小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2008-07-01から1ヶ月間の記事一覧

308 芥川賞「時の滲む朝」 挫折と再生の青春

中国の地方で育った2人の天安門世代青年の挫折と再生の物語だ。テレビに映し出された戦車の姿を今も忘れることはできない。天安門で学生や市民に銃を向けた鄧小平の強硬な政治姿勢は世界に大きな衝撃を与えた。それだけに重厚な作品を想像して手に取った。…

308 芥川賞「時の滲む朝」 挫折と再生の青春

中国の地方で育った2人の天安門世代青年の挫折と再生の物語だ。テレビに映し出された戦車の姿を今も忘れることはできない。天安門で学生や市民に銃を向けた鄧小平の強硬な政治姿勢は世界に大きな衝撃を与えた。それだけに重厚な作品を想像して手に取った。…

307 肘折温泉にて コーヒーの思い出(3)

宿の支払いを済ませて、車に乗り込んだ私たちを宿のおかみさんと娘さんが見送ってくれた。振り返ると、おかみさんは車に向かって、手を合わせていた。 「へえ-信心深い人だ」と感心した。「私たちの道中が無事でありますようにと祈ってくれたのだろうな」。…

307 肘折温泉にて コーヒーの思い出(3)

宿の支払いを済ませて、車に乗り込んだ私たちを宿のおかみさんと娘さんが見送ってくれた。振り返ると、おかみさんは車に向かって、手を合わせていた。 「へえ-信心深い人だ」と感心した。「私たちの道中が無事でありますようにと祈ってくれたのだろうな」。…

306 肘折温泉にて コーヒーの思い出(2)

「お客さん、どうしたのですか」 お客さんというからには、この宿の女中さんかなと、私は顔を上げた。しかし、目の前にいる女性は、どうもそんな感じはしない。 どこか垢抜けている。年齢は22、23歳くらいか。さわやかな顔立ちをしている。私の疑問はすぐに…

306 肘折温泉にて コーヒーの思い出(2)

「お客さん、どうしたのですか」 お客さんというからには、この宿の女中さんかなと、私は顔を上げた。しかし、目の前にいる女性は、どうもそんな感じはしない。どこか垢抜けている。年齢は22、23歳くらいか。さわやかな顔立ちをしている。私の疑問はすぐに解…

305 肘折温泉にて コーヒーの思い出(1)

山形県の肘折温泉は、すり鉢の底のような、谷の底辺部に位置している。もう5月というのに、道路の周囲にはまだ1㍍余の雪がしぶとく残っていた。 車はのろのろと走っているのに、その振動で残雪がいまも雪崩となって襲ってくるのではないかと心配になるほど…

305 肘折温泉にて コーヒーの思い出(1)

山形県の肘折温泉は、すり鉢の底のような、谷の底辺部に位置している。もう5月というのに、道路の周囲にはまだ1㍍余の雪がしぶとく残っていた。車はのろのろと走っているのに、その振動で残雪がいまも雪崩となって襲ってくるのではないかと心配になるほどだ…

304 「百万円と苦虫女」 放浪し成長する女性

題名からして変わっている。「百万円と苦虫女」とは。この題名と監督のタナダユキ、主演が蒼井優という取り合わせがチケットを買った理由だった。 控えめで、影のある蒼井の演技につい引き込まれた。平凡な女性が刑事事件を起こし(冤罪なのかもしれないが)…

304 「百万円と苦虫女」放浪し成長する女性

題名からして変わっている。「百万円と苦虫女」とは。この題名と監督のタナダユキ、主演が蒼井優という取り合わせがチケットを買った理由だった。控えめで、影のある蒼井の演技につい引き込まれた。平凡な女性が刑事事件を起こし(冤罪なのかもしれないが)…

303 教員汚職と書店通り魔事件に思う 鈍感政治への警鐘

猛暑が続く中で大分の教員汚職事件、八王子の書店通り魔事件とまるで世紀末的な事件が相次いで起きている。 世紀末とは、一つの社会が最盛期を過ぎて退廃的な現象がみられる時期を言うのだが、21世紀に入ってまだ間もないとはいえ日本社会は精神的にも退潮…

303 教員汚職と書店通り魔事件に思う 鈍感政治への警鐘

猛暑が続く中で大分の教員汚職事件、八王子の書店通り魔事件とまるで世紀末的な事件が相次いで起きている。世紀末とは、一つの社会が最盛期を過ぎて退廃的な現象がみられる時期を言うのだが、21世紀に入ってまだ間もないとはいえ日本社会は精神的にも退潮…

302 旅の友は文庫本 北海道の夏に読んだ2冊

旅をするときには、必ず文庫本をバッグに入れる。電車や飛行機、あるいはバスの中で読みふけるのが習慣になっている。数日前、北海道を旅して2冊の文庫本を読んだ。 旅の目的地は札幌と夕張。札幌から夕張に向かう。何度も列車を乗り換え1両編成のJRに乗る…

302 旅の友は文庫本 北海道の夏に読んだ2冊

旅をするときには、必ず文庫本をバッグに入れる。電車や飛行機、あるいはバスの中で読みふけるのが習慣になっている。数日前、北海道を旅して2冊の文庫本を読んだ。 旅の目的地は札幌と夕張。札幌から夕張に向かう。何度も列車を乗り換え1両編成のJRに乗る…

301 札幌を歩く 喫茶店にて

札幌の街を歩く。7月半ば。東京に比べると、温度も湿度も低い。上着姿のサラリーマンの姿が目に付く。 駅前通りは、JR札幌駅から大通りまでの地下道をつくる工事の真っ最中だった。その喧騒がいやで時計台に向かい、すぐ近くの喫茶店に入る。以前2回、合計…

