小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

音楽

2103 2月生まれの感覚 寒い朝でも……

このごろは、夜明け前の東の空を見上げるのが楽しみだ。明けの明星(金星)が輝いているからだ。「いつせいに春の星座となりにけり」(黒田杏子)という句がある。今日は立春。この日が来ると、黒田の句のように昨日までは冬の星座だったものが、今日からは…

2098 『ラルゴ』・幅広くゆるやかに ピアニスト反田さんの願い

『神よ、ポーランドをお守りください』。ポーランドの人々は幾世紀にもわたって、このような祈りを教会でキリストにささげたに違いない。同じ言葉を私たち日本人は、神にささげたことがあるのだろうか。それは別にしてポーランドはこれまで大国によって侵略…

2097 「マイクロムーン」を見る 地球から最も遠い満月の朝

(小学校の赤と緑のシンボルタワーの間に浮かぶ満月) 今朝の夜明け前、太平洋側の各地で西の空に輝く満月を見た人は多いのではないでしょうか。橙色の小ぶりな月。それはことし一番小さい満月で、「マイクロムーン」と呼ぶそうです。初めて聞く言葉です。控…

2095 遥かな空に描かれた文字は 武満徹『翼』を聴く

現代音楽の作曲家、武満徹(1930~1996)は、自身が作詞したポピュラー曲も少なくない。中でもよく知られているのは『翼』と『小さな空』だ。元同僚は、今年の年賀状にこの『翼』のことを書いてきた。この曲は「遥かな空に描く『自由』という字を」…

2088 コロナ禍の2021年を送る 逆境にあっても明日を信じて

2021年もコロナ禍で明け暮れました。新聞・通信社が選ぶ十大ニュース、今年もコロナ禍が内外ともにトップ(あるいはそれに近い)になっています。何しろ、世界の感染者は2億8436万人、死者は542万人(30日現在。日本は感染者173万3207…

2087 アナログへの回帰再び 新聞と行政の協定に衝撃

今年は私にとって「静」の漢字が似合う一年だった。ほとんど遠出はせず、東京の美術館には2回しか行かなかった。それでも自宅周辺の散歩だけは欠かさなかった。このほか古いレコードをアナログプレーヤーで聴き直し、それだけでは治まらずに長い間使ってい…

2084 蕭条とした冬景色 さ霧晴れても

調整池を回る遊歩道を散歩していると、このところ毎朝のように調整池から霧が立っている。放射冷却によって起きる現象だ。長い年月見慣れているとはいえ風情があって、見飽きない。対面からやってきた女性が『冬景色』の歌を口ずさみながら歩いていく。女性…

2082 コロナ禍続く年の暮れに 笑顔なきゴッホとベートーヴェン

2020年から続いているコロナ禍。間もなく2年になる。日本ではワクチン接種が進み、徹底した対策によって第5波が急速に収まりつつあり、見通しは明るいと思ったのは早計だった。南アフリカで見つかった新変異株、オミクロンが世界的に拡大し、成田から…

2079 せめて口笛を  人生は短し、芸術は…

ピアノやヴァイオリンは本当に素敵だと思うけれど、私には手が出なかった。 あくせく働くだけの私には、今まで、口笛をものにするのが精一杯。 もちろん、それとてまだ名人芸からは程遠い。何しろ芸術は長く、人生は短し、だ。 でも、口笛一つ吹けない人は可…

2078 アナログレコードを聴く 新鮮に響くハイドン・セット

名前も知らないし、どんな人かも知らない。ただブログを読んでいると、女性と思われる。拙ブログにコメントをいただいたこの人のブログを読んでいたら、「アナログのポータブルも悪くない」と題して、ポータブルのレコードプレーヤーを購入してレコードを聴…

2025 出会いの瞬間に生れた悲劇の種 小池真理子『神よ憐れみたまえ』

「どんな人生にも、とりわけ人生のあけぼのには、のちのすべてを決定するような、ある瞬間が存在する。ジャン・グルニエ/井上究一郎訳『孤島』」。この本のエピグラフである。この引用文は何を意味しているのか。私はこれまでエピグラフを注目して読んだこと…

2006 時には夢見ることも…… 藤田嗣治とサティの「出会い」?

CDでエリック・サティ(1866~1925)のピアノ曲作品集「3つのジムノペディ」(ポリドール。ピアノ/パスカル・ロジェ)を聴いた。このCDの解説は俳優で演出家の三谷礼二(1934~1991)が書いている。その中に、第18回東京五輪(19…

2003 ああ、不元気日本! 続くメーカーの身売りと譲渡

かつて「made in Japan」は、品質に優れた日本製品の代名詞だった。そんな言葉もいつの間にかほとんど聞かれなくなった。日本のメーカーの元気のなさばかりが目に付く昨今だ。音響メーカー「オンキヨー」は、主力のスピーカーやアンプなどの「ホームAV事業」…

1989 1本の花の物語 幻の「海棠の歌」

庭に1本だけある海棠の花が満開になった。昨年よりかなり早い。歳時記の本の説明には「4~5月に薄紅色の花をつけた花柄が長くうつむきかげんになるのをしばしば美女にたとえる」(角川学芸出版『俳句歳時記』)とあり、庭の一角が華やかに見える。題名や…

1979「明日は明日の風が吹く」の日々 想像の旅へ出よう

「明日は明日の風が吹く」の「明日」の読み方は文語的な「あす」ではなく、俗語風の「あした」だ。「明日のことなど何も分からない、そんな明日を心配しても始まらない」や「先のことを考えても仕方がない」という無責任、自棄的な意味がある一方で、「明日…

