小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

歴史

2867 時代を超えて歌いつがれるメロディー 「浜辺の歌」と秋田

豊作を思わせる黄金の稲穂の波 所用で秋田に行ってきた。市内を歩いていて、「成田」という姓の家が何軒かあることに気が付いた。秋田で成田といえば、『浜辺の歌』の作曲者、成田為三(1893~1945)がよく知られている。成田は北秋田郡米内沢町(現在の北秋…

2864 戦争に翻弄されたシャガール 『緑の自画像』を観る

夕焼けの下、風見鶏は何を思うのか うっかり屋の私は、一枚の絵を見て2人の女性が描かれていると思った。この絵は『緑の自画像』というタイトルが付いたマルク・シャガール(1887~1985)の作品だ。ということは、この絵の中心にいる人物は男性のシ…

2861 ラスト掲載の季語は「吾亦紅」 待ち遠しい秋の到来

オミナエシ(女郎花)の中にひっそりと咲く吾亦紅 俳句歳時記(角川学芸出版)の季語索引の最後に掲載されているのが「吾亦紅」(われもこう)だ。秋の季語で、山野で見ることができるバラ科の多年草のことだ。「高原の風に吹かれているさまなどは少し淋しげ…

2860「帽子を食べる」政治家 「首をやる・腹を切る」と同義語

クロアチアの音楽家たちの街頭演奏風景。帽子の人は奥に1人だけ。 世間には「私の言うことには間違いがない」という自信家がけっこう多い。日本では間違っていたなら「首をやる」とか「腹を切る」という言葉も使われるが(私は言ったことはない)、西洋では…

2858 子を守る母親の強さ 藤原てい『流れる星は生きている』再読

かつて多くの日本人が住んでいた旅順の街並み 戦後80年。新聞には、さまざまな太平洋戦争にまつわる記事が載っている。ソ連の参戦・侵攻による旧満州(中国東北部)からの日本人避難民の悲劇も当然含まれている。その一つである、藤原ていさん(1918-2016…

2857 甲子園の短い校歌 家族も応援の沖縄尚学

夏の象徴・積乱雲 甲子園の夏の高校野球は、沖縄代表の沖縄尚学が西東京代表の日大三高を3-1で破って優勝した。選抜大会では2回優勝しているが、夏は初めて。沖縄勢の夏の大会優勝は2010年の沖縄興南以来だという。沖縄尚学の短い校歌を聞きながら、…

2855 マロニエの下の子どもたち 処暑前の朝に

マロニエが朝日に輝いている 毎日「暑い、暑い」と言いながら、生活している。暦の上ではとうに「立秋」は過ぎ、23日が「処暑」なのだ。暑さが少しやわらぎ、朝の風や夜の虫の声に、秋の気配が漂うころ、といわれている。猛暑に耐えながら、近づく秋の足音…

2854 絵画に劣らない言葉の芸術 石垣りん「不出来な絵」

今が盛りのノウゼンカズラの花 「何かをうまく語ることは、何かをうまく描くことと同様に難しくもあり面白いものだ。線の芸術と色の芸術とがあるように、言葉の芸術だってそれより劣るものじゃない」 フィンセント・ゴッホが弟テオに出した手紙(岩波文庫『…

2853 私たちの「駆け出し」時代 先輩の死を悼んだ便り

紫色のオシロイバナ 部屋に積んだままの資料の整理をしていたら、4年前のコロナ禍のころに出した手紙の下書きが出てきた。人生の先輩、Yさんの逝去を知らされ、奥さんに出したお悔みの手紙だった。そこには記者としての駆け足時代のことが書かれていた。懐…

2850 「エルベの誓い」はどこに 当事国抜きの米露首脳会談

植え込みの中にひっそりと「オオミズアオ」が トランプアメリカ大統領とプーチンロシア大統領が、ウクライナの停戦をめぐってアラスカで会談した。その内容はこのブログを書いている段階では分かっていない。侵略を受けた当事国のウクライナを抜きにしての会…

