小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

福祉

2771 「あの時の苦労が心の支えに」 『今しかない』11号から(2)完

上向きに咲くスカシユリ:ロリポップ 「苦労人」という言葉がある。「多くの苦労を経験し、世の中のことや人情に通じている人」(新明解国語辞典)のことである。米の値段が高騰している中、講演で「コメは買ったことはない。支援者の方々がたくさんコメをく…

2770 「苦労から得たものは」 『今しかない』11号から(1)

白のシャクヤク(ボタン同様、ややピンクがかって見える) 「苦労」という言葉を辞書で引く。「困難な条件下で何かをやろうとして肉体的(精神的)に多くの労力を費やすこと」(新明解国語辞典)、「苦しみつかれること」「骨を折ること。心配。労苦」(広辞…

2661 大切な人への静かな思い 『今しかない』10号から(2)完

喜び、悲しむ、そんなことのために、 人間は生まれてきたものではないのです。 働く、そして、きょうはきのうより一歩前進する、 これが人生の目的、人間の生き方です。 ⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄ アメリカの詩人H・W・ロングフェロー(1807~1882)の『人生の…

2660 出会いと別れ……会いたい人たち 『今しかない』10号から(1)

「人生邂逅し、開眼し、瞑目す」。北海道函館出身の文芸評論家亀井勝一郎(1907~1966)が残した言葉(『愛と結婚の思索』大和書房)です。「人生は多くの出会いを通じて物事を知り、それまで見えていなかったものが見えるようになって、終わりの時を迎える…

2617 継続は希望の光 『今しかない』と『石楠花だより』

「継続は力なり」という言葉がある。どんな小さなことでも努力を続けていれば、いつかはよい結果につながることを意味し、物事は続けることに意義があることを表している。世の中には、そうした例は少なくない。友人が編集協力している社会福祉施設の聞き書…

2538  水俣病懇談のマイク音切り ある官僚の死遠く

(帰化植物のブタナが繁殖している) 伊藤環境相と水俣病患者団体8団体との懇談会で、患者団体の発言中に環境省側が発言をやめさせるため、マイクの音を切ったことがニュースになっている。患者団体が国への要望を伝えるはずの懇談が台無しになってしまった…

2310「拝啓 お元気ですか」遠くの人たちへ(2)

(千葉県鋸山日本寺の大仏・薬師瑠璃光如来=座像の石仏としては日本一の大きさ) 今、地球には80億人以上の人たちがおり、それぞれに個性ある生き方をしている。『今しかない』第7号の「拝啓 お元気ですか」に描かれた人々もまた、懐かしい思い出の中に…

2309「拝啓 お元気ですか」 愛おしい人たちへ(1)

「拝啓 お元気ですか」。人それぞれに、こんな言葉で呼びかけてみたい大事な人がいる。これまで何度かこのブログで紹介している小冊子『今しかない』第7号は、この言葉をテーマに、短い言葉で邂逅の思いが綴られている。鮮烈なきらめきを感じる言葉の凝縮に…

2273『現代を歩く』(25)「病気になってからお父さんの笑顔を初めて見た」 難病の子どもが遊ぶ夢のキャンプ場

(白銀の世界のそらぷちキッズキャンプ)このコラム『現代を歩く』の1回目で「支え合う小さな命 小児がんの子どもたち」(こちら→)と題して石川福美さんと結城桜ちゃんの話を紹介した。そんな難病と闘う子どもたちが外気を思い切り吸い、自然に親しむこと…

2243『現代を歩く』(8)難病を超えて 人間は強いのだ

天道荒太の小説『悼む人』は、親友の死をきっかけに、会社をやめて全国を放浪しながら、事件や事故で命を落とした人に対し悼(いた)むという慰霊行為を続ける青年の物語だ。生きることが大変な時代に、天童は人間の尊厳とは何かを私たちにこの作品で問いか…

2154 命をつなぐ歌声を聴く 白血病発病から10年の友人

白血病を克服した年若い友人がいる。現在は元気な日々を送りながら、命を助けてもらった多くの人たちへの感謝の思いを伝える活動を続けている。「横浜プレガンド音心(おんころ)」という、音楽を通した骨髄バンクドナー登録の啓発活動だ。11日(土)には横…

2101 医師受難の時代に「ひとすじの道」への思い

医師の受難が続いている。コロナ禍で多くの医師たちが多忙を極めている中、埼玉県ふじみ野市で猟銃を持った男が在宅訪問診療の医師を射殺した事件が起きた。大阪では12月、北区の心療内科クリニックで患者の男がガソリンを使って放火、院長ら25人が殺害…

2085 それぞれの故郷への思い『今しかない』第4号から

よく知られている室生犀星の「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しく歌ふもの」は、『小景異情』という詩の「その2」にあり、望郷の詩句の代表ともいえる。人は年老いるほど、故郷への思いが強くなるのかもしれない。このブログで何度か紹介した『今…

2068 学ぶことを忘れると堕落する 2つのニュースを読んで

最近2つの新聞記事に驚いた。いずれも政治にかかわるニュースであり、政治の信頼とは何かを考えさせられたのは私だけではないはずだ。近くにあった高橋健二訳『ゲーテ格言集』(新潮文庫)を見ていたら、「有能な人は、常に学ぶ人である」という言葉が出て…

2067 自分の信じる道を真っ直ぐ歩いた人 ある長い墓碑銘

かつて取材で知り合った東京のNさんがことし1月に亡くなったと、奥さんから喪中のはがきが届いた。間もなく11月。そろそろ年賀状を書く季節が近づいている。Nさんとは、中国まで一緒に旅をしたことがある。脳梗塞で倒れ、1年間は車いす生活を送り、奥…

