小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2017-01-01から1年間の記事一覧

1581 豪華列車とワンマン特急 JR九州の目指すもの?

ワンマンの特急列車がJR九州で運行されていることをある新聞記事を読むまで知らなかった。その記事は宮崎県の地方紙、宮崎日日新聞8月6日付朝刊に「災害時の対応大丈夫か」と題して掲載された「日曜論説」だった。筆者は共同通信宮崎支局の上野敏彦支局…

1580 小説『黒い雨』を読みながら 試される政府の本気度

『黒い雨』(新潮文庫)は、阿鼻叫喚の広島の街の姿を井伏鱒二という冷静な作家によってに描かれた原爆小説だ。この時期、本棚から取り出して再読する人もいるだろう。私もその一人である。この小説は原爆小説とはいえ、正面から政治上の主張はしていない。…

1579 大暑を乗り切ろう 国民的文芸に親しむ

「大暑」の季節である。熱気が体全体にまとわりつくほど蒸し暑い。一雨ほしいと思っていたら、滴が降ってきた。そんな一日、ある句会に参加した。「現代の俳人で歴史に残るのはこの人しかいない」と、句会の主宰者が評価する金子兜太は「俳句は、日本人にと…

1578 「長い物には巻かれよ」 守った人と守らなかった人

「長い物には巻かれよ」という言葉は「目上の人や勢力のある人には争うより従っている方が得である」(広辞苑)という意味だ。官僚の世界で、この言葉を守った人と守らなかった人の2つの例が日本と韓国で最近話題になった。どちらが多くの人に受け入れられ…

1577 沖ノ島はどんな島 藤原新也写真展を見る

古来、日本人は神に対する根強い信仰があった。その象徴ともいえるのが福岡県の玄界灘に浮かぶ小さな島、沖ノ島だ。東京・日本橋の高島屋で開催中の藤原新也の写真展「沖ノ島 神宿る海の正倉院」を見た。一般人・女人禁制といわれる沖ノ島(福岡県宗像市)は…

1576 消えた新聞の青春群像 増田俊也『北海タイムス物語』

「北海タイムス」という新聞があったことを北海道民の多くが記憶しているだろうか。1998(平成10)年9月に「休刊」宣言をして事実上の廃刊をしてからもう19年になる。この北海タイムスを舞台に、入社間もない整理部記者の苦闘を描いた増田俊也著『…

1575 日野原さん逝く 伝え続けた平和と命の大切さ

生涯現役を貫いた医師の日野原重明さんが18日亡くなった。105歳という日本人男性の平均寿命(80・75歳=2017年3月、厚労省発表。女性は86・99歳)を大きく超える長命の人だった。日野原さんが生まれたのは1911(明治44)年10月4…

1574 宇良の涙 小さな大力士の道へ

大相撲で小さい体の前頭4枚目、宇良が横綱日馬富士に勝った。テレビのインタビューで涙を流した宇良を見て、誰しも「よくやった」と思ったに違いない。つい数年前(大学2年生当時)60数キロしかなかった宇良が横綱に勝った事実は、人には不可能がないこ…

1573 「鷹乃学」のころ 猛暑を乗り越えて

鉢植えのインドソケイが咲いた。別名、プルメニアともいう。中米、西インド諸島が原産といわれる亜熱帯・熱帯の花である。香りがよくハワイのレイにも使われるから、日本人にもなじみの花といえる。このところ猛暑が続いていて人間にはつらい日々だが、植物…

1572 夢一筋の天の川 ウグイスが飛来した朝

7月に入って暑い日が続いている。庭では近くの調整池の森から飛んできたウグイスが鳴いている。きょうは七夕だ。天の川をはさんで夜空に輝く七夕の由来になった星(こと座のベガとわし座のアルタイ)を見上げる人たちもいるだろう。俳句愛好者は、夏目漱石…

1571 きのふの誠けふの嘘 アジサイの季節に

紫陽花やきのふの誠けふの嘘 正岡子規 アジサイの季節である。最近は種類も多いが、この花で思い浮かぶのは色が変化することだ。子規はそのことを意識して人の付き合い方についての比喩的な句をつくったのだろう。安倍首相の獣医学部をめぐる言動は子規の句…

1570 植物の三徳 清澄のユリ園を訪ねて

植物には三徳があると言ったのは、植物学者の牧野富太郎である。人間の生活に植物がいかに重要な役割を果たすかを示した言葉である。それは後述するが、牧野は「もしも私が日蓮ほどの偉物であったなら、きっと私は、草木を本尊とする宗教を樹立して見せるこ…

1569 目に優しい花菖蒲 一茶を思う一日

むらさきも濃し白も濃し花菖蒲 京極杜藻 うつむくは一花もあらず花菖蒲 長谷川秋子 近所の自然公園にある湿地で花菖蒲が見事に咲いた。その花は前掲の俳句の通り色はあくまで濃く、どの花も下を向いてはいない。歳時記によると、原種は野花菖蒲で江戸時代初…

1568 視覚障害者の希望とは 映画「光」が示す先は

光を失うということは、どのような恐怖なのかは経験者にしか分からない。新潟の知人もその一人である。映画「光」を見て、知人の苦しみを考えた。どら焼きづくりに、ささやかな希望を見つけたハンセン病回復者を描いた「あん」に続く、河瀬直美監督の作品だ…

1567 2つの大戦の過去とは決別できない 『ヨーロッパ炎上 新・100年予測』の結論

ヨーロッパの国々の関係は複雑だ。ヨーロッパをまとめていたEUは、イギリスの離脱決定によって今後の雲行きが怪しいし、シリアなどから押し寄せる難民問題は解決が困難だ。ジョージ・フリードマンの『ヨーロッパ炎上 新・100年予測』(ハヤカワ文庫)は…

