小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

映画

2110 ウクライナ住民とロシア兵士の攻防『ひまわり』の街で

ロシア軍のウクライナ侵攻に関して、春江一也『プラハの春』(集英社文庫)で紹介されたものと似た動きがウクライナ国内で起きているという。プラハの春は、54年前の1968年に中欧チェコスロヴァキア(現在はチェコとスロヴァキアに分離)で起きた民主…

2033 ドラマチックな五輪の人間劇 負の側面目立つ東京大会

市川崑の監督による記録映画『東京オリンピック』が完成したのは、五輪開催から4カ月経た1965年2月末だった。しかし、オリンピック担当大臣だった河野一郎や文部大臣、愛知揆一らの「記録性を無視したひどい映画」(河野)、「この映画を記録映画とし…

2018 五輪は滅亡への道か 極度な緊張を強いられる東京

コロナ禍によって世界が混乱に陥っている中、1年延期された東京五輪・パラリンピックの開催が迫ってきた。「安心・安全な大会を目指す」という言葉が開催当事者から繰り返されても、中止を求める声は根強い。作家の沢木耕太郎は、1996年の米アトランタ…

2008 世界が問われる力試し『岸恵子自伝』から

「世界を覆うコロナ・ウイルスが世の中をどう変えるのか、人間の力試しが答えを出すのだろう」……これは、女優で作家、国際ジャーナリストの岸恵子さんが自伝『岸恵子自伝 卵を割らなければ、オムレツは食べられない』(岩波書店)の中で、コロナ禍に触れた一…

1979「明日は明日の風が吹く」の日々 想像の旅へ出よう

「明日は明日の風が吹く」の「明日」の読み方は文語的な「あす」ではなく、俗語風の「あした」だ。「明日のことなど何も分からない、そんな明日を心配しても始まらない」や「先のことを考えても仕方がない」という無責任、自棄的な意味がある一方で、「明日…

1921 金に頼る政治家たちへ 寅さんの怒りの口上が聞こえる

「天に軌道があるごとく、人はそれぞれ自分の運命というものを持っております。とかく気合いだけの政治家はうわべはいいが、中身はない。金を使えば何でもできると思っていたら、そりゃあ、間違いだよ。な、そうだろう」。 暑い日々、家に籠ってぼんやりと新…

1854 結末は奇想天外の悲喜劇 社会風刺の映画「パラサイト」

「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)という韓国映画がアカデミー作品賞を受賞した。日本でこの言葉が使われるようになったのは、就職氷河期が続いた1990年代後半のことだ。辞書には「寄生生物・他人の収入に頼って生活している人を俗にいう…

1839 冬の朝のアーチ状芸術 虹の彼方に何が……

今朝は天気雨が降った。そのあと調整池の上には見事なアーチ状の虹が出た。虹は、雨上がりの時などに太陽と反対方向に現れる色のついた光の輪であり、太陽の光が雨滴の中で屈折して反射して発生するものだ。虹については世界で様々な言い伝えがあり、虹を指…

1837 ゴッホは何を見て、何を描きたかったのか 映画『永遠の門』を見る

絵画の世界でレオナルド・ダ・ヴィンチ、ピカソと並びだれでもが知っているのが「炎の人」といわれるフィンセント・ファン・ゴッホだろう。では、ゴッホはどんなふうに描こうとする風景を見ていたのだろう。それを映画化したのが『永遠の門 ゴッホの見た未来…

1792 新聞記者とは 映画と本から考える

かつて新聞記者は若者の憧れの職業の一つだった。だが、最近そうした話は聞かない。背景にはインターネットの発達や若者の活字離れなどがあり、新聞自体が難しい時代に直面していることを示している結果なのだろう。そんな時、『新聞記者』という題名に惹か…

1716 茶道と25年の歳月 映画「日日是好日」

「日日是好日」という言葉を座右の銘にしている人がいるだろう。広辞苑を引くと「毎日毎日が平和なよい日であること」と出ている。元々は中国の『碧巌録』(へきがんろく)という禅に関する仏教書の中にある言葉だという。読み方は3通り(にちにちこれこう…

1670 虐待死と新幹線殺人 満席の『万引き家族』

東京都目黒区のアパートで船戸結愛ちゃんという5歳の女の子が虐待で死亡、継父と実母が逮捕されたのに続き、走行中の新幹線車内で22歳の男が乗客を刃物で襲い、女性客を守ろうとした男性が殺される事件が起きた。2つの事件とも家族の在り方が問われる深…

1643 言葉を武器にした政治家 映画『ウィンストン・チャーチル』を見る

「戦争には決断。敗北には闘魂。勝利には寛仁。平和には善意」(『第二次大戦回顧録』より)第二次大戦下、イギリスの首相としてナチスドイツ、日本と戦い、連合国を勝利に導いたチャーチルは、この長文の回顧録によって1953年、ノーベル文学賞を受賞し…

1641 読んだふりの本『一九八四年』 そして映画『ペンタゴン・ペーパーズ』

読んでもいないのに見栄を張って読んだふりをしてしまうという本があるという。イギリスではその「読んだふり本」のトップがジョージ・オーウェルの『一九八四年』だと、日本版(ハヤカワ文庫)を翻訳した高橋和久さんが書いている。内容が暗く、難解なだけ…

1568 視覚障害者の希望とは 映画「光」が示す先は

光を失うということは、どのような恐怖なのかは経験者にしか分からない。新潟の知人もその一人である。映画「光」を見て、知人の苦しみを考えた。どら焼きづくりに、ささやかな希望を見つけたハンセン病回復者を描いた「あん」に続く、河瀬直美監督の作品だ…

