小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

2022-01-01から1年間の記事一覧

2248 陰鬱時代から希望の時代へ 歴史は繰り返すのか

今年の十大ニュースのトップは、どの報道機関も一致して国内が「安倍元首相銃撃」、海外が「ロシアのウクライナ侵攻」だった。双方とも歴史に残る大ニュースだったことは言うまでもない。この2つだけでなく、今年の大きなニュースはほぼ暗い事象であり、2…

2247 『現代を歩く』(12) 企業の良心ここに ある個人体験

「薄皮まんじゅう」といえば、福島県郡山市の老舗「柏屋」の名物まんじゅうだ。CSR(企業の社会的責任)が問われる時代に、柏屋は地域だけでなく全国的にも評価されるCSR活動をしているという。「白い恋人」の事件を覚えているだろうか。2007年8月、北海道の…

2246『現代を歩く』(11) 1%のひらめきと99%の努力 ひたむきな青春

発明王といわれたトーマス・エジソンは「天才とは1%の霊感(ひらめき)と99%の努力なり」という名言を残した。天才といわれる人でも物事を成功や完成に導くには、生まれつきの才能が占める部分は1パーセントで、あとの99パーセントは努力が必要なことを意…

2245『現代を歩く』(10)若い世代へ 閉そく感を打ち破れ

友人が中学校の校長を退職し、一人で学習塾を始めた。小学生から中学生までが対象だ。元々、英語教師だった彼は塾では数学や国語も教えている。数学のテキストをつくるために、方程式も自分で解いてみる。一問解くのに時間がかかることもあるが、頭の体操に…

2244『現代を歩く』(9)うごめく黒い犬 友への問いかけ

友人の一人がうつ病で苦しんでいる。生真面目で正義感が強く、肉体的にも頑健だった。しかし、人のためにと思って始めた仕事の歯車がかみ合わず、心を病んでしまったのだ。警察庁が7月末に発表した2009年上半期の自殺者(6月末の暫定値)は1万707…

2243『現代を歩く』(8)難病を超えて 人間は強いのだ

天道荒太の小説『悼む人』は、親友の死をきっかけに、会社をやめて全国を放浪しながら、事件や事故で命を落とした人に対し悼(いた)むという慰霊行為を続ける青年の物語だ。生きることが大変な時代に、天童は人間の尊厳とは何かを私たちにこの作品で問いか…

2242『現代を歩く』(7 )教育への思い遥かに 風のように去った記者

後輩が亡くなってもう5年が過ぎた(注:2009年現在)。N君という若いころは泣き虫の記者だった。初めて一緒に仕事をしたのは、中国残留孤児といわれた人たちが肉親を捜す調査のため中国東北部からやってきた時だった。会場は代々木の国立オリンピック記念…

2241道義外れた政治家の末路 「小人喩於利」を想起

(季節外れに咲いた遊歩道のヒマワリ) 「最後に勝つのは道義であり、誠であり、まごころである」。薗浦健太郎(50)という千葉5区選出の自民党衆院議員が議員を辞職し、自民党も離党したニュースは、この言葉(シベリア抑留中に亡くなった山本幡男さんの…

2240『現代を歩く』(6)薬物との闘い 人間の心を蝕む覚せい剤

人気女優でタレントのSが覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された(注:2009年8月8日)。彼女の前に逮捕された夫から勧められて、手を出したと供述していると報道されている。そろいもそろって、思慮分別をなくした夫婦としか言いようがない。覚せい剤の恐ろし…

2239『現代を歩く』(5)逆境をバネに ある中国残留邦人の物語

知り合いに「値上げをしない」ことをモットーにした中華料理店経営者がいる。八木功さんだ。知り合ってからもう25年以上が経つ。彼はその信念を守って一度も値上げをしていないのだから、やるものだと思う。元中国残留邦人だった。ことしは戦後64年(この…

2238『現代を歩く』(4)小さな美術館の心の絵 琴線に触れる個性

地方で暮らすことに憧れを持つ人が増えている。それを実践し北海道に移り住んだ知人もいる。都会の便利さを捨て、豊かな自然のなかでゆったりと人生を送ることは悪いことではない。そんな一人を訪ねて、電車とバスを乗り継いで栃木県那珂川町に出掛けたこと…

2237『現代を歩く』(3)輪禍の果てに 涙の編集長

日本はかつて「交通戦争」といわれた時代があった。昨今は、そんな時代に比べると、かなり死者数は減った。しかし、車社会の宿命のように年間で5千人以上が亡くなる。一方、自殺者はその6倍の3万人を超えている(注:2008年現在)のだから、現代は死と…

2236 『現代を歩く』(2) 最期の時の迎え方 新しい家族とともに

人はどのような最期を迎えるのが理想なのだろうか。最近ホスピス関係者の間では、家で最期の時を迎えさせる「在宅ケア」という考え方が議論されている。しかし、身寄りがなかったり、事情があって懐かしい自宅に戻ることができない人が大多数かもしれない。…

2235『現代を歩く』(1)支え合う小さな命 小児がんの子どもたち

私がこれまで書いたコラムを『現代を歩く』というタイトルでまとめて連載します。日本各地で見た事象や会った人に焦点を充てたもので、随時掲載します。

2234『ジャーナリストを生きる』 反骨記者の著作集

子や孫に巨額のツケを回しつつ宴続ける国債大国 「国民に哲学語れる指導者よ出でよ!」と長年夢見てきしが この短歌を見て、何を感じるだろう。突然、降ってわいたような防衛費の増額。その財源問題で政府与党は大騒ぎし、迷走している。復興税の流用という…

