小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2868 虹への祈りの季節 人生の哀歓描く未明の童話

西の空に立った9月の二重の虹 今日9月7日は旧暦二十四節気の「白露」に当たる。大気が冷えてきて露が白く見えるという意味で、夏から秋へと季節が移る頃のことを指す。とはいえ昨今は夏が長く、秋の到来はいつになるのかと、ため息が出る。そんな朝、ラジ…

2867 時代を超えて歌いつがれるメロディー 「浜辺の歌」と秋田

豊作を思わせる黄金の稲穂の波 所用で秋田に行ってきた。市内を歩いていて、「成田」という姓の家が何軒かあることに気が付いた。秋田で成田といえば、『浜辺の歌』の作曲者、成田為三(1893~1945)がよく知られている。成田は北秋田郡米内沢町(現在の北秋…

2862  山頭火の「孤寒」と「業」 放浪の俳人の生き方

近所で見つけたオミナエシ(女郎花)の群生 疲れた時や気持ちが落ち込んだ時、私は1冊の本を取り出す。放浪の自由律句の俳人、種田山頭火(1882—1940)の「山頭火句集」(ちくま文庫)だ。この本の頁をパラパラとめくり、そこにある句や随筆に目を向ける。…

2861 ラスト掲載の季語は「吾亦紅」 待ち遠しい秋の到来

オミナエシ(女郎花)の中にひっそりと咲く吾亦紅 俳句歳時記(角川学芸出版)の季語索引の最後に掲載されているのが「吾亦紅」(われもこう)だ。秋の季語で、山野で見ることができるバラ科の多年草のことだ。「高原の風に吹かれているさまなどは少し淋しげ…

2858 子を守る母親の強さ 藤原てい『流れる星は生きている』再読

かつて多くの日本人が住んでいた旅順の街並み 戦後80年。新聞には、さまざまな太平洋戦争にまつわる記事が載っている。ソ連の参戦・侵攻による旧満州(中国東北部)からの日本人避難民の悲劇も当然含まれている。その一つである、藤原ていさん(1918-2016…

2845 暑さを忘れるぞっとする話 人間の心根は優しい

暑さを忘れるには、ぞっとする怪談や不可思議な話を聞くこともいいかもしれない。投書欄で、そんな話を特集した新聞もあるほどだから、このところ日本の夏の暑さは尋常ではない。東日本大震災後、被災地では幽霊現象が相次ぎ、大学のゼミの研究材料になった…

2841 曲がり角の甲子園 危険な夏の高校野球大会

夕方の東の空に出た珍しい形の雲 甲子園は高校球児の聖地なのか……。夏の全国高校野球が甲子園球場で始まった。しかし近年の猛暑続きの結果、試合時間は午前8時から午前2試合、午後4時15分から午後の2試合、という変則的な時間帯で実施されている。だが…

2840 家族愛にあふれた別れの言葉  原爆に斃れた20歳の学生の手記

萩に似た小さな花のコマツナギ 広島・長崎で夥しい人たちが命を落とした。その一人の遺書を読み返した。東大在学中に学徒出陣、陸軍少尉として派遣された広島で被爆した鈴木実さん(当時20歳)の家族愛にあふれた遺書である。『きけ わだつみのこえ』(日…

2835 会津に去った幼な友だち 印象に残る国宝薬師如来

満開のノウゼンカズラ 日本には様々な仏像がある。奈良と鎌倉の大仏はだれでも知っていて、仏像というとこの2つの大仏を頭に浮かべる人が多いのではないだろうか。私は大仏以外に福島県会津の国宝を挙げる。それは会津の象徴、磐梯山を臨む湯川村の古刹、真…

2827 真夏の自民党の政局 「そんなことを言っている暇があるのか」

「宙宇」という言葉がある。時間と空間という意味だ。ただ、最近はほとんど使われることが少ないためか、手元の広辞苑を含めたすべての辞書にこの言葉は載っていない。死語になりつつある、と言ったら「宮沢賢治だって使っているじゃないか」と怒る人もいる…