2849 それぞれの「涙の日」 家族の悲しい風景

北海道・美瑛の丘の風景 8月15日は『涙の日』なのかもしれない。80年前、日本は敗戦した。戦時中多くの涙が流れたが、特にこの日がピークだっただろう。『涙の日』といえば、モーツァルト作曲の「レクイエム ニ短調」第8曲「ラクリモサ」のことだが、…

2848 備蓄米5キロ・銘柄米4キロ 令和の米騒動余話

キバナコスモス(手前)とハルシャギク スーパーに行くと、入り口付近の目立つ場所に「備蓄米」が山積み状態になっている。5キロで2000円前後。「倉庫に売るほどもらった米がある」と演説し、事実上の更迭となった江藤拓前農水相の後を継いだ小泉進次郎…

2846 遠くて近い「戦争と平和」 核兵器と原発について

山口・萩の海岸にて 「核兵器と原子力発電は、一方が『戦争』に属し、他方が『平和』に属するという意味では、かぎりなく遠い。しかしどちらも核分裂の連鎖反応の結果であるという意味では、きわめて近い」。評論家の加藤周一は核と原発について、『夕陽妄語…

2845 暑さを忘れるぞっとする話 人間の心根は優しい

暑さを忘れるには、ぞっとする怪談や不可思議な話を聞くこともいいかもしれない。投書欄で、そんな話を特集した新聞もあるほどだから、このところ日本の夏の暑さは尋常ではない。東日本大震災後、被災地では幽霊現象が相次ぎ、大学のゼミの研究材料になった…

2844 「恕」を思い起こす出来事  爆心地と奇跡の一本松で

陸前高田市の「奇跡の一本松」モニュメント 新聞の投書欄に、広島原爆の爆心地で大学生らしい若者が「爆心地」という表示を見て爆笑していた、という驚くべき話が載っていた。どのような感覚で笑ったのだろう。私には理解できない。似たような恥ずべき出来事…

2843 ヒグラシは悲しき鳴き声 乗り越えれば光が……

美しい国宝・犬山城天守 蜩(ひぐらし)や悲しみ過ぎて笑つちやふ この句を見て、国宝犬山城を思い浮かべる人は、相当俳句に詳しいに違いない。この城は愛知県犬山市にあり、日本の城では松本(長野県)、彦根(滋賀県)、姫路(兵庫)、松江(島根県)とと…

2842 海は平和と修羅場 ゴッホの海景からの独言

夕暮れのエーゲ海 猛暑が続くと、海や山に行きたいと思う人は多いだろう。出掛けるのは面倒なら、せめて絵や写真、あるいは映画を見て涼を味わうことも一つの方法だ。絵といえば、以前東京都美術館で見たことがあるフィンセント・ゴッホ(1853—1890)の「サ…

2840 家族愛にあふれた別れの言葉  原爆に斃れた20歳の学生の手記

萩に似た小さな花のコマツナギ 広島・長崎で夥しい人たちが命を落とした。その一人の遺書を読み返した。東大在学中に学徒出陣、陸軍少尉として派遣された広島で被爆した鈴木実さん(当時20歳)の家族愛にあふれた遺書である。『きけ わだつみのこえ』(日…

2839 近づいているのか「秋隣」 広島・長崎にも露草が

ひっそりと咲くツユクサ 昔から「二八(にっぱち)」という言葉がある。2月と8月は商売の売り上げが落ちる月ということが語源だそうだ。2月は年末年始の反動で需要が落ち込み、8月は暑さとお盆休みで物が売れない、ということだ。かつてこの二八現象は、…

2835 会津に去った幼な友だち 印象に残る国宝薬師如来

満開のノウゼンカズラ 日本には様々な仏像がある。奈良と鎌倉の大仏はだれでも知っていて、仏像というとこの2つの大仏を頭に浮かべる人が多いのではないだろうか。私は大仏以外に福島県会津の国宝を挙げる。それは会津の象徴、磐梯山を臨む湯川村の古刹、真…

