小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2110 ウクライナ住民とロシア兵士の攻防『ひまわり』の街で

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 ロシア軍のウクライナ侵攻に関して、春江一也『プラハの春』(集英社文庫)で紹介されたものと似た動きがウクライナ国内で起きているという。プラハの春は、54年前の1968年に中欧チェコスロヴァキア(現在はチェコとスロヴァキアに分離)で起きた民主化の動きで、当時のソ連(ロシア)はワルシャワ条約機構軍を投入して軍事侵攻、自由化を求める運動を圧殺した。同書によると、やってきたソ連兵士に対しチェコスロヴァキア全土で市民たちが話しかける行動を起こし、兵士たちが消耗する姿が見られたという。今回のウクライナ侵攻でも、市民が兵士に話しかけるというプラハの春同様の動きがあることが報じられている。

プラハの春』の著者、春江は外交官としてチェコスロヴァキアの在日本大使館に在職中、この運動に遭遇した。この作品はフィクションとはいえ、かなりの部分で当時の実情が織り込まれており、市民とソ連兵士とのやり取りも実際にあったことは間違いないようだ。市民とのやり取りの中で兵士たちが消耗し、上官がうそをついて君たちを動員したのだと指摘され、自殺した兵士がいたことも書かれている。

 今回の動きである。イギリスの公共放送・BBC放送は24日に南部のヘルソン州ヘニチェスクで撮影したという音声入りの映像を放送、注目を集めている。機関銃で武装したロシア兵に女性が「占領軍ね! ファシスト!私の地元にきて、一体何なの。何で武器を持ってここにきたの」「このヒマワリの種を持っていきなさい。あなたが死ねば、そこから花が咲くから。この先あなたたちは呪われる」と詰め寄与る場面など、ウクライナ国民・市井の人たちの怒りが伝わる動画である。1分2秒のこの動画の緊迫したやり取りは以下の通りである。

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 女性 あなた誰(兵士が演習と答えているようだが、聞こえない)演習ってなんのこと!あなたロシア人なの?ロシア人?

 兵士 ええ。

 女性 一体ここで何をしているの。

 兵士 話をしてもどうにもならない。

 女性 占領軍ね、ファシスト! 何で武器を持ってここにきたの!

 兵士 我々は…… 誰が……

 女性 このタネを持っていきなさいよ。あんたがここで死んだとき、ヒマワリがはえるように。

 兵士 そうか……話をしてもどうにもならない。事態がこれ以上悪くならないようにしましょう。頼みます。

 女性 私たちが事態を悪くするって、どういうこと?

 兵士 事態がこれ以上悪くならないようにしましょう。

 女性 あんたたちみんなこのタネをポケットに入れてよ。タネを持って行ってよ。あんたたちはタネを持ってここで死ぬんだから。私たちの土地へやってきて……

 兵士 分かった。聞くだけ聞きましたよ。

 女性 分かっているの?あんたたちは占領軍だ。あんたたちは敵だ。

 兵士 分かった。

 女性 この先あんたたちは呪われる。そうだ!

 兵士 そうか。

 女性 そうだよ。

 兵士 ここまでだ。いいか、よく聞いて。

 女性 聞いたよ。

 兵士 事態がこれ以上悪化しないようにしよう。

 女性 悪化しないようにって? 呼ばれてもいないのにやってきたのはあんたたちでしょ。

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 ヘルソン州は、1970年に公開されたイタリア映画『ひまわり』(監督ヴィットリオ・デ・シーカ、主演ソフィア・ローレンマルチェロ・マストロヤンニ)のラストシーンのロケ地として知られている。地平線まで続く広大なヒマワリ畑と傷心のソファーローレンの絶望の表情を記憶している人は多いだろう。

 ヒマワリはロシアの国花(もう一つはキク科のカミツレ)であり、ウクライナでもかなり栽培されており、特にヘルソン州では栽培が盛んだそうだ。双方にとってなじみの深い植物を利用した女性市民の勇気ある行動。敬服するのは私だけではないだろう。

 モスクワからの報道によると、今回のロシア軍のウクライナ侵攻に対しツイッターなどSNSで、市民に詰問されるロシア兵を撮影したとみられる複数の動画が投稿されたという。ロシア兵が路上で市民に尋問され、おびえた表情で名前と所属部隊を言い「演習として送られた」と述べる兵士の姿や、市民らに罵倒され、頭を抱えて座り込むロシア兵の姿も映っているという。こうした市民たちの抵抗が功を奏するよう願うばかりである。

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 写真1、トルコで見た美しい夕陽 2、ヨーロッパの山並み。この向こうにウクライナがある。(記事とは関係ありません)

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