1978 寒い朝に…… 『四季・冬』を聴きながら

2月は1年で一番寒い季節だといわれる。朝6時前、まだ暗い中を散歩に出る。東の空に三日月が浮かんでいる。北風が顔に吹き付けてくる。吉田正が作曲した『寒い朝』という歌のメロディーが頭に浮かぶ。昭和の代表的作曲家(流行歌)といえば、吉田、古賀政…

1958 ベートーヴェンは《第九》が一番 何かを満たしてくれる曲

NHK教育テレビで、今年が生誕250年になるベートーヴェンの曲について「ベスト10」のアンケートをした番組やっていた。一番に選ばれたのは、私の予想通り《第九》だった。なぜ日本人は《第九》が好きなのだろう。ベートーヴェン研究者で政治活動家(…

1946 朝焼けに向かう風見鶏 耳袋を外して音楽を聴く

今朝は「朝焼け」が見えました。これは日の出間際の東の空が赤く染まる現象で、夏に多いため俳句では夏の季語になっています。近所の屋根の上の風見鶏が、この空に向かって何かを話しかけているような光景が目の前に広がっていました。少し足を延すと公園の…

1943 『里の秋』の光景 椰子の実の島の父思う歌

朝のラジオ体操で第1、第2の合間に首の運動がある。その時のピアノ伴奏は季節に合わせた曲が多い。この秋、ラジオからよく流れるのは『里の秋』(作詞斎藤信夫、作曲海沼實)だ。母と子が囲炉裏端で栗の実を煮ている、というのが1番の歌詞。だが、2、3…

1925 アウシュヴィッツのオーケストラ 生き延びるための雲の糸

「人間の苦悩に語りかけ、悲しみを慰め、それをいやすよう働きかける力こそ、音楽のもつ最高の性質の一つだと信じる」。音楽評論家の吉田秀和は、『音楽の光と翳(かげ)』(中公文庫)で音楽の力について書いている。第2次大戦下、死が日常化したナチスの…

1924 秋風とともに第2波去るか シューベルトの歌曲を聴きながら

新型コロナの感染拡大が止まらない。9月1日午後1時(日本時間)現在、世界の感染者は2540万5845人、死者は84万9389人(米・ジョンズ・ホプキンズ大まとめ)に達している。悔しいことだが、死者が100万人を超える日はそう遠くはないはず…

1910 奇跡を願うこのごろ 梅雨長し部屋に響くはモーツァルト

「奇跡」を辞書(広辞苑)で引くと、「(miracle)常識では考えられない神秘的な出来事。超自然的な現象で、宗教的真理の徴(しるし)と見なされるもの」とある。2020年の今年こそ、奇跡が起きてほしいと願う人が多いのではないだろうか。ある日突然、こ…

1895 地図の旅海外へ 今年はベートーヴェン生誕250年

コロナ禍により世界各国で様々な分野の芸術活動が休止せざるを得ない状況に追い込まれた。クラシックの演奏会もキャンセルとなった。6月になった。経済活動の再開とともに3カ月ぶりにウィーン(オーストリア)でウィーンフィルによる公演が再開され、ダニ…

1883「 栄冠は君に輝く」を歌おう『今しかない』(2)完

前回に続き、『今しかない』(埼玉県飯能市・介護老人保健施設飯能ケアセンター楠苑、石楠花の会発行)という小冊子に絡む話題を紹介する。夏の全国高校野球大会が春の選抜大会に続いて中止になった。楠苑は全国高校野球連盟(高野連)に対し、この冊子など…

1863 チャイコフスキーの魂の叫び 感染症と闘う時代に

日本は光の春なのですが、世界は不穏な時を迎えています。皆さんはどんな日々を送っているでしょうか。新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、多くの人たちは圧倒的に「不安」を抱いているといっていいかもしれません。私はチャイコフスキーの交響…

1846「第九」を聴きながら 横響と友人にブラボー!

友人が所属する横浜交響楽団の定期演奏会を聴いた。《横響定期第九70回記念・横響と第九を歌う会50周年記念》と題した演奏会は、飛永悠佑輝さんが指揮し、ワーグナーの楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第一幕への前奏曲に続いて、ベートーヴ…

1839 冬の朝のアーチ状芸術 虹の彼方に何が……

今朝は天気雨が降った。そのあと調整池の上には見事なアーチ状の虹が出た。虹は、雨上がりの時などに太陽と反対方向に現れる色のついた光の輪であり、太陽の光が雨滴の中で屈折して反射して発生するものだ。虹については世界で様々な言い伝えがあり、虹を指…

1827 郷愁と失意と 秋の名曲『旅愁』を聴きながら

東日本に上陸し大きな被害を出した台風15号と19号。新聞、テレビの報道を見ていると、復旧は容易ではないことが分かる。原発事故の福島が今回の災害でも一番被害が大きかったことに心が痛むのだ。私は台風の夜、アメリカの曲に犬童球渓(1879~19…

1801 カザルスとピカソ 「鳥の歌」を聴く

CDでチェロ奏者、パブロ・カザルス(1876~1973)の「鳥の歌」を聴いた。「言葉は戦争をもたらす。音楽のみが世界の人々の心を一つにし、平和をもたらす」と語ったカザルスは、1971年10月24日の国連の日に国連本部でこの曲を演奏した。カ…

1789 雨の日に聴く音楽 アジサイ寺を訪ねる

きょうは朝から雨が降っていて湿度は高い。ただ、午後になっても気温は約21度と肌寒いくらいだ。それにしても梅雨空はうっとうしい。CDでショパンの「雨だれ」(前奏曲15番 変ニ長調)をかけてみたら、気分がさらに重苦しくなった。仕方なく別のCDをか…