2826「朋遠方より来たる」 友人たちから教わる生き方

孔子の言葉と弟子たちとの問答を集めたといわれる「論語」の最初は「学而第一」で冒頭によく知られている言葉が出てくる。《子曰く、学びてこれを習う。亦説(またよろこ)ばしからずや。朋遠方より来たる有り。亦楽しからずや。人知らずして慍(いた)らず…

2823 卑劣漢は望遠鏡と同じ ケストナーの性悪説

今朝のラジオ体操広場の上空の雲 第二次大戦中、ナチスににらまれながら、ぎりぎりまでドイツにとどまっていた作家のエーリッヒ・ケストナー(1899~1974)は、かなり辛辣な言葉を残している。その中の一つに「卑劣漢」に対する厳しい見方がある。子…

2822 土用の丑の日とうなぎ 源内先生のPR効果 

土用丑の日、夕方は美しい夕焼けが 昨日のブログで触れた通り、今日19日は土用の丑の日だ。土用は立秋前の18日間をいい、この時期にある丑の日が土用の丑の日だ。暑い盛り、夏バテをしないよう昔からうなぎをはじめ土用しじみ、土用餅、土用卵など精のつ…

2819 戦争で傷ついた青年の美しい幻想 庄野英二の『星の牧場』が復刊

(南の島の今は穏やかだ) かつて通信社の社会部記者時代、児童文学作家の庄野英二(1915-—1993)を取材したことがある。太平洋戦争中、南海の孤島に日米両軍の兵士たちがたどり着き、島民たちに助けられ島を去って行ったという実話があり、庄野の長編小説『…

2817 誰か教えてほしい「裸の王様」 トランプ・後世の評価は

アンデルセンの人魚姫の像(デンマークにて) 今、日本の新聞、テレビにその名前が一番多く載るのは、石破首相は別にしてアメリカのトランプ大統領ではないだろうか。新聞の一、二面はもとより国際面からオピニオン面、さらに社会面まで頁をめくるとこの人の…

2811 人に会うことの大事さ 『銭形平次』著者の教え

(北上川にて) 『銭形平次』は『銭形平次捕物控』の小説の主人公で、神田明神下に住む岡っ引き(注)の親分のことだ。かつて時代劇のヒーローとして人気があり、映画やテレビドラマになった。作者の野村胡堂(18821—963)は、この小説のシリーズで知られた…

2801「アメリカよ、君は」 ゲーテが描くユートピア

青のガクアジサイ ドイツの詩人で作家のゲーテ(1749~1832)は、アメリカを描いた短い詩を書いている。19世紀初めごろの、ヨーロッパに住む人たちの見方を代弁したような詩だ。アメリカに対する「希望」を感じさせる内容で、現在の姿とはかなり異なる印象…

2798 第二次大戦終結80年の節目 フランクル『夜と霧』再読

フィンランド・ヘルシンキの街並み(記事とは関係ありません) 今年は第二次世界大戦が終結して80年の節目になる。戦後、世界の人々はこれで平和が戻るかと思ったはずだ。だが、その願いはかなわないまま21世紀も四半世紀を過ぎつつある。80年前、ナチ…

2795「思いわずらう時は歩こう」 藤村と山頭火の教え(ブログデザイン変更)

以前、何回かに分けて「明日は明日の風が吹く」という言葉について、このブログで書いたことがある。できれば、楽しくおかしく日々を過ごしたい。だが、私自身だけでなく、世の中の動きを含め思い悩むことも少なくない。そんな時、「明日は明日の風が吹く」…

2790 『アンネ』の思いに寄り添う 83年前に日記が始まる

沖縄のサガリバナに少しだけ似たギンバイカの花 『アンネの日記』で知られるアンネ・フランクが父親から買ってもらった日記帳に初めて少女のささやかなつぶやきを記したのは、13歳の誕生日である1942年6月12日、今から83年前のことだった。2年間…

