詩
最近、オンラインの講演を聴く機会が増えている。大学や団体などが主催したさまざま講演会はコロナ禍の中、外出をしないでもパソコンを使って話を聴くことができるので、利用している人はかなりいるだろう。そんな中、先日は天文学者、谷口義明氏(放送大学…
このごろは、夜明け前の東の空を見上げるのが楽しみだ。明けの明星(金星)が輝いているからだ。「いつせいに春の星座となりにけり」(黒田杏子)という句がある。今日は立春。この日が来ると、黒田の句のように昨日までは冬の星座だったものが、今日からは…
「夜霧」や「朝靄」は、情緒的な響きがあるが、日常の会話で「霧」と「靄」(もや)を使い分ける人はほとんどいないだろう。物の本を調べると、気象用語でははっきり区分けする基準があるのだという。この基準に当てはめると、今朝、わが家の周辺で発生した…
調整池を回る遊歩道を散歩していると、このところ毎朝のように調整池から霧が立っている。放射冷却によって起きる現象だ。長い年月見慣れているとはいえ風情があって、見飽きない。対面からやってきた女性が『冬景色』の歌を口ずさみながら歩いていく。女性…
12月もきょうで10日。残すところことしも21日になった。年の暮である。昨年から続くコロナ禍。南アフリカで見つかった新変異株オミクロンが世界的に拡大し、世界中で新規の感染者が増え続けている。一方の日本。第5波が落ち着き、いまのところ感染者…
ピアノやヴァイオリンは本当に素敵だと思うけれど、私には手が出なかった。 あくせく働くだけの私には、今まで、口笛をものにするのが精一杯。 もちろん、それとてまだ名人芸からは程遠い。何しろ芸術は長く、人生は短し、だ。 でも、口笛一つ吹けない人は可…
毎朝、6時前に散歩に出ます。いつも最初に歩くのは調整池を回る遊歩道ですが、今朝歩いていて西の空を見上げますと、下の方が藍色でその上の部分がピンクに染まっていました。なかなか幻想的0で美しい空の色でした。日の出前のことです。これはビーナスベル…
さうか これが秋なのか だれもゐない寺の庭に 銀杏の葉は散ってゐる (草野天平「秋」・定本草野天平全詩集より。天平は詩人草野心平の弟) 晩秋。銀杏の葉も黄色く色づき、散り始めている。私のふるさとの浄土真宗の寺にも銀杏の木があった。秋になると、黄…
最近2つの新聞記事に驚いた。いずれも政治にかかわるニュースであり、政治の信頼とは何かを考えさせられたのは私だけではないはずだ。近くにあった高橋健二訳『ゲーテ格言集』(新潮文庫)を見ていたら、「有能な人は、常に学ぶ人である」という言葉が出て…
詩人で彫刻家の高村光太郎は、戦後、岩手で山小屋生活をした際「日本はすつかり変わりました。あなたの身ぶるひする程いやがつてゐた あの傍若無人のがさつな階級が とにかく存在しないことになりました。(以下略)」(詩集『典型』の「炉辺 報告智恵子に」…
金木星の花が咲き出した。小さな橙色の花はあまり見えない。しかし、あの独特の香りで季節の花の開花を知った。備忘録によると今から6年前の2015年は9月23日に「金木犀開花。例年よりかなり早い」とあるから、今年は夏から秋への移ろいというバトン…
菅首相が3日、自民党臨時役員会で自民党総裁選に立候補しないことを表明した。今月末の党総裁任期満了に伴い首相を退任することなるわけで、わずか1年余の短命首相といえる。このニュースを見ながら、孔子と弟子たちの問答をまとめた『論語』の「政治」に…
一枚の写真が目に焼き付いている。広島に続いて原爆が投下された長崎で米国人カメラマンが撮影した「焼き場に立つ少年」と題した写真だ。カトリックのローマ法王庁が「核なき世界」を訴えるフランシスコ法王の指示で、教会関係者に対しこの写真入りカードの…
一人の少女が泣きながら登校している。 背負っているランドセル。 黄色い交通安全のカバーが付いているから、小学校1年生だ。 なぜ、泣いているのだろう。 小学校の方から歩いてきた、赤ちゃんを抱いた若い女性が聞いている。「どうしたの。困ったことがある…
現代に生きる私たちにとって逃げることができない重い存在は、コロナ禍といっていい。この1年半、この話題が果てしなく続く日常だ。それは詩人にとっても無縁ではなく、最近、手元に届いた詩誌や小詩集にもコロナ禍が描かれている。この厄介な感染症が収束…
