小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

都市

2107 人は何で生きるか 天才少女の挫折とトルストイ

ロシアの文豪、レフ・トルストイの短編『人は何で生きるか』(中村白葉訳・新潮社『世界名作選』は、民話を通じて、人の生き方を描いたものだ。ドーピング疑惑の中で出場し、暫定4位に終わった女子フィギュアのロシア、カミラ・ワリエワ(15)の騒ぎを見…

2094 「思索」の信越の旅 紀行文を読む楽しみ

英国人女性、イザベラ・バードは文明開化期といわれた1878(明治11)年横浜に上陸、6月から9月にかけて北日本を旅し、さらに10月から関西を歩いた。この記録が『日本紀行』あるいは『日本奥地紀行』として今も読み継がれ、紀行文の名著になってい…

2090 新年の九十九里を歩く 古刹には名言の碑

『鳥は飛ばねばならぬ 人は生きねばならぬ』。仏教詩人といわれる坂村真民の詩の一節だ。コロナ禍で人の命は軽くなっている。そうした現代に生きる私たちを励ますような詩碑が古刹の一角にあった。「浜の七福神」といわれる七福神巡りのコースが千葉県の九十…

2089 蘇ったキューピット フェルメール『窓辺で手紙を読む少女』

フェルメール(1632~75)の『窓辺で手紙を読む少女』(あるいは『窓辺で手紙を読む女』)の絵を見たのは2008年9月のことだった。ドイツ・ドレスデン古典巨匠絵画館(アルテ・マイスター)のオランダ絵画の部屋。小さなこの絵(83センチ×64・…

2086 混乱期を生きる母と娘 かくたえいこ『さち子のゆびきりげんまん』

昭和から平成を経て令和になり、昭和は遠くなる一方だ。日中戦争、太平洋戦争という戦争の時代だった昭和。そして、敗戦。70数年前の人々はどんな生活を送っていたのだろう。かくたえいこ(角田栄子)さんの児童向けの本『さち子のゆびきりげんまん』(文…

2082 コロナ禍続く年の暮れに 笑顔なきゴッホとベートーヴェン

2020年から続いているコロナ禍。間もなく2年になる。日本ではワクチン接種が進み、徹底した対策によって第5波が急速に収まりつつあり、見通しは明るいと思ったのは早計だった。南アフリカで見つかった新変異株、オミクロンが世界的に拡大し、成田から…

2077 絶望を託された私たち 上間陽子『海をあげる』

《私は静かな部屋でこれを読んでいるあなたにあげる。私は電車でこれを読んでいるあなたにあげる。私は川のほとりでこれを読んでいるあなたにあげる。この海をひとりで抱えることはもうできない。だからあなたに、海をあげる。》 上間陽子著『海をあげる』(…

2073 ビーナスベルトに酔う 自然のアートに包まれて

毎朝、6時前に散歩に出ます。いつも最初に歩くのは調整池を回る遊歩道ですが、今朝歩いていて西の空を見上げますと、下の方が藍色でその上の部分がピンクに染まっていました。なかなか幻想的0で美しい空の色でした。日の出前のことです。これはビーナスベル…

2063 群馬は魅力がいっぱい ランキング下位でも

時々地図を取り出して、見ることがあります。日本地図だったり、世界地図だったり、その時の気分によって変わりますが、地図を見ることは楽しみの一つです。先日「都道府県魅力度ランキング」が発表になり、茨城県が最下位の47位、群馬県が下から4番目の…

2060 小さな秋を見つけた 2度咲きの金木犀と「はえぬき」の新米

「秋たけなわ」というには少し早いようですが、秋本番はそこまで来ています。秋の訪れを知らせてくれる樹木として金木犀があります。あの独特の香りに接すると、私は秋を感じます。今年、庭の金木犀が咲いたのは9月10日でした。大体1週間で花は終わります…

2059 いい匂いの山の朝風 晩秋の月山風景

詩人で彫刻家の高村光太郎は、戦後、岩手で山小屋生活をした際「日本はすつかり変わりました。あなたの身ぶるひする程いやがつてゐた あの傍若無人のがさつな階級が とにかく存在しないことになりました。(以下略)」(詩集『典型』の「炉辺 報告智恵子に」…

2055 相次ぐマスク着用めぐるトラブル 文明人の勇気とは

マスクをめぐるトラブルが内外で相次いでいる。中でもドイツの殺人事件は、多岐にわたるコロナ禍の負の歴史でも特殊な位置を占めるだろう。いつの時代でも、決まり事を守ることができない人はいる。極論すれば、国が決めたことを絶対に守らせようとするのは…

2054 ここが私の故郷…… 山はなくとも

石川啄木(1886~1912)ほど、故郷を思いながら人生を送った人物は少ないのではないか。それは啄木の第一歌集『一握の砂』(いちあくのすな)を読むと、実感する。この歌集には「ふるさと」という言葉を使った歌が多いのだ。その一つに「ふるさとの…

2047 それぞれの大義の中で アフガンの歴史の潮流は

アフガニスタン(以下、アフガン)はイスラム武装組織、タリバンの首都カブール制圧で大混乱に陥っている。連日の新聞、テレビ報道を見ながらどうしてこうなってしまったのかと、考え込む人は少なくないはずだ。ベンジャミン・フランクリンの「世の中に善い…

2046 われ先に国外退避の大使館員 昭和の悪夢アフガンでも

米軍の撤退期限が今月末に迫ったアフガニスタンの首都カブールの国際空港付近で自爆テロがあり、70人以上が犠牲になった。現地には日本人やアフガン大使館の現地スタッフ、派遣された自衛隊員が残っている。この事件によって、自衛隊機による退避は予断を…

