自民党臨時役員会で自民党総裁選に立候補しないことを表明した。今月末の党総裁任期満了に伴い首相を退任することなるわけで、わずか1年余の短命首相といえる。このニュースを見ながら、孔子と弟子たちの問答をまとめた『論語』の「政治」に…

2048 栄光と転落のパラ・五輪選手 獄中の義足のランナー

東京パラリンピックが続いている。義足のランナーとして、パラリンピックだけでなくロンドン五輪にも出場した南アフリカの陸上選手、オスカー・ピストリウスは今どうしているのか、気になった。体の障害を乗り越え、世界的な選手になった彼はただものではな…

2047 それぞれの大義の中で アフガンの歴史の潮流は

アフガニスタン(以下、アフガン)はイスラム武装組織、タリバンの首都カブール制圧で大混乱に陥っている。連日の新聞、テレビ報道を見ながらどうしてこうなってしまったのかと、考え込む人は少なくないはずだ。ベンジャミン・フランクリンの「世の中に善い…

2046 われ先に国外退避の大使館員 昭和の悪夢アフガンでも

米軍の撤退期限が今月末に迫ったアフガニスタンの首都カブールの国際空港付近で自爆テロがあり、70人以上が犠牲になった。現地には日本人やアフガン大使館の現地スタッフ、派遣された自衛隊員が残っている。この事件によって、自衛隊機による退避は予断を…

2039 未来へのことば「焼き場に立つ少年」のこと

一枚の写真が目に焼き付いている。広島に続いて原爆が投下された長崎で米国人カメラマンが撮影した「焼き場に立つ少年」と題した写真だ。カトリックのローマ法王庁が「核なき世界」を訴えるフランシスコ法王の指示で、教会関係者に対しこの写真入りカードの…

2037 8月6日の風景 「戦争の記憶は抜歯のきかぬ虫歯」

午前8時15分。南側の窓を開け、1分間の黙祷をする。温度計は29度(湿度76%)まで上がっている。76年前のこの時間、広島に原爆が投下された。人類に向けられた初めての大量破壊兵器は、おびただしい生命を一瞬にして奪った。テレビではNHK地上…

2035 伝わらない首相のメッセージ コロナついに1万人超

五輪の最中、日本の新型コロナ感染者が29日、1日で1万人を超えた。感染爆発状態だ。これを抑えるにはどうすべきなのか。そのメッセージが伝わらない。政府は何をやっているのだろう。菅首相の虚ろな目を見ていると、国民の不安は増すのではないだろうか…

2032 闇深き国際事件に挑む 春名幹男『ロッキード疑獄  角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』

私にとって、ロッキード事件は記者活動の第二の原点だった。記者としてのスタートは東北・秋田であり、その後仙台を経て社会部に異動した。間もなくこの事件がアメリから波及し、末端のいわゆるサツ回り記者として、かかわることになった。春名幹男著『ロッ…

2024 連続幼女誘拐殺人事件の闇に挑む記者  堂場瞬一『沈黙の終わり』

知人から電話があり、4月に出版された本について話題になった。私もこの本を読んでいたから、知人との話が弾んだ。知人が話題にしたのは堂場瞬一の『沈黙の終わり』(角川春樹事務所)という上下の長編小説だ。作家デビュー20周年を飾る力作といっていい…

2021 リトマス試験紙的存在の五輪 人が生き延びるために

「馬の耳に念仏」ということわざは「馬を相手にありがたい念仏をいくら唱えても無駄。いくらよいことを言い聞かせてもまるで理解できないからまともに耳を傾ける気がなく、何の効果もないことのたとえ」あるいは「人の意見や忠告を聞き流すだけで、少しも聞…

2010 責任転嫁の時代 「小人は諸(これ)を人に求む」

今、政界である出来事が話題になっています。それは「責任転嫁」という言葉を見事に体現したニュースです。「矜持」とは無縁の動きを見ていてあきれたのは私だけではないでしょう。2019年参院選の買収事件で自民党本部から河井克行被告と案里氏の夫妻側に渡…

2001 10年以上前にパンデミックを警告「こちらからウイルスを見つけに行け」と

10年以上も前に、新型コロナ感染症の出現を予言するような記事が書かれていた。当時、深く考えずに読み流した。感度が鈍かったのは、私だけではないようだ。《はたして人類を襲う『次のパンデミック』は豚インフルエンザなのか、それとも鳥インフルエンザ…

1991 盤根錯節に遇いて利器を知る 他山の石より自民の石

政治家の言動を見ていますと、本当に勉強になります。自分の常識が間違っているのではないかとさえ思うことがしばしばあります。先日、元法相の河井克行衆院議員が、公選法違反(買収)事件の裁判で、これまでの無罪の主張を一転させました。河井氏は起訴事…

1975 いつまで続く泥濘(ぬかるみ)ぞ うそと特権意識と自らの利害と

政治屋という言葉を使ったのは、コラムニスト・随筆家の高田保(1895~1952)だった。「政治家は次の時代のことを考え、政治屋は次の選挙のことしか考えない」と。昨今は「政治家はコロナ禍の一刻も早い終息を考え、政治屋はコロナなんて無関係。た…

1969 生涯現役と老害と 仲代さんと政治家たち

俳優の仲代達矢さんがラジオに出演し、最近米寿(88歳)を迎えたと話していました。1932(昭和7)年12月13日生まれ。今も現役の俳優です。政治の世界。新しくアメリカの大統領になったバイデンさんは78歳と、史上最高齢での大統領就任だそうで…

1968「民衆をなめるな」 コロナ禍の日常の中で

「『民衆をなめやがって……』私はテレビの画面に見入りながら、何度も胸のなかで呟きました。この国は民衆を侮辱する国だと思いました。これほど民衆から誇りを奪って平気な国はない、と」。阪神・淡路大震災から昨17日で26年が過ぎた。同じように、民衆…

1967 コロナ対策でアジア最大の失敗国になる恐れ カタカナ用語氾濫の中で

「日本はコロナ対策でアジア最大の失敗国になりつつある」「ウイズコロナという政策は愚策」――ある学者の政府のコロナ対策に関する評価だ。客観的な見方だと思う。しかし、こうした声が首相官邸、政府与党には届かないのだろうか。危機のときだからこそ、政…

1959 生存競争と政治家「保身」に対する寅さんの声

2020年も残すところ6日。コロナ禍に揺れる世界。ことしも政治家の危うい言動が目に付いた。そのうち3人の姿から「保身」という言葉が浮かぶ。ユニークな意味・解釈で知られる「新明解国語辞典 第7版」(三省堂)には「[生存競争から脱落しないように…

1956 心に響く政治家の訴え 日本の首相は劣勢

画家のゴッホは、弟テオと親友の画家エミール・ベルナールに多くの手紙を書いている。その内容は含蓄がある。例えば、ベルナールに出した手紙(第4信)(岩波文庫)の中で言葉について、こんなふうに書いている。「何かをうまく語ることは、何かをうまく描…

1935 俯瞰(ふかん)って何ですか 庶民は政治を見ている

「総合的、俯瞰的観点に立って判断した」。日本学術会議の会員任命をめぐって、同会議から推薦された105人のうち6人が任命から外された問題で、加藤官房長官と菅首相は同じ説明を繰り返している。俯瞰は、高いところから見るという物理的意味と、物事を…