小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2104 現実と幻想の世界と『銀河鉄道の夜』再読・幸せとは

最近、オンラインの講演を聴く機会が増えている。大学や団体などが主催したさまざま講演会はコロナ禍の中、外出をしないでもパソコンを使って話を聴くことができるので、利用している人はかなりいるだろう。そんな中、先日は天文学者、谷口義明氏(放送大学…

2098 『ラルゴ』・幅広くゆるやかに ピアニスト反田さんの願い

『神よ、ポーランドをお守りください』。ポーランドの人々は幾世紀にもわたって、このような祈りを教会でキリストにささげたに違いない。同じ言葉を私たち日本人は、神にささげたことがあるのだろうか。それは別にしてポーランドはこれまで大国によって侵略…

2097 「マイクロムーン」を見る 地球から最も遠い満月の朝

(小学校の赤と緑のシンボルタワーの間に浮かぶ満月) 今朝の夜明け前、太平洋側の各地で西の空に輝く満月を見た人は多いのではないでしょうか。橙色の小ぶりな月。それはことし一番小さい満月で、「マイクロムーン」と呼ぶそうです。初めて聞く言葉です。控…

2094 「思索」の信越の旅 紀行文を読む楽しみ

英国人女性、イザベラ・バードは文明開化期といわれた1878(明治11)年横浜に上陸、6月から9月にかけて北日本を旅し、さらに10月から関西を歩いた。この記録が『日本紀行』あるいは『日本奥地紀行』として今も読み継がれ、紀行文の名著になってい…

2090 新年の九十九里を歩く 古刹には名言の碑

『鳥は飛ばねばならぬ 人は生きねばならぬ』。仏教詩人といわれる坂村真民の詩の一節だ。コロナ禍で人の命は軽くなっている。そうした現代に生きる私たちを励ますような詩碑が古刹の一角にあった。「浜の七福神」といわれる七福神巡りのコースが千葉県の九十…

2086 混乱期を生きる母と娘 かくたえいこ『さち子のゆびきりげんまん』

昭和から平成を経て令和になり、昭和は遠くなる一方だ。日中戦争、太平洋戦争という戦争の時代だった昭和。そして、敗戦。70数年前の人々はどんな生活を送っていたのだろう。かくたえいこ(角田栄子)さんの児童向けの本『さち子のゆびきりげんまん』(文…

2080 秋から冬への風景 点描・美しい自然の移ろい

(千葉県鴨川市の四方木不動の滝・雄滝) 今年も残すところ、36日になった。カレンダーを見たら2021年という西暦のみのものがほとんどで、西暦とともに「令和3年」と併記されたのは1つだけだった。現行のグレゴリオ暦になって148年(日本では18…

2074 寂の空への旅立ち 瀬戸内寂聴さん逝く

紅葉燃ゆ旅立つあさの空や寂(じゃく) 作家の瀬戸内寂聴さんが今月9日に亡くなった。99歳。瀬戸内さんの名前を聞くと、私は必ずある日のことを思い出す。瀬戸内さんが得度し、瀬戸内晴美から瀬戸内寂聴になった1973年11月14日のことである。あれ…

2071 秋から冬への移行 時雨の季節感

ものの本(ある事柄に関することやその方面のことについて書かれた本)によりますと、「時雨」の季節は、『万葉集』(7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂された、現存するわが国最古の歌集)のころは秋と捉えられていたそうです。その後、都が奈良から京…

2067 自分の信じる道を真っ直ぐ歩いた人 ある長い墓碑銘

かつて取材で知り合った東京のNさんがことし1月に亡くなったと、奥さんから喪中のはがきが届いた。間もなく11月。そろそろ年賀状を書く季節が近づいている。Nさんとは、中国まで一緒に旅をしたことがある。脳梗塞で倒れ、1年間は車いす生活を送り、奥…

2066 イスラムの秘薬から世界の飲み物に コーヒーをめぐる物語

急に寒くなったため、庭に出していた鉢植えのコーヒーの木を慌てて部屋に入れた。普段の年なら11月半ばにやるのだが、今年は特別早い取り込みだ。これで寒さに弱いというコーヒーの木も何とか持ちこたえるだろう。十数年前、娘が百円ショップで買ってきた…

2065 1人泡盛を飲む夜  蘇った銘酒物語

「酒 傾ければ 愁い来らず」。中国、唐時代の詩人・李白の「月下独酌」の中の一句だ。人は、この世の憂いを忘れるために酒を飲む。コロナ禍が続き友人たちと酒を飲みかわす機会はほとんどなくなった。秋の夜長、私はひとり沖縄の酒・泡盛を飲む。火事で焼失…

2063 群馬は魅力がいっぱい ランキング下位でも

時々地図を取り出して、見ることがあります。日本地図だったり、世界地図だったり、その時の気分によって変わりますが、地図を見ることは楽しみの一つです。先日「都道府県魅力度ランキング」が発表になり、茨城県が最下位の47位、群馬県が下から4番目の…

2062 「よく分からないから不気味」コロナ感染急減の背景は 

「なぜ、コロナ感染者がこんなに急に減ったのだろうね。よく分からないから不気味なの」。小学校高学年の家族が「登校中、低学年を送ってきた大人がこんなことを話しているのが聞こえたよ」と教えてくれた。今夏、あれほど猛威を振るったコロナ禍。一時は1…

2059 いい匂いの山の朝風 晩秋の月山風景

詩人で彫刻家の高村光太郎は、戦後、岩手で山小屋生活をした際「日本はすつかり変わりました。あなたの身ぶるひする程いやがつてゐた あの傍若無人のがさつな階級が とにかく存在しないことになりました。(以下略)」(詩集『典型』の「炉辺 報告智恵子に」…

