小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

福祉

2101 医師受難の時代に「ひとすじの道」への思い

医師の受難が続いている。コロナ禍で多くの医師たちが多忙を極めている中、埼玉県ふじみ野市で猟銃を持った男が在宅訪問診療の医師を射殺した事件が起きた。大阪では12月、北区の心療内科クリニックで患者の男がガソリンを使って放火、院長ら25人が殺害…

2085 それぞれの故郷への思い『今しかない』第4号から

よく知られている室生犀星の「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しく歌ふもの」は、『小景異情』という詩の「その2」にあり、望郷の詩句の代表ともいえる。人は年老いるほど、故郷への思いが強くなるのかもしれない。このブログで何度か紹介した『今…

2068 学ぶことを忘れると堕落する 2つのニュースを読んで

最近2つの新聞記事に驚いた。いずれも政治にかかわるニュースであり、政治の信頼とは何かを考えさせられたのは私だけではないはずだ。近くにあった高橋健二訳『ゲーテ格言集』(新潮文庫)を見ていたら、「有能な人は、常に学ぶ人である」という言葉が出て…

2067 自分の信じる道を真っ直ぐ歩いた人 ある長い墓碑銘

かつて取材で知り合った東京のNさんがことし1月に亡くなったと、奥さんから喪中のはがきが届いた。間もなく11月。そろそろ年賀状を書く季節が近づいている。Nさんとは、中国まで一緒に旅をしたことがある。脳梗塞で倒れ、1年間は車いす生活を送り、奥…

2042 五輪選手のメダルでの貢献 スポーツと現代社会

東京五輪の陸上・女子やり投げで銀メダルを獲得したポーランドのマリア・アンドレイチェク選手が、重病の男の子の手術費用にと、メダルをオークションに出品した話題を外電で知った。メダルは1900万円で落札され、さらに多くの寄付が集まっているという…

2016 「苦しんでいても微笑みを」『今しかない』(2)完

「ユーモアとは、にもかかわらず笑うこと(Humor ist,wenn man trotzdem lacht)」。これはドイツ語のユーモアの定義で、2020年9月6日、88歳で亡くなった上智大名誉教授アルフォンス・デーケンさんの講義で聞いたことがあります。デーケンさんは日本…

2015「笑顔を取り戻そう!」『今しかない』第3号から(1)

長引くコロナ禍によって、世の中から笑顔が消えてしまったようです。日々のニュースは暗い話題ばかりだと感じます。そんな時、『今しかない 笑顔』という小冊子が届きました。友人もボランティアとして運営に協力している埼玉県飯能市の介護老人保健施設・飯…

1957『今しかない』が第2号に 哀歓の人生模様

朝6時の気温は4度。昨日(氷点下1度)より5度高い。東南の空に、明けの明星(金星)が輝いている。日本海側では新潟を中心に大雪が降り、関越道で2000台以上の車が一時立ち往生した。一方、太平洋側はカラカラの天気が続き、房総半島の一部では水不…

1917 8年間に6000キロを徒歩移動 過酷な運命を生き抜いた記録

今年5月、このブログで『今しかない』(埼玉県飯能市の介護老人保健施設、楠苑・石楠花の会発行)という小冊子を紹介した。この中に「「私の人生は複雑で中国に居たんです。抑留されて8年間いました。野戦病院だったから、ロシアの国境近くから南の広東ま…

1884 永遠ではないから尊い 薬師如来とお地蔵さんのこと

薬師如来という仏像がある。諸病を癒し寿命を延ばしてくれるという功徳があるといわれ、わが国では7世紀ごろから信仰されている。国宝である奈良・薬師寺の薬師三尊像(薬師如来、脇侍の日光菩薩・月光菩薩)はよく知られているが、私は福島県会津地方にあ…

1883「 栄冠は君に輝く」を歌おう『今しかない』(2)完

前回に続き、『今しかない』(埼玉県飯能市・介護老人保健施設飯能ケアセンター楠苑、石楠花の会発行)という小冊子に絡む話題を紹介する。夏の全国高校野球大会が春の選抜大会に続いて中止になった。楠苑は全国高校野球連盟(高野連)に対し、この冊子など…

1882 『今しかない』 短い文章で描くそれぞれの人生(1)

それぞれの人生を垣間見るような思いで、凝縮された文章を読んだ。埼玉県飯能市の介護老人保健施設・飯能ケアセンター楠苑(1997年6月2日開設、定員98名)石楠花の会発行の『今しかない』という44頁の小冊子である。頁をめくるとほとんどの文章が…

1707 感動の手紙の交換 骨髄移植シンポを聴く

命が大事であることは言うまでもない。人間にとってそんな基本的なことをあらためて考える機会があった。骨髄移植に関するシンポジウムでのことである。骨髄移植。日常的にはこの言葉を聞くことは少なくない。だが、その実情は私を含め、多くの人は知らない…

1699 できるのかパラリンピック 障害者雇用水増しの国なのに

かつて、職場の同僚に半身が不自由な同僚がいた。彼女は自由な方の手でパソコンを打ち、きっちりと仕事をこなしていた。誠実でまじめだから同僚たちから信頼されていた。障害者雇用で採用された一人だった。障害者雇用の義務がある国の行政機関の多くで雇用…

1670 虐待死と新幹線殺人 満席の『万引き家族』

東京都目黒区のアパートで船戸結愛ちゃんという5歳の女の子が虐待で死亡、継父と実母が逮捕されたのに続き、走行中の新幹線車内で22歳の男が乗客を刃物で襲い、女性客を守ろうとした男性が殺される事件が起きた。2つの事件とも家族の在り方が問われる深…