2039 未来へのことば「焼き場に立つ少年」のこと

一枚の写真が目に焼き付いている。広島に続いて原爆が投下された長崎で米国人カメラマンが撮影した「焼き場に立つ少年」と題した写真だ。カトリックのローマ法王庁が「核なき世界」を訴えるフランシスコ法王の指示で、教会関係者に対しこの写真入りカードの…

2037 8月6日の風景 「戦争の記憶は抜歯のきかぬ虫歯」

午前8時15分。南側の窓を開け、1分間の黙祷をする。温度計は29度(湿度76%)まで上がっている。76年前のこの時間、広島に原爆が投下された。人類に向けられた初めての大量破壊兵器は、おびただしい生命を一瞬にして奪った。テレビではNHK地上…

2036 真夏の怪談!9億円資産を寄付という誘い

Facebookに登録しているのですが、最近は時々しか利用していません。たまたま先日開けてみましたら、友だちリクエストが来ていました。その人の友だちには私の先輩の名前がありました。相手は日本人の高齢の女性で、穏やかそうな顔の写真が載っていました。…

2030 濃霧の中に浮かぶ白虹 人々励ます自然の演出

私の散歩コース、調整池を回る遊歩道は、濃霧に包まれていた。今朝6時前。途中で引き返す人もいる。この道はよく知っているから、霧の中、歩を進めると南西の方角の空に、曲線の模様が浮かんできた。灰色の模様は次第にアーチ状になっていく。虹だった。こ…

2028 梅雨の終わりに想像の旅 青森キリスト伝説の村へ

横光利一の『梅雨』(河出書房新社『底本 横光利一全集第13巻』)という文章を読んだ。戦前の1939年に書かれた短い随筆だ。前年の梅雨について触れ、曇天が続いたこと、鶯が庭の繁みで鳴き続けていること、青森経由で北海道に行ったことなどが書かれて…

2024 連続幼女誘拐殺人事件の闇に挑む記者  堂場瞬一『沈黙の終わり』

知人から電話があり、4月に出版された本について話題になった。私もこの本を読んでいたから、知人との話が弾んだ。知人が話題にしたのは堂場瞬一の『沈黙の終わり』(角川春樹事務所)という上下の長編小説だ。作家デビュー20周年を飾る力作といっていい…

1940 全国「住めば都」だよ 福島のランク付けは冷酷

「都道府県魅力度ランキング」という調査結果が話題になっている。調査の方法に疑問の声も少なくない。その地域の魅力は、実際に住み、生活をしてみないと分からない。私は、現在住んでいる千葉県(千葉市)を含めこれまで8都道県で暮らした。この地域はそ…

1920 旭川を愛し続けた人 少し長い墓碑銘

せきれいの翔(かけ)りしあとの透明感 柴崎千鶴子 せきれいは秋の季語で、水辺でよく見かける小鳥である。8月も残りわずか。暑さが和らぐころとされる二十四節気の「処暑」が過ぎ、朝夕、吹く風が涼しく感じるようになった。晩夏である。遊歩道に立つと、…

1901 富山平野は「野に遺賢あり」 中国古典の言葉から

「野(や)に遺賢(いけん)なし」。中国の古典「書経」(尚書)のうち「 大禹謨(だいうぼ)にある故事である。「民間に埋もれている賢人はいない。すぐれた人物が登用されて政治を行い、国家が安定しているさまをいう」(三省堂・大辞林)という意味だ。現…

1850 人類登場時代のチバニアン 地質年代に日本名認定

国際地質科学連合は17日、千葉県市原市にある約77万4000~12万9000年前の地質時代を「チバニアン」(千葉時代)と呼ぶことを決めたという。地質年代に日本の地名が付くのは初めてのことである。ここまで至るには一部学者による反対行動などの…

1849 福島の昆虫や野鳥に異変か「慢」の時代への警鐘

福島に住むジャーナリストの大先輩から届いた賀状に気になることが書かれていた。昨年からトンボが飛んでいない、コオロギの鳴き声も聞こえない、セミの声は弱々しい、ホタルの光も印象が薄い……。昆虫だけでなくスズメやツバメなどの野鳥の数も減ったように…

1836 北海道に魅せられた画家 後藤純男展にて

「美瑛の町役場の屋上から、私は秋晴れの東南の空に十勝連峰を眺めた。主峰十勝岳を中央にして、その右にホロカメットク山、三峰山、富良野岳、その左に美瑛岳、美瑛富士、オプタクシケ山。眺め飽きることがなかった」。深田久弥は名著『日本百名山』の中で…

1834 それぞれに思い描く心の風景 シルクロードと月の沙漠

歌詞がロマンチックな「月の沙漠」は、昭和、平成を経て令和になった現代まで長く歌い継がれている童謡である。この秋、中国・シルクロードを旅した知人が、月の沙漠を連想する場所に立ち、旅行記の中で書いている。日本には千葉県のリゾート地、御宿町の御…

1833 東京は優しくない街 弱者の扱いで分かる文化レベル

大阪に住む友人が東京で電車を利用した体験を、自身のフェースブックに記している。来年、東京でオリンピックとパラリンピックが開催される。マラソン、競歩が札幌で実施されることに決まったことで大騒ぎしているが、東京の障害者対策が遅れていることを友…

1770 新札デザイン・2千円・守礼の門は 司馬遼太郎の沖縄への思い

2024年度から紙幣(1万円、5千円、千円)のデザインが変更になると政府が発表した。唯一、2千円は変わらない。普段、私はお札のデザインを気にしていないが、かつて1万円については「聖徳太子」という別称があったことを記憶している。表紙の聖徳太…