小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1594 信用ならない野心家やおしゃべり セイダカアワダチソウの季節に

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 大佛次郎の『パリ燃ゆ』(朝日新聞)を入院中のベッドで読んだ。ナポレオン三世による国民議会に対するクーデターと第二帝政普仏戦争でのフランスの敗戦という歴史を経て、パリで蜂起したパリ・コミューンヴェルサイユの国防政府(政府軍)との攻防を描いた長編のノンフィクションである。その中に大佛が評価した言葉がある。  

 パリ・コミューンは、1871年3月18日から5月28日までの72日間、普仏戦争プロイセン軍=ドイツとフランスとの戦い)敗北後のパリで、労働者階級を中心にした民衆によって樹立された世界最初の社会主義政権のことである。パリの各区から選出された代議員によってコミューン(自治政府)を組織したものの、プロイセン軍の支援を受けたヴェルサイユに拠点を置いた政府軍との「血の一週間」といわれる大激戦で崩壊した。この激戦でコミューン側の4万人近い人たちが虐殺されたといわれている。

 前置きはこれくらいにして、コミューンが同年3月25日に出した市会選挙に関する布告(前書きは略)を以下に紹介する(同書より)。

《市民諸君、諸君に最もよく従う人々は皆さんの中から選ぶ人々であり、諸君の生活を生活し、諸君の悩みを悩む人々であることをお忘れないように。  

 成り上がり者や野心家たちを信用してはなりません。そのどちらも自分自身の利益だけしか考えず、おしまいには自分がなくてはならぬ人間だと思い上がるようになるものだ。  

 行動に出ることの出来ぬおしゃべりどもも同様に信用しないでくれたまえ。彼らは、一つの演説、一つの言い回しの効果や、気がきいた言葉の為に一切を犠牲にして了(しま)う。またあまり財産に恵まれているような人はお避けなさい。財産ある人間が労働者を兄弟と見るような気持ちになることは、稀れにしかない。  

 最後に、誠実な確信を持つ人、断乎と行動的で、公正な感覚と周知の正直さを備えた民衆の中の人々を探すように。諸君の票を漁り求めることなどしない人々に諸君の選択を向けるように。まことの価値は慎み深いものです。選挙する者がその代表者を見つけるべきで、後者の方が出しゃばる筋のものではない。  

 この見方を諸君が頭においてくれれば、諸君はしまいには真の人民の代表を作り出す、自分が諸君の主人であるように考えたりすることが決してない代議士を見つけ出すことでしょう。私どもは、それを確実に信じるものです。》  

 大佛次郎はこの布告について「布告と言う名さえ似合わぬほどに、歴史の上でも、ほとんど異例のものである。真理がそこに輝き誠実な心の溢れた、また如何にも単純素朴な言葉であった」と、記している。パリ・コミューンについては評価が厳しい。ただ、この布告の純粋さを疑うことはできない。  

 22日は総選挙の投開票日である。この言葉を参考に、だれに投票するかを考えてみるのもいいかもしれない。  

 足のけが(右足の大腿四頭筋断裂)で1カ月近く入院して、先日退院した。久しぶりに散歩コースの調整池まで行くと、セイダカアワダチソウが満開になっていて、秋が深まっていることを感じた。最近は、ススキとの生存競争に負けて、その勢いが弱くなっていた。だが、ことしは様相が変わっていて、ススキは少なくなりセイダカアワダチソウの黄色い花が調整池の周囲を黄色いじゅうたんのように飾り立てている。東日本大震災の被災地でもこの花が、増え続けているのだろうか。

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     1039 セイタカアワダチソウ異聞 被災地で嫌われる黄色い花