小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2868 虹への祈りの季節 人生の哀歓描く未明の童話

西の空に立った9月の二重の虹 今日9月7日は旧暦二十四節気の「白露」に当たる。大気が冷えてきて露が白く見えるという意味で、夏から秋へと季節が移る頃のことを指す。とはいえ昨今は夏が長く、秋の到来はいつになるのかと、ため息が出る。そんな朝、ラジ…

2867 時代を超えて歌いつがれるメロディー 「浜辺の歌」と秋田

豊作を思わせる黄金の稲穂の波 所用で秋田に行ってきた。市内を歩いていて、「成田」という姓の家が何軒かあることに気が付いた。秋田で成田といえば、『浜辺の歌』の作曲者、成田為三(1893~1945)がよく知られている。成田は北秋田郡米内沢町(現在の北秋…

2866 虚しい白い輝き 秋田沖の風力発電

秋田市下浜から見た日本海。遠方に男鹿半島、右手に白い洋上発電の風車。 秋田市の高台に行き、男鹿半島方面を見ると、幾つもの風力発電の白い風車が輝いているのが見える。日本海からの風は風力発電に適しているからだろう。国が洋上風力発電促進区域として…

2865 葛の花が咲く9月 想像する涼風吹く山道

路傍の葛の花 秋田にて 私が毎日散歩をしている調整池周辺には、さまざまな植物が生育している。中でも一番旺盛な繁殖力を示しているのは、葛とセイタカアワダチソウの2つといっていいだろう。他の植物を押しのけるように増え続ける姿に好感を持つ人はあま…

2864 戦争に翻弄されたシャガール 『緑の自画像』を観る

夕焼けの下、風見鶏は何を思うのか うっかり屋の私は、一枚の絵を見て2人の女性が描かれていると思った。この絵は『緑の自画像』というタイトルが付いたマルク・シャガール(1887~1985)の作品だ。ということは、この絵の中心にいる人物は男性のシ…

2863 「オミナエシの歌」 晩夏絶唱

8月も今日を含めて残り2日。季節の上では初秋であり、秋の七草に親しむ時期だ。「ハギ・キキョウ・クズ・フジバカマ・オミナエシ・オバナ(ススキ)・ナデシコ」のことだが、このうちフジバカマは私の家の周辺でほとんど見かけない。オミナエシ(女郎花)も…

2862  山頭火の「孤寒」と「業」 放浪の俳人の生き方

近所で見つけたオミナエシ(女郎花)の群生 疲れた時や気持ちが落ち込んだ時、私は1冊の本を取り出す。放浪の自由律句の俳人、種田山頭火(1882—1940)の「山頭火句集」(ちくま文庫)だ。この本の頁をパラパラとめくり、そこにある句や随筆に目を向ける。…

2861 ラスト掲載の季語は「吾亦紅」 待ち遠しい秋の到来

オミナエシ(女郎花)の中にひっそりと咲く吾亦紅 俳句歳時記(角川学芸出版)の季語索引の最後に掲載されているのが「吾亦紅」(われもこう)だ。秋の季語で、山野で見ることができるバラ科の多年草のことだ。「高原の風に吹かれているさまなどは少し淋しげ…

2860「帽子を食べる」政治家 「首をやる・腹を切る」と同義語

クロアチアの音楽家たちの街頭演奏風景。帽子の人は奥に1人だけ。 世間には「私の言うことには間違いがない」という自信家がけっこう多い。日本では間違っていたなら「首をやる」とか「腹を切る」という言葉も使われるが(私は言ったことはない)、西洋では…

2859 「俺は何でもできるのだ!」 大統領がクレメンスの殿堂入り主張

暑さをものともしない百日草 「俺は何でもできる。俺の友達は俺と同じだ」。こう思っている人物は独裁者ではないか。21世紀の現代もそのような政治家は存在する。アメリカのトランプ大統領が、薬物使用疑惑で米野球殿堂入りを逃した大リーグのレジェンド投…