2046 われ先に国外退避の大使館員 昭和の悪夢アフガンでも

米軍の撤退期限が今月末に迫ったアフガニスタンの首都カブールの国際空港付近で自爆テロがあり、70人以上が犠牲になった。現地には日本人やアフガン大使館の現地スタッフ、派遣された自衛隊員が残っている。この事件によって、自衛隊機による退避は予断を…

2044 孫文と株成金の娘のこと 不思議な人とのつながり

これはコロナ禍以前に、箱根まで行った際に書いた短いエッセーだ。数年前のことだ。そんな日を振り返り読み返している。この世の人のつながりは、やはり不思議なものがある。私と加藤文子さんもそうだった。詳しい経緯は書かないが、加藤さんは私にとって忘…

2028 梅雨の終わりに想像の旅 青森キリスト伝説の村へ

横光利一の『梅雨』(河出書房新社『底本 横光利一全集第13巻』)という文章を読んだ。戦前の1939年に書かれた短い随筆だ。前年の梅雨について触れ、曇天が続いたこと、鶯が庭の繁みで鳴き続けていること、青森経由で北海道に行ったことなどが書かれて…

1999 あるジャーナリストの短い生涯『そして待つことが始まった 京都 横浜 カンボジア』を読む

20世紀は「戦争の世紀」といわれた。第1次に続く第2次世界大戦終結後も、世界の戦火は消えない。このうちアジアが戦場になったベトナム戦争、カンボジア紛争(内戦)では多くの記者たちが命を落とした。この中に共同通信社の石山幸基記者も入っていた。…

1988 春を待つ思いは世界共通 浮かれることはできない日々

3月も中旬になった。私が住んでいる千葉市周辺ではミモザや水仙、レンギョウといった黄色い花だけでなく、早咲きの八重桜(陽光桜)も咲き出した。ソメイヨシノの開花はまだだが、数日中には開花の発表があるかもしれないほど暖かな日和が続いている。だが…

1982 子どもの目は常に幸福 ラオスでの出会い

「目は心の窓」ということわざがある。マスク姿が常態化している日々。これまで以上に、相手の目元が気になる人が多いのではないか。国会中継をテレビで見ていると、政治家の目は暗いし虚ろな目もある。それに比べれば、子どもの目はきれいで気持ちがいい。 …

1980 聖書にも「明日のことは思い悩むな」地図で旅するイエスの足跡

友人には物知りがいる。昨日のブログを見たというある友人は、同じような言葉なら新約聖書にもある、と教えてくれた。早速、本棚奥から「日本聖書協会」発行の『新約聖書 詩編つき 新共同訳』を出してみた。それは「マタイによる福音書」(マタイ伝)6章の…

1979「明日は明日の風が吹く」の日々 想像の旅へ出よう

「明日は明日の風が吹く」の「明日」の読み方は文語的な「あす」ではなく、俗語風の「あした」だ。「明日のことなど何も分からない、そんな明日を心配しても始まらない」や「先のことを考えても仕方がない」という無責任、自棄的な意味がある一方で、「明日…

1944 柿を愛する人は「まっすぐな道でさみしい」

少し寒さが増してきているこのごろ。とはいえ、いい季節であることは間違いない。さすらいの自由律句の俳人、種田山頭火の句を読む。「何おもふともなく柿の葉のおちることしきり」。葉が落ちて赤い実だけの柿が目立つようになった。柿を含め、果物もおいし…

1940 全国「住めば都」だよ 福島のランク付けは冷酷

「都道府県魅力度ランキング」という調査結果が話題になっている。調査の方法に疑問の声も少なくない。その地域の魅力は、実際に住み、生活をしてみないと分からない。私は、現在住んでいる千葉県(千葉市)を含めこれまで8都道県で暮らした。この地域はそ…

1937 花の終りに ある秋雨の日の風景

いつもの年より遅くまで咲いていた彼岸花。街中が異常なほど甘い香りに包まれたキンモクセイ。それも、このところ降り続いた雨と低い気温で終わりの日を迎えた。霧雨の中、遅くまで咲いていると、ニュースでやっていた彼岸花の名所に行く。だが、もう花はな…

1936 時代を反映する鉄道 京葉線30年の歩み

東京ディズニーランドに行くため、JR東京駅から京葉線で舞浜まで乗ったことがある人は多いはずだ。京葉線の東京~蘇我間43キロ(西船橋ルート11・3キロを含めると京葉線は54・3キロ)が全面開業したのは1990(平成2)年3月10日のことで、…

1934 ある新聞人の苦悩の戦後 沖縄再訪への思い抱きながら

沖縄・那覇に「戦没新聞人の碑」がある。沖縄以外ではあまり知られていないが、今から54年前の1966(昭和36)年9月30日に除幕された、太平洋戦争の沖縄戦で亡くなった14人の新聞関係者を慰霊する碑である。沖縄戦ではおびただしい民間人が犠牲…

1931今年も咲いたアメリカデイゴ 台風禍からの復活

自然界の復元力、なんていうとやや大げさかもしれない。 近所の遊歩道脇に植えてあったアメリカデイゴ(和名・海紅豆=カイコウズ)が昨年9月の台風15号で倒され、市から依頼された業者によって根元からきれいに切り取られた。毎年初夏から晩夏まで花を咲…

1913「 シンプルに生きる日々」 作家のような心境にはなれない

この時代をどう見るか。それは世代によっても、これまでの人生経験でも違うかもしれない。コロナ禍が世界各国で日々拡大し、死者が増え続ける事態に人類が試練に直面していると思う。私のこうした焦りは、戦争という修羅場を体験していないのが原因なのだろ…