1596 病室は高齢化社会の縮図 わが入院記

足のひざ付近のけがで26日間にわたって、入院する羽目になった。当初、手術から1週間程度で退院できるのではないかという医師の話だった。だが、実際に患部を開いてみると傷は大きく、結果的に1カ月近い入院生活を送らざるを得なかった。入院した4人部…

1423 苦難の中での発想 新潟のオリーブ栽培

クイズ番組で優勝を目指す物知りは別にして、人間には知らないことが少なくない。オリーブについてもそうだった。オリーブといえば、実から採ったオリーブ油がすぐに頭に浮かぶ。だが、その葉も実は効用があることが知人からの連絡で知った。 知人は新潟市で…

1356 福美ちゃんへ 《悲しみを経て》

街路樹の中で特に存在感があるのはけやきである。いまの季節はけやきの緑の葉が目に優しく、その緑に見守られるようにして子どもたちが陽光の中を歩いている。その姿を見て、ふと「福美ちゃん」のことを思った。 私は福美ちゃんとは面識がない。だが、福美ち…

1089 日本初の小児がんの夢の病院が完成 行政の無知で全面オープンに難題

神戸市中央区のポートアイランドに小児がんと闘う子どもと家族のための「夢の病院・チャイルド・ケモ・ハウス」がほぼ完成した。NPOチャイルド・ケモ・ハウスが各方面の支援を得て総工費7億円で建設した日本初の小児がん専門治療施設だ。 4月からオープ…

1050 ベスト1の小説「ことり」 メルヘンながら現実社会を投影

ことしも残すところ1カ月余になった。種々雑多な本を読んだ中で、私にとってこれまでのベスト1は、小川洋子著「ことり」である。同じ作者の作品で映画にもなった「博士の愛した数式」も心に残る1冊だったが、それと並ぶ上質な小説だと思う。 朝日新聞の文…

996 オリーブを「自立」の象徴に 九州・安徳台にて

スペインやイタリア、ニュージーランドで広大なオリーブ畑を見たことがある。当時、土地の狭い日本ではオリーブ栽培は無理だと思い込んでいたが、九州を旅してその認識を改めた。日本のオリーブの最大の産地は香川県小豆島である。だが、いまや九州が小豆島…

952 障害者支援を貫いたある人生 末期がんと闘ったYさん

知人の女性がこの2月、がんで亡くなった。末期のがんに侵され入退院を繰り返しながら、仕事に最後まで情熱を注いだ人生だった。2月初めに入院し、ついに仕事に復帰することはできなかった。 彼女が末期のがんに侵されているとは知らなかったから、他の人も…

776 琵琶湖一周の旅の途中に(続) 末川博氏の人生3分割論を実践する人

琵琶湖の北側にある高島市マキノ町で会った高橋英夫さんが実践している「人生3分割論」は、民法学者の故末川博氏が提唱したものだ。 人生は、第1段階が「生まれてから25歳」までの「人の世話になる期間」、第2段階が「25歳―50歳」までの「世の中に…

770 99歳と零歳 澄んだ心

先日、聴覚障害の子どものために日本手話を第一言語に、日本語の読み書き(書記日本語)を第二言語として教える「明晴学園」を訪問した。 東京都品川区八潮の廃校になった小学校を利用した日本初のバイリンガルの私立ろう学校だ。この学校に通う子どもたちの…

763 伊達直人現象はどこまで 一過性の日本社会

日本の年間の寄付総額は、個人と法人を合わせると約1兆円になるという「寄付白書」がつい最近、日本ファンドレイジング協会から発表された。しかし、その多くは宗教関係だという。その矢先に、タイガーマスクの伊達直人を名乗る人物から児童養護施設にラン…

681 揺らぐ長寿大国 コシヒカリの地元で山河を思う

「夏は暑いのは当然だ」と言いながら、汗を拭き拭きやせ我慢して毎日を送っている。 時には、旅もする。 久しぶりに新潟に行ってきた。本当に久しぶりだ。新潟市内は人が多いが、少し町はずれに行くと、もう人影は少ない。ホテルの部屋でテレビを見ると、所…

636 高齢化社会の現実を投影 映画「春との旅」

仲代達也と徳永えりの「春との旅」という映画を見て、高齢化社会の現実の厳しさを思った。近所でも高齢者の1人暮らしが増えている。この映画は、世界でも類例のない超高齢化社会が進行中の日本の話なのである。 元漁師の祖父・忠男(仲代)は学校給食の仕事…

630 途上国の子どもたちの悲惨な現実

テレビを見ていたら、国際労働機関(ILO)の調査で世界中の5歳から17歳までの子どものうち、7人に1人に当たる約2億1500万人が「児童労働」に従事していることが明らかになったというニュースをやっていた。 児童労働というのは、子どもたちが長…

556 89歳とひ孫の感動の物語 You Tubeの「まりもマジック」

インターネットの変化を一番感じるのが動画だろう。電話回線、ADSL、そして現在の光ファイバーへとその接続手段が変わる度に速度が増して、現在ではテレビも視聴することができる。こんな時代を背景に動画サイト「You Tube」が急速に普及し、知人の動画…

550 介助犬の受難 JRの無知に思う

公共交通機関の代表ともいえるJRは、国鉄時代から徹底した合理化が進み、ラッシュ時でもホームには駅員の姿はほとんど見かけない。 自殺多発時代、ホームから電車に飛び込む人が後を絶たない。その結果、JRのダイヤはよく乱れる。JR(東日本)鎌取駅(…