2233「歳月」を経て12月8日 シベリア抑留の本を読む

作家の辺見じゅんは、太平洋戦争に関する著作が多い。中でもシベリアに抑留されて亡くなった、島根県の出身である山本幡男さんの遺書を抑留者仲間が遺族に届ける『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(文春文庫・ノンフィクション)、『ダモイ遥かに』(メデ…

2232「名も知らぬ花」はレッドリストに 森で見つけたマヤラン

(筆者が撮影したマヤラン) 里山や自然公園を歩いていて知らない花を見ることがある。いわば「名も知らぬ花」だ。「名も知らぬ」という言葉で思い浮かべるのは島崎藤村作詞、大中寅二作曲の『椰子の実』という名曲だ。この詩が生まれたのは藤村の友人である…

2231 極限状態で弾いたショパン 冬に聴くノクターン變ハ短調2曲

CDで「ピアノの詩人」といわれるショパン(1810~49)のノクターン變ハ短調『遺作』を聴いた。12月に入り急に寒さが身に沁みようになり、なぜかショパンに耳を傾けたくなったからだ。中でも『遺作』のやさしい旋律は、くよくよするのはよくない、…

2230 再生した世界遺産のドブロブニク 遥かなるクロアチア

サッカーW杯の日本代表の活躍が大きなニュースになっている。1次リーグで優勝候補といわれたドイツ、スペインに勝ち、決勝トーナメントへの進出を決めた。同トーナメント1回戦では、前回のロシア大会で準優勝の旧ユーゴに属したクロアチアが相手だ。ふだ…

2229 12月でも黄金時間が 陸游の歎きを少なく

「人間には生命ゆえの黄金時代とは別に、人生の『黄金時間』というものが流れている」。これは詩人の大岡信の言葉(『瑞穂の国うた』新潮文庫)だ。黄金時間とは大岡の造語で、衰えても常にあり得る、精神面の充実、成熟を指すそうだ。12月。人生でいえば…

2228 太陽のような存在は「英知」 コロナ禍第8波・人類の文化を思う

コロナ禍が第8波の様相だ。多くの人たちが3年続くウイルスの脅威に慣れてしまったせいか、外ではマスク姿の人も次第に少なくなりつつある。そして、昨今は以下のような光景も時折見かける。「行く人の咳(せき)こぼしつつ遠ざかる 高浜虚子」。世界を覆う…

2227 目立たない枇杷の花 鳥居耀蔵の逸話が示す生命力

「枇杷(ビワ)の花」が咲いている。独特の香りがするが、あまり目立たない花だ。枇杷は房総館山周辺では名物ともいわれる。「枇杷」は夏の季語で、「枇杷の花」は冬の季語になる。俳句歳時記には「バラ科の常緑高木で11~12月、枝先に円錐花序をなし白…

2226 遥かなるマチュピチュ 霧の朝の幻想

《「一段と高い孤峰のてっぺんに、灰白色に静まりかえってひろがる石積みの遺跡」 「真青にはりつめた青空。透明な陽光のもとに、この壮大な神殿都市の廃墟は見るものの心を無限の神秘に誘う」》 南米ペルーのインカ遺跡、マチュピチュに関する岡本太郎の印…

2225 歌をめぐる得難い体験 『今しかない』第6号から(2)完

人は日々、死と隣合わせに生きている。それを意識するかどうか、人によって異なる。ここで紹介する小見山進さんの経験は、限界ぎりぎりに追い込まれても人の生きる力の強さを示している。一方、ハーモニカの天本淳司さんの経験はボランティアとしての醍醐味…

2224 人生はボードレールよりも 冊子『今しかない』6「今があるのは」特集(1)

「人生は一行のボウドレエルにも若(し)かない」(芥川龍之介)。ボウドレエルは近代詩の祖といわれる19世紀フランスの詩人、ボードレールのことだ。芥川のこの言葉は『或阿呆の一生』という作品の冒頭にあり、「人生は、ボードレールの詩の一行にも及ば…

2223 許容範囲を超えた人々 冬の日・喫茶店の会話より

散歩の途中、いつもの喫茶店に行くと、顔見知りの2人が熱心に語り合っている。一度、仲間に入ったらなかなか解放してくれなかったこともあり、私は2人の席と少し離れた窓際の席に座った。しかし、老人の声は大きく、2人の会話が私の耳にも入ってきた。難…

2222 シャンソンに生きて『枯葉』の季節の思い出

シャンソンをなりわいとしている京都の友人がいる。S君という子どもころからの友人だ。枯葉が舞う季節になると、S君の歌、中でも『枯葉』を無性に聴きたくなる。人生の哀歓を歌う歌詞は心に染みて、忘れることができない。雨の中、傘を持って歩いてみた。昨…

2221『ゼルマの詩』のバトンリレー  友の生きた証を伝える

ゼルマ・メーアバウム=アイジンガー(1924~42)という詩人がいた。ナチス・ドイツのホロコースト(ユダヤ人絶滅政策)により、18歳でこの世を去ったユダヤ人少女だ。ルーマニア・チェルニウツィー(現在はウクライナ西部の都市)で生まれ、ナチス…

2220「空」に向け吠えてみよう 有明の月を見ながら

詩人、萩原朔太郎(1886~1942)の代表的詩集は『月に吠える』(1917=大正6年2月刊行)だろう。早朝、西の空に白い残月、有明の月(夜が明けてもまだ空にある月のこと、季語は秋)がこちらに向かって何かを語りかけているように出ている。そ…

2219 上下と裏表は何を意味する? 抽象画と長崎の「焼き場に立つ少年」

オランダ出身の抽象画家として知られるピート・モンドリアン(1872~1944)の『ニューヨークシティー1』という絵が75年以上にわたって逆さに飾られていた、という記事を読んだ。この人の絵は「水平・垂直の直線と3色から構成される四角形」の『コ…