2042 五輪選手のメダルでの貢献 スポーツと現代社会

東京五輪の陸上・女子やり投げで銀メダルを獲得したポーランドのマリア・アンドレイチェク選手が、重病の男の子の手術費用にと、メダルをオークションに出品した話題を外電で知った。メダルは1900万円で落札され、さらに多くの寄付が集まっているという…

2016 「苦しんでいても微笑みを」『今しかない』(2)完

「ユーモアとは、にもかかわらず笑うこと(Humor ist,wenn man trotzdem lacht)」。これはドイツ語のユーモアの定義で、2020年9月6日、88歳で亡くなった上智大名誉教授アルフォンス・デーケンさんの講義で聞いたことがあります。デーケンさんは日本…

2015「笑顔を取り戻そう!」『今しかない』第3号から(1)

長引くコロナ禍によって、世の中から笑顔が消えてしまったようです。日々のニュースは暗い話題ばかりだと感じます。そんな時、『今しかない 笑顔』という小冊子が届きました。友人もボランティアとして運営に協力している埼玉県飯能市の介護老人保健施設・飯…

1957『今しかない』が第2号に 哀歓の人生模様

朝6時の気温は4度。昨日(氷点下1度)より5度高い。東南の空に、明けの明星(金星)が輝いている。日本海側では新潟を中心に大雪が降り、関越道で2000台以上の車が一時立ち往生した。一方、太平洋側はカラカラの天気が続き、房総半島の一部では水不…

1917 8年間に6000キロを徒歩移動 過酷な運命を生き抜いた記録

今年5月、このブログで『今しかない』(埼玉県飯能市の介護老人保健施設、楠苑・石楠花の会発行)という小冊子を紹介した。この中に「「私の人生は複雑で中国に居たんです。抑留されて8年間いました。野戦病院だったから、ロシアの国境近くから南の広東ま…

1884 永遠ではないから尊い 薬師如来とお地蔵さんのこと

薬師如来という仏像がある。諸病を癒し寿命を延ばしてくれるという功徳があるといわれ、わが国では7世紀ごろから信仰されている。国宝である奈良・薬師寺の薬師三尊像(薬師如来、脇侍の日光菩薩・月光菩薩)はよく知られているが、私は福島県会津地方にあ…

1883「 栄冠は君に輝く」を歌おう『今しかない』(2)完

前回に続き、『今しかない』(埼玉県飯能市・介護老人保健施設飯能ケアセンター楠苑、石楠花の会発行)という小冊子に絡む話題を紹介する。夏の全国高校野球大会が春の選抜大会に続いて中止になった。楠苑は全国高校野球連盟(高野連)に対し、この冊子など…

1882 『今しかない』 短い文章で描くそれぞれの人生(1)

それぞれの人生を垣間見るような思いで、凝縮された文章を読んだ。埼玉県飯能市の介護老人保健施設・飯能ケアセンター楠苑(1997年6月2日開設、定員98名)石楠花の会発行の『今しかない』という44頁の小冊子である。頁をめくるとほとんどの文章が…

1089 日本初の小児がんの夢の病院が完成 行政の無知で全面オープンに難題

神戸市中央区のポートアイランドに小児がんと闘う子どもと家族のための「夢の病院・チャイルド・ケモ・ハウス」がほぼ完成した。NPOチャイルド・ケモ・ハウスが各方面の支援を得て総工費7億円で建設した日本初の小児がん専門治療施設だ。 4月からオープ…

952 障害者支援を貫いたある人生 末期がんと闘ったYさん

知人の女性がこの2月、がんで亡くなった。末期のがんに侵され入退院を繰り返しながら、仕事に最後まで情熱を注いだ人生だった。2月初めに入院し、ついに仕事に復帰することはできなかった。 彼女が末期のがんに侵されているとは知らなかったから、他の人も…

776 人生3分割論を実践  続・琵琶湖一周の旅

琵琶湖の北側にある高島市マキノ町で会った高橋英夫さんが実践している「人生3分割論」は、民法学者の故末川博氏が提唱したものだ。人生は、第1段階が「生まれてから25歳」までの「人の世話になる期間」、第2段階が「25歳―50歳」までの「世の中に尽…

770 99歳と零歳 澄んだ心

先日、聴覚障害の子どものために日本手話を第一言語に、日本語の読み書き(書記日本語)を第二言語として教える「明晴学園」を訪問した。 東京都品川区八潮の廃校になった小学校を利用した日本初のバイリンガルの私立ろう学校だ。この学校に通う子どもたちの…

763 伊達直人現象はどこまで 一過性の日本社会

日本の年間の寄付総額は、個人と法人を合わせると約1兆円になるという「寄付白書」がつい最近、日本ファンドレイジング協会から発表された。しかし、その多くは宗教関係だという。その矢先に、タイガーマスクの伊達直人を名乗る人物から児童養護施設にラン…

480 かあさんの家その後 人生終末期の過し方

宮崎市にあるホームホスピス「かあさんの家」を訪問したのは今年1月のことだった。そこには、ヘルパーとともに、5人のお年寄りが住んでいた。認知症や末期のがんを抱え、人生最期のときを迎えようとしている人たちだ。7月16日夜、NHKがこの家をドキュメ…

405 生と死への問いかけ 天童荒太「悼む人」

本の題を見ただけでは、内容はなかなか想像できない。しかし、手に取るとその内容の濃さに心がうずく。天童荒太はベストセラーになった「永遠の仔」以来8年ぶりにこの本を出版した。 変わった題名だ。読み進めていくうちに、頭の中ではこのような「悼む人」…