小径を行く 

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。(筆者=石井克則・遊歩)

音楽

2867 時代を超えて歌いつがれるメロディー 「浜辺の歌」と秋田

豊作を思わせる黄金の稲穂の波 所用で秋田に行ってきた。市内を歩いていて、「成田」という姓の家が何軒かあることに気が付いた。秋田で成田といえば、『浜辺の歌』の作曲者、成田為三(1893~1945)がよく知られている。成田は北秋田郡米内沢町(現在の北秋…

2851 「アンの青春」とあの歌 夕暮れに思う詩(うた)

夕暮れの時、あなたは何を思いますか今日一日に出会った人のこと、言葉もなく別れた人のことそれとも昼においしいものを食べたこと虚しいことより楽しいことが多かったでしょうか

2850 「エルベの誓い」はどこに 当事国抜きの米露首脳会談

植え込みの中にひっそりと「オオミズアオ」が トランプアメリカ大統領とプーチンロシア大統領が、ウクライナの停戦をめぐってアラスカで会談した。その内容はこのブログを書いている段階では分かっていない。侵略を受けた当事国のウクライナを抜きにしての会…

2849 それぞれの「涙の日」 家族の悲しい風景

北海道・美瑛の丘の風景 8月15日は『涙の日』なのかもしれない。80年前、日本は敗戦した。戦時中多くの涙が流れたが、特にこの日がピークだっただろう。『涙の日』といえば、モーツァルト作曲の「レクイエム ニ短調」第8曲「ラクリモサ」のことだが、…

2834 孤児院の少女オーケストラ バロックのヴィヴァルディが育ての親

夕方、散歩コースの調整池の風景は透明感があった 孤児たちを質の高いオーケストラの一員に育てあげるという音楽教師としても手腕を発揮したバロック音楽の巨匠といえば、イタリアのアントニオ・ヴィヴァルディ(1678—1741)だ。季節の折々に彼のヴァイオリ…

2831 素材は差別された人たち ドヴォルザークの訴え

『家路』の歌が聞こえるようだ クラッシックの中の交響曲でポピュラーな作品の代表格といえば、チェコ・ボヘミア生まれのアントニン・ドヴォルザーク(1841—1904)の「新世界より」という愛称で呼ばれる「第9番 ホ短調作品95」かもしれない。中でも第2楽…

2826「朋遠方より来たる」 友人たちから教わる生き方

孔子の言葉と弟子たちとの問答を集めたといわれる「論語」の最初は「学而第一」で冒頭によく知られている言葉が出てくる。《子曰く、学びてこれを習う。亦説(またよろこ)ばしからずや。朋遠方より来たる有り。亦楽しからずや。人知らずして慍(いた)らず…

2815 母が好きだった歌は 『椰子の実』と『里の秋』

透明感のある調整池の風景 明治生まれの母の世代は、戦争に翻弄された時代を送った。愛する人を戦争で失い夥しい人が絶望し、打ちひしがれた。そんな思いを、歌に救われた人もいるだろう。ただ私は、母がどんな歌が好みだったのか全く知らない。歌に救われた…

2786 蘇る青春時代の別れ 『白い花の咲く頃』を「読む」

白い花のアジサイ 昔、何気なく聴き、あるいは口ずさんだ歌にはいい歌詞のものが少なくない。例えば、『日本の歌300』(講談社+α文庫)を開いてみると、『白い花の咲く頃』(作詞:寺尾智沙、作曲:田村しげる、唄:岡本敦郎)という歌があった。その歌…

2784 ながら族否定のブルックナー  私の「音楽の風景」

早くも咲き出したアメリカディゴの花 昔の覚え書きを見ていたら、クラシック音楽について書いてあるのが見つかった。ブルックナーやマーラー、ベートーヴェン、モーツァルトら有名作曲家に触れている。それは、私にとっての「音楽の風景」なのかもしれない。…

