小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

絵画

2109 何を語る戦争の絵 ロシアのウクライナ侵攻

「私は一人なの。どうしたらいいの!」。ロシア軍がウクライナに軍事侵攻したニュース映像で、こう叫びながら避難する女性の姿を見ました。侵攻を命令したプーチン大統領は、こうした市民のことは虫けら同様に思っているのかもしれません。国際社会を揺るが…

2089 蘇ったキューピット フェルメール『窓辺で手紙を読む少女』

フェルメール(1632~75)の『窓辺で手紙を読む少女』(あるいは『窓辺で手紙を読む女』)の絵を見たのは2008年9月のことだった。ドイツ・ドレスデン古典巨匠絵画館(アルテ・マイスター)のオランダ絵画の部屋。小さなこの絵(83センチ×64・…

2082 コロナ禍続く年の暮れに 笑顔なきゴッホとベートーヴェン

2020年から続いているコロナ禍。間もなく2年になる。日本ではワクチン接種が進み、徹底した対策によって第5波が急速に収まりつつあり、見通しは明るいと思ったのは早計だった。南アフリカで見つかった新変異株、オミクロンが世界的に拡大し、成田から…

2075 フェルメール現象再び? 知られざるレッサー・ユリィ

(ユリィ「夜のポツダム広場」) 久しぶりに美術館に行き、1枚の絵の前で釘付けになった。「夜のポツダム広場」。描いたのはドイツのレッサー・ユリィ(1861~1931)。私の知らない画家だった。絵の下半分は雨に濡れた路面が建物の照明に照らされて…

2064 国連から消えた『ゲルニカ』タペストリー パウエル演説と暗幕

米ブッシュ政権で国務長官を務めたコリン・パウエル氏(84)が、新型コロナ感染合併症のため18日に亡くなった。パウエル氏といえば、2003年2月5日、国連安全保障理事会で幾つかの証拠とされる例を挙げてイラクが大量破壊兵器を保有していると演説…

2023 季節の色を描く 緑の『調整池』風景

四季折々、季節にはさまざまな色がある。どんな色が好きかは、人によって異なる。とはいえ、緑が嫌いな人は少ないのではないか。梅雨が続いている中で、緑がひときわ美しく感じるこのごろだ。ラジオ体操仲間のNさんは、私の散歩コースである『調整池』をテー…

2011 平凡な日常への愛おしさ 1枚の絵が語る真実

コロナ禍によって、全国に初めて出された緊急事態宣言が全面的に解除になったのは、1年前の5月21日だった。当時の日記に私は「第2波は大丈夫か」と書いている。その懸念は当たってしまい、現在は第4波に見舞われている。コロナ禍は人々の日常生活に大…

2009 歴史に刻まれるミャンマー民衆への弾圧 ゴヤの『1808年5月3日』想起

クーデターによって政権を奪ったミャンマーの軍事政権が、これに反対する市民に容赦なく銃を向け、虐殺を繰り返している。その光景はスペインの画家、フランシスコ・デ・ゴヤ(1746~1828)の『1808年5月3日』(あるいは『1808年5月3日…

2006 時には夢見ることも…… 藤田嗣治とサティの「出会い」?

CDでエリック・サティ(1866~1925)のピアノ曲作品集「3つのジムノペディ」(ポリドール。ピアノ/パスカル・ロジェ)を聴いた。このCDの解説は俳優で演出家の三谷礼二(1934~1991)が書いている。その中に、第18回東京五輪(19…

1998 新緑の季節がやってきた ブレイク「笑いの歌」とともに

特権をひけらかす テムズ川の流れに沿い 特権をひけらかす 街々を歩きまわり ゆききの人の顔に わたしが見つけるのは 虚弱のしるし 苦悩のしるし (寿岳文章訳『ブレイク詩集』「ロンドン」岩波文庫) この短い詩を書いたのは、イギリスの詩人で画家、銅版画…

1983 『叫び』に込めた本音 ムンクの不条理の世界今も

コロナ禍によって「うつ状態」が蔓延している日本で、自殺者が増えている。こんな時代を代弁したようなエドヴァルド・ムンク(1863~1944)の絵。だれしもが『叫び』を思い起こすだろう。以前、この絵をノルウェー・オスロ国立美術館で見たことがあ…

1965 世界の人々を鼓舞する少女 ロッカクアヤコの奇想の世界

伊藤若冲は最近人気が急増している江戸時代の絵師です。高い写実性に加え、想像力を働かせた作品が特徴であることから「奇想の画家」と呼ばれているそうです。私は若冲の系譜を受け継ぐ現代の画家は「五百羅漢図」を描いた村上隆だと思っているのですが、最…