1547 優れた人との出会いが花の時代 『わたしの渡世日記』から

「人は老いて、ふと我が来し方を振り返ってみたとき、かならず闇夜に灯を見たような、心あたたまる経験を、自分も幾つか持っていることに気づくだろう。それがその人の『花の時代』である。(中略)私の場合でいうならば、優れた人間に出会った時期をこそ、…

1531 音楽は希望の使い 市民オーケストラの映画「オケ老人」

「オケ老人」という題名に惹かれて映画を見た。老人が中心の市民オーケストラを、杏演ずる高校の数学教師が指揮するストーリーだ。杏の指揮ぶりが真に迫り、オーケストラのメンバー役の俳優はベテラン(笹野高史、左とん平、小松政夫、石倉三郎、藤田弓子、…

1523 読書家の生きた証 本を愛して

9月末に亡くなった先輩は読書家だった。同時に、渥美清主演の映画「男はつらいよ」をこよなく愛した人情家だった。 弔問に訪れると、2つの部屋にはおびただしい蔵書が置かれ、在りし日の先輩の写真が机の上に飾られていた。ほぼ日本文学に特化した蔵書は、…

1478 戦争写真『硫黄島の星条旗』の謎 太平洋戦争とは何だったのか

太平洋戦争をとらえた写真の中で、米国ではAP通信カメラマンの「硫黄島の星条旗」が傑作として名高い。激戦地の摺鉢山山頂に米国旗・星条旗を掲げる6人の米兵たちの姿を撮影した写真である。この写真をめぐって、1人の兵士がこれまで言われてきた兵士と…

1433 混沌とした時代への訴え 映画『人生の約束』

白銀の立山連峰の威容を見たのは、4年前の1月のことだった。日本海側の冬は晴れる日が少ない。だが、私が訪れた2012年1月下旬の数日は青い空が戻り、高岡の雨晴海岸の後方にそびえる剱岳が美しかった。その白銀の立山連峰を堪能させてくれるのが、映…

1433 混沌とした時代への訴え 映画『人生の約束』

白銀の立山連峰の威容を見たのは、4年前の1月のことだった。日本海側の冬は晴れる日が少ない。だが、私が訪れた2012年1月下旬の数日は青い空が戻り、高岡の雨晴海岸の後方にそびえる剱岳が美しかった。その白銀の立山連峰を堪能させてくれるのが、映…

1422 芸術は歴史そのもの 絵画と映画と

12月になった。季節は冬。人生でいえば長い歴史を歩んできた高齢者の季節である。最近、歴史を考える機会が増えた。それは絵画であり、映画だった。まず、絵画展。「村上隆の五百羅漢図展」(六本木ヒルズ、森美術館)、DIC川村美術館(千葉県佐倉市)…

1422 芸術は歴史そのもの 絵画と映画と

12月になった。季節は冬。人生でいえば長い歴史を歩んできた高齢者の季節である。最近、歴史を考える機会が増えた。それは絵画であり、映画だった。まず、絵画展。「村上隆の五百羅漢図展」(六本木ヒルズ、森美術館)、DIC川村美術館(千葉県佐倉市)…

1420 大量遭難の背景は 映画『エベレスト3D』と原作『空へ』

登山の醍醐味は、困難を乗り越えて頂上に立ったときの達成感なのだろうか。登山をやらない私にはその辺のことは分からない。1996年にエベレスト(8848メートル)で起きた大量遭難で、遭難を免れたジャーナリスト、ジョン・クラカワーが体験したことは、そう…

1420 大量遭難の背景は 映画『エベレスト3D』と原作『空へ』

登山の醍醐味は、困難を乗り越えて頂上に立ったときの達成感なのだろうか。登山をやらない私にはその辺のことは分からない。1996年にエベレスト(8848メートル)で起きた大量遭難で、遭難を免れたジャーナリスト、ジョン・クラカワーが体験したことは、そう…

1418 画家フジタが生きたパリ 喜びと悲しみを内包した芸術の都

映画「FOUJITA」は、フランスを中心に活動した画家、藤田嗣治(1886~1968)の半生を描いた日仏合作の作品だ。監督は小栗康平、主演はオダギリ・ジョー。藤田といえば、オカッパ頭とロイドメガネで知られ、1820年代のパリで日本画の技法も取り入…

1418 画家フジタが生きたパリ 喜びと悲しみを内包した芸術の都

映画「FOUJITA」は、フランスを中心に活動した画家、藤田嗣治(1886~1968)の半生を描いた日仏合作の作品だ。監督は小栗康平、主演はオダギリ・ジョー。藤田といえば、オカッパ頭とロイドメガネで知られ、1820年代のパリで日本画の技法も取り入…

1404 維持してほしい風情ある姿 2つの小さな仏堂

全国に「阿弥陀堂」や「観音堂」「薬師堂」が幾つあるか知らない。だが、人それぞれに、この名称を持つ建物に接したことがあるだろう。2002年の映画『阿弥陀堂だより』に出てきた小さな阿弥陀堂は、味わい深い思いで見たことを覚えている。 秋の彼岸の一…

1388 繰り返してはならない「日本の一番長い日」 8月15日を前に

70年前の今ごろ、日本は太平洋戦争末期の断末魔状態にあった。それでも、旧陸軍を中心とする軍部は「一億総玉砕」を唱え、本土決戦を主張した。極限状況下にあって、人間は狂気に陥る。映画『日本の一番長い日』を見て、それをあらためて感じた。 戦争を終…

1379 トマス・モアと安保法制  政治家の理性とは

『ユートピア』の著者、トマス・モア(1478~1535)は中世イングランドの法律家・思想家だ。 イギリス史上、最高のインテリで暴君といわれたヘンリー8世(カトリック信者でありながら6回結婚を繰り返した)の離婚に反対したとして反逆罪に問われ、ロン…