2756「HOME  SWEET  HOME」よ 憂いと悲しみの目をした大統領

(美しい夕焼け) 「HOME SWEET HOME」は、「愛しいわが家」あるいは「楽しきわが家」という意味だ。アメリカの第16代大統領、エイブラハム・リンカーン(1809—1865)がこの言葉を愛したという。南北戦争(1861~1865)に勝ち、奴隷を解放したことで知られるリ…

2743 五輪が変えた東京の街並み 『春の小川』の風景

ウワミズザクラ ラジオ体操は第1と第2の間に首の運動がある。今朝は首の運動の際のピアノ伴奏曲として『春の小川』が演奏されていた。『故郷』で知られる高野辰之(作詞)と岡野貞一(作曲)コンビによる小学唱歌だ。この詩は東京代々木周辺の昔(明治末期…

2734 混乱の時代をどう生きるか 対照的4人の指揮者

人の一生は、その時代に大きな影響を受ける。戦乱の時代、平和な時代、双方が交互にある時代……。そうした環境下で生き抜き、歴史の一員になっていく人々。その一例として私は第二次大戦時代の音楽家(特に指揮者)に興味を持つ。この人たちがこの混乱の時代…

2723 音楽の力で休戦今は? 絶滅の独ソ戦最中のレニングラード

トランプ・アメリカが仲介し、ウクライナとロシアの間で30日間の停戦が実現するかどうか、今世界からの注目が集まっている。ロシアによって一方的に軍事侵攻されたウクライナが、かなりの譲歩を迫られるかもしれない。そんな国際ニュースを見ながら、私は…

2721 春の楽しみが悲しみに 歌『花の街』は何を語る

楽しくて弾むような内容が一転して寂しくなる歌がある。東京大空襲、広島・長崎への原爆投下、そして阪神淡路大震災、東日本大震災、能登半島地震といった歴史に残る戦争や大災害に遭遇し、大切な人を亡くした人々は数多い。その境遇をイメージするような歌…

2704 夢のない時代でも 貧窮のフォスターが作った名曲

(調整池に雲が映っている。光の春は近い) 夢のない時代になった。人道主義は遠のいた。自国第一主義で他の国との関係で何でもありを貫くアメリカのトランプ大統領の言動を見ていて、そう思う。そんな時、久しぶりにアナログのプレーヤーでレコードを聴いた…

2700 民衆の心に響いたオペラ ベルギー独立の契機に

東京丸の内の帝国劇場が建て替えのため今月限りで休館、59年の歴史に幕を閉じることになった。日本のミュージカルの殿堂として多くのファンに親しまれ、最後のミュージカルとして公演された『レ・ミゼラブル』が7日に千秋楽となり、カーテンコールでは出…

2688「くちびるに歌を」持とう 厳寒の中のマリンバコンサート

「くちびるに歌を」という言葉が好きだ。いつのころからか、逆境に立たされてもこの言葉を思い出し、勇気を奮い起した。18日夜、知人が主催した音楽会に行き、あらためてこの言葉の意味をかみしめた。飯能市のホテルで開かれたマリンバを中心とする演奏会…

2686 眠れぬ夜に聴いた歌 『早春賦』と『寒い朝』

夜中に目が冴えてしまい、眠れぬままラジオを聴いてみた。終夜やっているというNHKの「ラジオ深夜便」という番組で、懐かしい音楽を流していた。タンゴで知られる「アルフレッド・ハウゼオーケストラ」と往年の人気コーラスグループ「マヒナスターズ」の特集…

2677 冴えわたる「冬の星座」 静寂の朝に

昔習ったことがあるメロディーがラジオから流れている。途中まで聞いて『冬の星座』という歌だと気が付いた。夜空の星が輝いて見える季節だ。空気が乾き、放射冷却現象となった早朝、西の空はピンクと紺青の美しいコントラストを見せている。夜空の輝きの余…