2858 子を守る母親の強さ 藤原てい『流れる星は生きている』再読

かつて多くの日本人が住んでいた旅順の街並み 戦後80年。新聞には、さまざまな太平洋戦争にまつわる記事が載っている。ソ連の参戦・侵攻による旧満州(中国東北部)からの日本人避難民の悲劇も当然含まれている。その一つである、藤原ていさん(1918-2016…

2857 甲子園の短い校歌 家族も応援の沖縄尚学

夏の象徴・積乱雲 甲子園の夏の高校野球は、沖縄代表の沖縄尚学が西東京代表の日大三高を3-1で破って優勝した。選抜大会では2回優勝しているが、夏は初めて。沖縄勢の夏の大会優勝は2010年の沖縄興南以来だという。沖縄尚学の短い校歌を聞きながら、…

2856 黙って見る夕陽 夏の平凡な一日

「夕陽を眺めるのに不要なものは一つだけ、むだなことばだ」~ 長田弘の「夕陽を見にゆく」(詩集『人生の特別な一瞬』晶文社)という詩の中に、こんな一節がある。夕陽を見るのに言葉は要らない、ただ黙っているだけでいいというのだ。たしかにそうだ。昨日…

2855 マロニエの下の子どもたち 処暑前の朝に

マロニエが朝日に輝いている 毎日「暑い、暑い」と言いながら、生活している。暦の上ではとうに「立秋」は過ぎ、23日が「処暑」なのだ。暑さが少しやわらぎ、朝の風や夜の虫の声に、秋の気配が漂うころ、といわれている。猛暑に耐えながら、近づく秋の足音…

2854 絵画に劣らない言葉の芸術 石垣りん「不出来な絵」

今が盛りのノウゼンカズラの花 「何かをうまく語ることは、何かをうまく描くことと同様に難しくもあり面白いものだ。線の芸術と色の芸術とがあるように、言葉の芸術だってそれより劣るものじゃない」 フィンセント・ゴッホが弟テオに出した手紙(岩波文庫『…

2853 私たちの「駆け出し」時代 先輩の死を悼んだ便り

紫色のオシロイバナ 部屋に積んだままの資料の整理をしていたら、4年前のコロナ禍のころに出した手紙の下書きが出てきた。人生の先輩、Yさんの逝去を知らされ、奥さんに出したお悔みの手紙だった。そこには記者としての駆け足時代のことが書かれていた。懐…

2852 猛暑に耐える2つの花 強い生命力詠う句

満開のサルスベリの花 私の住む地域で樹木に咲いている花といえば、サルスベリとキョウチクトウだ。2つの花はこの猛暑に耐えて、咲き続けている。私たち人間はこの暑さに負けてしまう。ところが、自然界は違う。それが2つの花であり、その生命力の強さを詠…

2851 「アンの青春」とあの歌 夕暮れに思う詩(うた)

夕暮れの時、あなたは何を思いますか今日一日に出会った人のこと、言葉もなく別れた人のことそれとも昼においしいものを食べたこと虚しいことより楽しいことが多かったでしょうか

2850 「エルベの誓い」はどこに 当事国抜きの米露首脳会談

植え込みの中にひっそりと「オオミズアオ」が トランプアメリカ大統領とプーチンロシア大統領が、ウクライナの停戦をめぐってアラスカで会談した。その内容はこのブログを書いている段階では分かっていない。侵略を受けた当事国のウクライナを抜きにしての会…

2849 それぞれの「涙の日」 家族の悲しい風景

北海道・美瑛の丘の風景 8月15日は『涙の日』なのかもしれない。80年前、日本は敗戦した。戦時中多くの涙が流れたが、特にこの日がピークだっただろう。『涙の日』といえば、モーツァルト作曲の「レクイエム ニ短調」第8曲「ラクリモサ」のことだが、…