301 札幌を歩く 喫茶店にて

札幌の街を歩く。7月半ば。東京に比べると、温度も湿度も低い。上着姿のサラリーマンの姿が目に付く。 駅前通りは、JR札幌駅から大通りまでの地下道をつくる工事の真っ最中だった。その喧騒がいやで時計台に向かい、すぐ近くの喫茶店に入る。以前2回、合計…

300 クラシックとの再会 仕事の合間のコンサート

猛烈に仕事が忙しい時代に、ある交響楽団の定期会員になり、仕事の途中で演奏会に足を運んだ。会場はいつも新宿の厚生年金会館だった。たまに音楽でも聴かないとストレスがたまってしまうと思ったからだ。それが私の場合はクラシックだった。 中学の音楽の授…

300 クラシックとの再会 仕事の合間のコンサート

猛烈に仕事が忙しい時代に、ある交響楽団の定期会員になり、仕事の途中で演奏会に足を運んだ。会場はいつも新宿の厚生年金会館だった。たまに音楽でも聴かないとストレスがたまってしまうと思ったからだ。それが私の場合はクラシックだった。 中学の音楽の授…

299 畳の上で死ぬということ 在宅ホスピス・ケアの時代に

後期高齢者医療制度」という新しい制度に批判が集中した。高齢者の定義は難しい。しかし、いずれにしろ人間は年をとる、とらないにかかわらずいつか死ぬ運命にある。千葉市の幕張メッセで開かれた「日本ホスピス・在宅ケア研究会全国大会」をのぞいて、いま…

299 畳の上で死ぬということ 在宅ホスピス・ケアの時代に

後期高齢者医療制度」という新しい制度に批判が集中した。高齢者の定義は難しい。しかし、いずれにしろ人間は年をとる、とらないにかかわらずいつか死ぬ運命にある。千葉市の幕張メッセで開かれた「日本ホスピス・在宅ケア研究会全国大会」をのぞいて、いま…

298 「こんにちはアン」 スーパー少女の生い立ち

現代日本をどのように見たらいいのだろう。戦後の高度経済成長期、バブル経済期までを例えば「ポジティブ日本」と呼ぶなら、バブル崩壊から現代に至るまでの社会は「ネガティブ日本」といえようか。自殺者が10年連続して3万人を超えるという事実はその象…

298 「こんにちはアン」スーパー少女の生い立ち

現代日本をどのように見たらいいのだろう。戦後の高度経済成長期、バブル経済期までを例えば「ポジティブ日本」と呼ぶなら、バブル崩壊から現代に至るまでの社会は「ネガティブ日本」といえようか。自殺者が10年連続して3万人を超えるという事実はその象…

297 戸塚洋二さんの死 開花した才能の陰に人生の出会い

ノーベル賞の有力候補と言われていた戸塚洋二東大特別栄誉教授が亡くなった。66歳。なぞの素粒子、ニュートリノに質量があることを示したことで知られる。ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんの愛弟子であり、戸塚さんの死を伝える新聞を見て、人間の才…

297 戸塚洋二さんの死 開花した才能の陰に人生の出会い

ノーベル賞の有力候補と言われていた戸塚洋二東大特別栄誉教授が亡くなった。66歳。なぞの素粒子、ニュートリノに質量があることを示したことで知られる。ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんの愛弟子であり、戸塚さんの死を伝える新聞を見て、人間の才…

296 「朝の散歩」 詩人の命の声

友人の詩人、飯島正治さんから最新の詩集「朝の散歩」が届いた。何げない日常を26篇の詩にまとめ、美しい言葉で綴っている。文芸評論家の秋山駿さん流にいえば「生きることを喜び、その喜びを深くするために、愉しんで書いている。愉しく書くそこから、命の…

296 「朝の散歩」 詩人の命の声

友人の詩人、飯島正治さんから最新の詩集「朝の散歩」が届いた。何げない日常を26篇の詩にまとめ、美しい言葉で綴っている。文芸評論家の秋山駿さん流にいえば「生きることを喜び、その喜びを深くするために、愉しんで書いている。愉しく書くそこから、命の…

295 「美しい」が死語の時代 拝金主義と美意識と

美術家の森村泰昌さんと分子生物学者の福岡伸一さんの『「美しい」って死語ですか』という対談が朝日新聞(7日付け朝刊)に掲載された。2人は対談で、最近「美しい」という言葉が語られなくなったと言う。そういう時代に突入したのだろうか。 2人の話の主…

295 「美しい」が死語の時代 拝金主義と美意識と

美術家の森村泰昌さんと分子生物学者の福岡伸一さんの『「美しい」って死語ですか』という対談が朝日新聞(7日付け朝刊)に掲載された。2人は対談で、最近「美しい」という言葉が語られなくなったと言う。そういう時代に突入したのだろうか。 2人の話の主…

294 何気ない家族の光景 「歩いても 歩いても」

何気ない日常の会話が続きながら、妙に奥の深さを感じさせる映画を見た。是枝裕和監督の「歩いても 歩いても」という題名からして変わった作品だ。 15年前の夏に海の事故で死んだ長男の命日に集まった家族の話である。涙を流したり、手に汗をかいたりはしな…

294 何気ない家族の光景 「歩いても 歩いても」

何気ない日常の会話が続きながら、妙に奥の深さを感じさせる映画を見た。是枝裕和監督の「歩いても 歩いても」という題名からして変わった作品だ。 15年前の夏に海の事故で死んだ長男の命日に集まった家族の話である。涙を流したり、手に汗をかいたりはしな…