1566 新しい青色の発見 この色のバラは普及したのか

つい先日、米オレゴン州立大学で「YInMnブルー」という鮮やかな新しい青色を発見した、というニュースが流れた。テロが相次ぐ時代、平和の象徴ともいわれる青い色に、新しい色が加わったことは喜ばしいことだと思う。 報道によると、新しい青色はオレゴ…

1565 5月の風に 春から夏へのバトンタッチ

今年の立夏は5日だった。ゴールデンウィークはほぼいい天気の日が続いた。それが終わると、天気はぐずついている。沖縄は間もなく梅雨に入るという。春から夏への移行の季節になった。旬の食べ物はタケノコである。故郷の竹林のことを思い出した。 この季節…

1564「戦争との決別は権利であり、義務である」 江崎誠致著『ルソンの谷間』再読

江崎誠致著『ルソンの谷間』(光人社)を再読した。この小説は1957(昭和32)年3月、筑摩書房から出版され、この年の7月、第37回直木賞を受賞している。江崎の体験を基に、太平洋戦争末期、米軍のフィリピン奪回作戦でマニラから撤退する日本軍兵…

1563 ナチに捕えられた画家の大作 ミュシャの『スラヴ叙事詩』

チェコ出身でよく知られているのは、音楽家のアントニン・ドヴォルザーク(1841~1904)である。音楽評論家の吉田秀和は「ボヘミアの田舎の貧しい肉屋の息子は、両親からほかに何の財産も与えられなくても、音楽というものをいっぱい持って、世の中…

1562 「生と死」にどう向き合う 草間彌生展にて

彫刻家、画家である草間彌生は、自伝『無限の網』(新潮文庫)の中で、「芸術の創造的思念は、最終的には孤独の沈思の中から生まれ、鎮魂のしじまの中から五色の彩光にきらめきはばたくものである、と私は信じている。そして今、私の制作のイメージは、『死…

1561 ブリューゲル『バベルの塔』を見て 傲慢への戒めを思う

ピーテル・ブリューゲル(1526/1530年ごろ~1569)は、2点の「バベルの塔」の作品を残している(もう1点描いたといわれるが、現存していない)。多くの画家がこのテーマで描いているものの、傑作の呼び声が高いのはブリューゲル作である。そ…

1560 「怖い絵」について 人の心に由来する恐怖

西洋絵画には、見る者に戦慄を感じさせるものが少なくない。そうした絵画を中野京子はシリーズで取り上げた。その第1作はラ・トゥールの『いかさま師』からグリューネヴァルトの『イーゼンハイムの祭壇画』まで22の作品を恐怖という視点で紹介した『怖い…

1559 こだまするホトトギスの初音 ウグイス・キジとの競演

朝、いつもより早く6時前に調整池を回る遊歩道を歩いていたら、ホトトギス(時鳥)とウグイス、キジが次々に鳴いているのが聞こえた。まさに野鳥のさえずりの協演だ。3種類の鳥が同時に鳴くなら三重奏(トリオ)という表現もできる。しかし、鳥たちは律義…

1558 苦闘する学芸員たち 政治家の発言にひるむことなかれ

これまで全国のさまざまな博物館や美術館を回り、学芸員から話を聞いた。彼ら、彼女らはいかにして、自分や同僚たちが企画した展覧会に多くの入場者を呼ぶか奮闘していた。そんな人たちに対し、山本幸三地方創生相が外国人観光客らへの文化財などの説明、案…

1557 『グローバル・ジャーナリズム――国際スクープの舞台裏』を読む

「こんにちは。私はジョン・ドウ(匿名太郎)。データに興味はあるか?」ドイツ・ミュンヘンの南ドイツ新聞の記者に、インターネットを通じて飛び込んできたこの一文が、タックスヘイブン(租税回避地)による世界各国の首脳や富裕層による資産隠し、課税逃…

1556 浅田真央の引退 記憶に残る美しい演技

フィギュアスケートの浅田真央が引退を表明した。26歳であり、10代の若い選手が台頭するフィギュアスケート界ではベテランの年齢に達し、ついに燃え尽きたといっていい。数えてみると、このブログで浅田をテーマに9回書いている。個人についてこれだけ…

1555 無知は万死に値する 「呉下の阿蒙」を思う

中国・三国志に呉の呂蒙という人物が登場する。彼は無学な武人だったが、主君の孫権から学問をするよう勧められ、勉学に励んだ。後年、旧友の魯粛という将軍がその進歩に驚き、「今はもう呉にいたころの蒙さん(阿はちゃんという意味)ではない」とほめたと…

1554 詩人が憂えた不満足時代 大岡信逝く

5日に亡くなった詩人の大岡信(まこと)は1980年代、パリに住んだことがある。当時、フランスでは大統領選があったが、それを見た大岡は「フランス人の大半は各人各様の正当な理由によって不満足だろう。もっと他にましな選択があるのではないかと思い…

1553 4月に思うこと 桜から感じる生命力

4月になっても、千葉市のわが家周辺では桜はまだ一部咲きである。東京は2日が満開だったことが信じられないくらいだ。ことしも既に4分の1が過ぎたが、このところ新聞、テレビのニュースを見て考えることが多かった。 国内では森友問題だ。8億円も値下げ…

1552 手負い稀勢の里の優勝  底知れぬ人間の力

大相撲春場所で左肩周辺にけがをし、優勝は絶望とみられた横綱稀勢の里が大関照ノ富士との対戦で勝ち、2敗同士で並んだ優勝決定戦でも連破、2場所連続2回目の優勝を果たした。NHKの実況中継で解説の北の富士さんは勝つという予想はしなかった。専門家も相撲…