2639 後ろからゆつくり吹く秋の風 朝焼けの空に向かって

うしろよりゆつくりゆけと秋の風 昨日に続いて秋に関する俳句を紹介する。俳句にも前衛の世界があるようで、この句の作者、酒井弘司(1938~)は、このカテゴリーに属する俳人だという。何となく秋に何かを思うという雰囲気が伝わる、私の好きな句の一つだ。…

2631 敵味方が歌った『リリー・マルレーン』 切ない老マンドリン弾き

第2次大戦下、ヨーロッパを中心にヒットした歌がある。『リリー・マルレーン』というドイツで作られた曲だ。戦場に行った兵士が故郷の恋人への思いを歌った歌詞で、日本では戦後流行した。現在、ウクライナ、中東ガザ、レバノンで戦闘が繰り返されている。…

2600 夏の払暁に思う 『希望』と『夜明けのうた』

夏の夜明けは早い。「払暁」(ふつぎょう)という言葉がある。夜が明けて朝が来るまでの時間帯のことだそうだ。これより早い時間のことを「黎明」(れいめい)というが、いずれにしろ、黎明から払暁の時間帯に起き出し、再び朝がやって来たという喜びを感じ…

2594 ものづくりは挑戦する姿勢 頑固なヴァイオリン製作者のこと

音楽を聴いていて、演奏者や歌い手のことに気を取られ、楽器のことにはあまり目が行かないことがほとんどです。ですが、名高い楽器も少なくないのです。ヴァイオリン「ストラディバリウス」やピアノの「スタインウェイ」は、代表的な名器として知られていま…

2591五輪『狂騒』の夏 心鎮まるピアフのシャンソン

猛暑が続いている。体が暑さに負けそうになる。テレビはパリ五輪一色の「狂騒」状態。そんな時、一枚のCDを聴く。アメリカの黒人歌手ルイ・アームストロング(愛称サッチモ。1901~1971)が歌うジャズだ。15曲が収録されたCDのうち、『この素晴らしき世界』…

2588「月見草」挽歌 海を見下ろす丘への憧れ

(近所の小学校の校庭に咲いた赤いサルスベリ) 時々CDで『鮫島有美子の四季』(コロンビア)を聴く。タイトルの通り、四季にまつわるソプラノ歌手、鮫島有美子の歌を季節ごとに収録した4枚だ。猛暑の現在は、夏の歌20曲を聴く。その中の1曲は「はるかに…

2567 音楽は希望の使い シューベルトと千住真理子

シューベルトの歌曲『楽に寄す』(『音楽に寄せて』とも)は、名曲といわれている。作詞したのは友人で詩人のフランツ・フォン・ショーバーで、短い詩の中に「音楽」という言葉はない。だが、この歌を聴いていると、「音楽の力」を感じる。ヴァイオリニスト…

2553 歌は故郷への響き 深みと広がりがある『花』

「歌は心に呼応する故郷への響きであり、足音なのだ」。作詞家、山口洋子(1937~204)は『花』という短いエッセイ(『日本のうた300、やすらぎの世界』講談社+α文庫)の中で、こんなことを書いている。華やかな世界で生きた名古屋出身の山口にとっても…

2551 遥かな尾瀬の季節に 『夏の思い出』を聴きながら

一つの歌がきっかけになって全国に知られるようになった場所といえば、群馬県・尾瀬といっていいだろう。多くの人が口ずさむ『夏の思い出』という歌だ。私もかつて尾瀬に行き、水芭蕉を見たことを忘れることができない。現代はSNSで情報が伝わる時代だ。山梨…

2534 5月の空と『グリーンスリーヴス』 緑の袖のユリノキ

5月。新緑が青空に映える季節。だが、何となく気持ちが晴れない。そんな時、音楽を聴く。今朝も手近にあったCDをプレイヤーに入れて再生した。ヴァイオリニスト千住真理子の『感傷的(センチメンタル)なワルツ』(EMI・2013年9月録音。ピアノは山洞智…