2788  中也が教えるビールのおいしさ 季語の由来は冷たさ

花菖蒲の季節です 外来語で俳句の季語になった言葉もかなりある。その中で「麦酒・ビール」(ほかにも関連で黒ビール、生ビール、地ビール、ビアホール、ビアガーデン、缶ビールなどがある)は私の好きな季語の一つになる。中には日本酒を好み「ビールはどう…

2783 傷つけ幸せにする単純な文法 言葉に関する11歳少年の名言

白百合が咲いた 「言葉ってものは/傷つけもするし幸せにもする/単純な文法です」。大岡信の「折々のうた三六五日』(岩波文庫)の今日6月5日分に、ブラジルのヴィニシウス・T・リベイロという11歳の少年のこの言葉が紹介されている。確かにその通りであ…

2779  懐かしき札幌と飯舘村 リラ冷えの季節の詩(うた)(郷愁シリーズ)

北海道ではライラックが咲くころリラ冷えが来る 今日は5月の末日、31日爽やかな季節のはずだ午後4時の気温は15度ちょうど3月に戻ったような寒さ晩春、一時的に寒くなることを寒の戻りという明日からは6月、そろそろ衣替えの時期なのにこの寒さを何と…

2773 旅の小さな必需品 爽やかな朝を迎えるために

かなり以前の話になる。海外に転勤する友人に、一冊の本とトラベルウォッチ( 旅行用の小型目覚まし時計)を記念に贈ったことがある。どんな理由だったのだろう。当時の備忘録を読み返してみた。それは作曲家、團伊玖磨さん(1924—2001)の旅に関するエッセ…

2772 海が見えない山でも 郷愁誘う一茶の句

鋸山の眼下には東京湾が見える 夏山や一足づつに海見ゆる 旧暦5月(現在の6月)、小林一茶(1763—1827)は江戸から房総半島の木更津に舟で渡り、安房方面を旅したという。夏山を登る途中、一歩一歩進んで行くと、海が見えてくる、という光景を描いたものだ…

2769 人と時代の営みを叙事詩に 高橋郁男著『風信』を読む

《人と時代の営みの一端を、現実と想像の世界とを糾(あざな)いながら、散文詩風に綴ります。折々の、風の向きや風の便りをのせた『風信』のように》 元朝日新聞記者(素粒子、天声人語担当)のコラムニスト、高橋郁男さんが詩誌「コールサック」に長期連載…

2768 タイサンボクは鎮魂と希望の木 名作『じろはったん』では「葉の舟」

4、5月は「花の季節」といっていいだろう。草も樹木も次々に花を付ける。今は街路樹のユリノキが満開だ。そして間もなくタイサンボク(泰山木)の白いやや大きな花を見ることができるだろう。山本健吉編『句歌歳時記 夏』(新潮社)を開いたら、タイサンボ…

2767 朝の讃歌 「おはよう」は夏の響き

金沢文庫・称名寺の黄色の花菖蒲 立夏が過ぎて夏至があと1カ月余に迫り、夜明けが次第に早くなりつつある。夏の早朝は気持ちがいい。子どもたちは朝が苦手かもしれないが、逆に高齢者は朝が友だちといっていい。散歩やラジオ体操で交わされる「おはよう」と…

2765 「うどんの花を見たい」と言った官僚 うそのような本当の話

調整池の森に咲くガマズミの花 佐賀県唐津市で農業を営みながら農業をテーマにした小説やルポを書いていた山下惣一さん(1936—2022)の『村に吹く風』(新潮文庫)を読み直していたら、信じられない話が書かれていた。うそのような本当の話である。1989…

2763 人や動物の夢の世界は 鬱陶しい日々の中で

目に優しいバラ・アンジェラ 「こんな夢を見た」。夏目漱石の『夢十夜』は、このような書き出しで人間と夢に関する不気味で不思議な10の話が展開されている。言うまでもなく、人間は夢を見る動物だ。では他の動物はどうだろうか。最近の研究によると、人間…