2834 孤児院の少女オーケストラ バロックのヴィヴァルディが育ての親

夕方、散歩コースの調整池の風景は透明感があった 孤児たちを質の高いオーケストラの一員に育てあげるという音楽教師としても手腕を発揮したバロック音楽の巨匠といえば、イタリアのアントニオ・ヴィヴァルディ(1678—1741)だ。季節の折々に彼のヴァイオリ…

2833 既視感覚える谷川俊太郎の詩 三木おろしと石破おろし

熱帯アジア・アフリカ原産のグロリアサの花 総理大臣ひとりを責めたって無駄さ 彼は象徴にすらなれやしない きみの大阪弁は永遠だけど 総理大臣はすぐ代わる 谷川俊太郎の詩集『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』(青土社)の中の一節だ。この詩集…

2832 消えた?夏の風物詩 風鈴よどこに

葉がバナナに似ているプルメリアの花 風鈴の音を点ぜし軒端かな 高浜虚子 軒先から風鈴の音が聞こえる、そんな風情を感じることが最近はあまりない。猛暑が続き、風も弱く、私の部屋はエアコンのために閉め切っており、折角の風鈴も用がない。江戸時代風鈴売…

2831 素材は差別された人たち ドヴォルザークの訴え

『家路』の歌が聞こえるようだ クラッシックの中の交響曲でポピュラーな作品の代表格といえば、チェコ・ボヘミア生まれのアントニン・ドヴォルザーク(1841—1904)の「新世界より」という愛称で呼ばれる「第9番 ホ短調作品95」かもしれない。中でも第2楽…

2830 猛暑忘れるひととき 夕焼けの詩(うた)

夕焼けを見て、あなたは何を思いますか鳥になって近くを飛んでみたら気持ちがいいだろうな郷愁や思い出に浸る人が多いかもしれません子どもの頃友だちと手をつないで帰ったこと「夕焼け 小焼け」を一緒に歌ったこと人の心を和ませる太陽と雲の見事な演出美し…

2828 世界遺産の地で武力衝突 カンボジアのプレアビヒア寺院遺跡

雲が怒っているような西の夕空 タイとカンボジアの間で国境をめぐって武力衝突が起きている。世界(文化)遺産の地だ。人類共通の財産ともいうべき世界遺産が争いの原因になっているのは、不幸なことである。その場所はカンボジア北部プレアビヒア州のダンレ…

2826「朋遠方より来たる」 友人たちから教わる生き方

孔子の言葉と弟子たちとの問答を集めたといわれる「論語」の最初は「学而第一」で冒頭によく知られている言葉が出てくる。《子曰く、学びてこれを習う。亦説(またよろこ)ばしからずや。朋遠方より来たる有り。亦楽しからずや。人知らずして慍(いた)らず…

2825 にぎやかな「風の道広場」 ラジオ体操に大勢の子どもたち

北海道や東北、日本海側、長野などの一部の道県を除き全国の小中高校は19日から夏休みに入っている。夏休みの朝といえばラジオ体操だ。私も子どもの頃、近所の神社の境内に行き、体操をやったことを鮮明に覚えている。現在、私が参加している近所の広場で…

2823 卑劣漢は望遠鏡と同じ ケストナーの性悪説

今朝のラジオ体操広場の上空の雲 第二次大戦中、ナチスににらまれながら、ぎりぎりまでドイツにとどまっていた作家のエーリッヒ・ケストナー(1899~1974)は、かなり辛辣な言葉を残している。その中の一つに「卑劣漢」に対する厳しい見方がある。子…

2822 土用の丑の日とうなぎ 源内先生のPR効果 

土用丑の日、夕方は美しい夕焼けが 昨日のブログで触れた通り、今日19日は土用の丑の日だ。土用は立秋前の18日間をいい、この時期にある丑の日が土用の丑の日だ。暑い盛り、夏バテをしないよう昔からうなぎをはじめ土用しじみ、土用餅、土用卵など精のつ…