アメリカからイギリスに移り住んだ詩人、T・S・エリオット(1888~ 1965)の『荒地』という詩は第一次大戦後のヨーロッパの荒廃を描いたものといわれるが、コロナ禍の現代にも通じる。 4月は残酷極まる月だ リラの花を死んだ土から生み出し 追憶に感情をか…
特権をひけらかす テムズ川の流れに沿い 特権をひけらかす 街々を歩きまわり ゆききの人の顔に わたしが見つけるのは 虚弱のしるし 苦悩のしるし (寿岳文章訳『ブレイク詩集』「ロンドン」岩波文庫) この短い詩を書いたのは、イギリスの詩人で画家、銅版画…
山形の友人が2年ぶりに月山を縦走した、と知らせてきた。残雪が美しい月山の数々の写真を見て、私はカール・プッセ(1872~1918)の「山のあなた」という詩を思い浮かべた。昨年から続くコロナ禍によって社会全体が打ち沈み、爽快感を味わうことが…
街路樹のうちけやきが緑の葉を出し始め、目に優しい季節になってきました。近所の体操広場にあるマロニエの木も1本だけ葉が茂ってきています。広場を取り囲むように植えられている30本ほどのマロニエ。この木々の葉が茂り始めますと、ラジオ体操に集まる人…
先日のブログでフランスの外交官で詩人・劇作家ポール・クローデル(1868~1955)の『断章』という詩を紹介した。クローデルは、駐日フランス大使を務めたこともあって、大変な親日家だった。第2次大戦で日本の敗色が濃くなってきたころ、ある夜会…
コロナ禍の日々。時間はたっぷりある。考える時間があり余っているはずだ。だが、世の中の動きに戸惑い、気分が晴れない日が続いている。そんな時、手に取った志賀直哉の『暗夜行路』の一節に、そうかと思わせる言葉があった。その言葉は、私たち後世に生き…
「詩人が何にもましてひどく苦しめられている欠陥物で、この世の屑ともいうべきものは、言葉である。ときおり詩人は、言葉を――というよりはむしろ、この粗末な道具を用いて仕事をするように生まれついた自分自身を本当に憎み、非難し、呪うことがある。羨望…
「時無草」(ときなしぐさ)という名前の草はない。詩人の室生犀星と友人の萩原朔太郎は、詩の中にこの言葉を使っている。季節外れに芽吹いた草のことを犀星がイメージして詩にしたといわれ、朔太郎も使った、造語といえる。つい先日、散歩の途中、枯れた雑…
太平洋戦争・日中戦争は全国民を巻き込み、知識人も例外ではなかった。戦後、戦争に加担したことに対し批判を受け、思い悩んだ知識人・芸術家は少なくない。作曲家の古関裕而をモデルにしたNHKの連続ドラマ『エール』で、主人公が戦後苦しむ姿はその一例…
私らは別れるであらう 知ることもなしに 知られることもなく あの出会つた 雲のやうに 私らは忘れるであらう 水脈のやうに (立原道造詩集「またある夜に」より・ハルキ文庫) 梅雨が明けたら、猛烈な暑さが続いている。そんな日々、友人、知人の訃報が相次…
あの閃光が忘れえようか 瞬時に街頭の三万は消え 圧しつぶされた暗闇の底で 五万の悲鳴は絶え 峠三吉の「八月六日」という詩は、こんな書き出しで、以下原爆投下後の広島の惨状を綴っています。あと1カ月余で、広島に原爆が投下されて75年になります。そ…
前回に続き、『今しかない』(埼玉県飯能市・介護老人保健施設飯能ケアセンター楠苑、石楠花の会発行)という小冊子に絡む話題を紹介する。夏の全国高校野球大会が春の選抜大会に続いて中止になった。楠苑は全国高校野球連盟(高野連)に対し、この冊子など…
前回に続いて、詩の話です。大分県出身のクリスチャンで詩人、江口榛一(1914~1979)の「窓をあけよう」をこのブログで取り上げたのは8年前の2012年のことでした。あらためてこの詩を読み返してみました。最近の社会情勢に合致するような言葉…
私はスポーツが好きだ。見るのも私自身がやるのを含めて嫌いではない。新型コロナウイルスによる感染症がスポーツ界にも大きな影響を与えている。無観客で可能な競馬や競輪、ボートレースなどを除いて、ほとんどのスポーツは世界的に中止になる異常な状態が…
群馬県出身の詩人で児童文学者、山村暮鳥(1884~1924)の作品に「新聞紙の詩」という詩がある。それは、新型コロナウイルスによる感染症が大流行をしている昨今の内外の現象を表現したような、何とも気になる内容なのだ。暮鳥の詩の中には「一日の…