2848 備蓄米5キロ・銘柄米4キロ 令和の米騒動余話

キバナコスモス(手前)とハルシャギク スーパーに行くと、入り口付近の目立つ場所に「備蓄米」が山積み状態になっている。5キロで2000円前後。「倉庫に売るほどもらった米がある」と演説し、事実上の更迭となった江藤拓前農水相の後を継いだ小泉進次郎…

2847 たくましい生き方を学ぶ 「雑草」の詩と富太郎

北海道・美瑛のジャガイモ畑。2人が働いている 「自然に生えるいろいろな草。たくましい生命力のたとえにつかうことがある」(広辞苑)、「あちこちに自然に生えているが、利用価値が無いものとして注目されることがない(名前も知られていない草)」(新明…

2846 遠くて近い「戦争と平和」 核兵器と原発について

山口・萩の海岸にて 「核兵器と原子力発電は、一方が『戦争』に属し、他方が『平和』に属するという意味では、かぎりなく遠い。しかしどちらも核分裂の連鎖反応の結果であるという意味では、きわめて近い」。評論家の加藤周一は核と原発について、『夕陽妄語…

2845 暑さを忘れるぞっとする話 人間の心根は優しい

暑さを忘れるには、ぞっとする怪談や不可思議な話を聞くこともいいかもしれない。投書欄で、そんな話を特集した新聞もあるほどだから、このところ日本の夏の暑さは尋常ではない。東日本大震災後、被災地では幽霊現象が相次ぎ、大学のゼミの研究材料になった…

2844 「恕」を思い起こす出来事  爆心地と奇跡の一本松で

陸前高田市の「奇跡の一本松」モニュメント 新聞の投書欄に、広島原爆の爆心地で大学生らしい若者が「爆心地」という表示を見て爆笑していた、という驚くべき話が載っていた。どのような感覚で笑ったのだろう。私には理解できない。似たような恥ずべき出来事…

2843 ヒグラシは悲しき鳴き声 乗り越えれば光が……

美しい国宝・犬山城天守 蜩(ひぐらし)や悲しみ過ぎて笑つちやふ この句を見て、国宝犬山城を思い浮かべる人は、相当俳句に詳しいに違いない。この城は愛知県犬山市にあり、日本の城では松本(長野県)、彦根(滋賀県)、姫路(兵庫)、松江(島根県)とと…

2842 海は平和と修羅場 ゴッホの海景からの独言

夕暮れのエーゲ海 猛暑が続くと、海や山に行きたいと思う人は多いだろう。出掛けるのは面倒なら、せめて絵や写真、あるいは映画を見て涼を味わうことも一つの方法だ。絵といえば、以前東京都美術館で見たことがあるフィンセント・ゴッホ(1853—1890)の「サ…

2841 曲がり角の甲子園 危険な夏の高校野球大会

夕方の東の空に出た珍しい形の雲 甲子園は高校球児の聖地なのか……。夏の全国高校野球が甲子園球場で始まった。しかし近年の猛暑続きの結果、試合時間は午前8時から午前2試合、午後4時15分から午後の2試合、という変則的な時間帯で実施されている。だが…

2840 家族愛にあふれた別れの言葉  原爆に斃れた20歳の学生の手記

萩に似た小さな花のコマツナギ 広島・長崎で夥しい人たちが命を落とした。その一人の遺書を読み返した。東大在学中に学徒出陣、陸軍少尉として派遣された広島で被爆した鈴木実さん(当時20歳)の家族愛にあふれた遺書である。『きけ わだつみのこえ』(日…

2839 近づいているのか「秋隣」 広島・長崎にも露草が

ひっそりと咲くツユクサ 昔から「二八(にっぱち)」という言葉がある。2月と8月は商売の売り上げが落ちる月ということが語源だそうだ。2月は年末年始の反動で需要が落ち込み、8月は暑さとお盆休みで物が売れない、ということだ。かつてこの二八現象は、…