小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1585 信じたい「人道主義」 バルセロナのテロに思う

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 スペインの大都市、バルセロナの中心部で通行人の中にワゴン車が突っ込むというテロがあり、これまでに13人が死亡、100人以上が負傷した。イスラム過激派による犯行とみられている。この街のメーンストリート、ランブラス通りでの惨事である。かつて私もこの通りを歩いた。全世界から集まった観光客を狙ったテロは信じられない思いだ。  

 私がこの街を歩いたのは2009年9月のことだから、間もなく8年になる。その日のバルセロナは、土砂降りだった。降りしきる雨の中、傘を差しながら歩いたのだが、体はびしょ濡れだった。だから、景色よりも雨に濡れたことが今も脳裏に焼き付いている。  

 この1年半後、日本は3・11東日本大震災に見舞われた。これに対し、スペインの人たちが支援の声を上げてくれた。スペインサッカーリーグでは、バルセロナセビリア戦の前に選手たちがピッチ中央に整列。サッカー場には「頑張れ、日本!僕らは君と共にいる」と日本語とスペイン語で記された横断幕が掲げられた。そして、スタンドのファンは総立ちになって連帯を訴えるアピールに応えたという。  

 それから6年。スペインでテロが起きた。ヨーロッパではテロが相次いでいる。その中でスペインは比較的穏やかだっただけに、国民には衝撃だっただろう。20日に開幕したスペインサッカーリーグでは、地元のFCバルセロナが、特別仕様のユニホームを着用し、犠牲者を追悼する「だれも私たちを苦しめることはできない」という横断幕も掲げた。  

 本来、スポーツと政治は無縁のはずだ。だが、そうはいかないことは昔も今も変わらない。スポーツは政治に利用されることは間違いない。第11回ベルリン五輪(1936年)が、ナチスドイツの国威発揚に使われたことは誰でも知っている。とはいえ、東日本大震災の時のバルセロナサッカー場の横断幕も、今回の横断幕と特別仕様ユニホームも政治とは無縁である。渋沢栄一は「人道に東西の別はない」と言った。  

 キリスト教勢力のレコンキスタ(国土回復運動)によって、イスラムが支配していたスペイン・グラナダアルハンブラ宮殿が陥落したのは、1492年のことである。それから525年、宗教をめぐる対立が依然絶えないことに嘆息する思いである。  

 江戸時代初期、仙台藩から派遣され、スペインに渡った支倉常長をモデルにした遠藤周作の『侍』(新潮文庫)を読んだ。支倉の渡航は意味のないものに終わった。人生は虚しいと思う。だが、支倉は後世に名を残した。それが救いといえる。  

 写真は、沖縄那覇首里城から見た夕日

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