1952 自分の言葉・色で語りかける絵画 晩鐘からマスクまで

「詩人が何にもましてひどく苦しめられている欠陥物で、この世の屑ともいうべきものは、言葉である。ときおり詩人は、言葉を――というよりはむしろ、この粗末な道具を用いて仕事をするように生まれついた自分自身を本当に憎み、非難し、呪うことがある。羨望…

1924 秋風とともに第2波去るか シューベルトの歌曲を聴きながら

新型コロナの感染拡大が止まらない。9月1日午後1時(日本時間)現在、世界の感染者は2540万5845人、死者は84万9389人(米・ジョンズ・ホプキンズ大まとめ)に達している。悔しいことだが、死者が100万人を超える日はそう遠くはないはず…

1918 夏の風物詩ヒマワリ物語 生きる力と悲しみの光と影

ヒマワリの季節である。8月になって猛暑が続いている。そんな日々、この花は勢いよく空へ向かって咲き誇っている。「向日葵の百人力の黄なりけり」(加藤静夫)の句のように、この黄色い花がコロナ禍の世界の人々に力を与えてほしいと願ってもみる。よく知…

1903「星月夜」に一人歩いた少年時代 想像の旅フランス・長野・茨城・富山へ

ゴッホが、代表作といわれる『星月夜』(外国語表記=英語・The starry night、フランス語・ La nuit étoilée、オランダ語:・De sterrennacht=いずれも邦訳は星の夜)を描いたのは1889年6月、南フランスのサン・レミ・ド地方プロヴァンスにある修道院…

1887 蘇るか普通の日常 絵と詩に託す希望の光

私の自宅前の遊歩道を散歩する人が少なくなったように感じる。昨25日、政府が新型コロナウイルスに関して北海道、埼玉、千葉、東京、神奈川の5都道県の緊急事態宣言を解除することを決め、長い間自宅勤務をしていた人たちが出勤したためだろうか。公園の…

1868 コロッセウムは何を語るのか 人影なき世界遺産

新型コロナウイルスによって、観光立国イタリアは大きな打撃を受けている。著名観光地は軒並み閉鎖され、年間400万人が訪れるといわれるローマのコロッセウム(ラテン語、コロセウムとも。イタリア語ではコロッセオ)も例外ではない。古代遺跡の閉鎖を説…

1867 ライラックがもう開花 地球温暖化ここにも

つつましき春めぐり来てリラ咲けり 水原秋櫻子 近所を散歩していたら、ライラック(リラ)の花が咲いているのを見つけた。まだ4月に入ったばかりだから、例年よりもかなり早い開花だ。空は青く澄み渡り、紫色の花からは微かな香りが漂ってくる。世界を覆う…

1839 冬の朝のアーチ状芸術 虹の彼方に何が……

今朝は天気雨が降った。そのあと調整池の上には見事なアーチ状の虹が出た。虹は、雨上がりの時などに太陽と反対方向に現れる色のついた光の輪であり、太陽の光が雨滴の中で屈折して反射して発生するものだ。虹については世界で様々な言い伝えがあり、虹を指…

1837 ゴッホは何を見て、何を描きたかったのか 映画『永遠の門』を見る

絵画の世界でレオナルド・ダ・ヴィンチ、ピカソと並びだれでもが知っているのが「炎の人」といわれるフィンセント・ファン・ゴッホだろう。では、ゴッホはどんなふうに描こうとする風景を見ていたのだろう。それを映画化したのが『永遠の門 ゴッホの見た未来…

1836 北海道に魅せられた画家 後藤純男展にて

「美瑛の町役場の屋上から、私は秋晴れの東南の空に十勝連峰を眺めた。主峰十勝岳を中央にして、その右にホロカメットク山、三峰山、富良野岳、その左に美瑛岳、美瑛富士、オプタクシケ山。眺め飽きることがなかった」。深田久弥は名著『日本百名山』の中で…

1828 ただ過ぎに過ぐるもの 優勢なセイタカアワダチソウ

散歩コースの遊歩道から調整池を見ると、池の周辺の野原は黄色い花で埋め尽くされている。言わずと知れた外来植物のセイタカアワダチソウである。例年、この花とススキは生存競争を繰り返しているのだが、今年は外来植物の方が圧倒的に優勢だ。この道を歩き…

1814 北海道に生きた農民画家 神田日勝作品集から

絶筆の馬が嘶く(いななく)夏の空 農民画家といわれた神田日勝さんが32歳でこの世を去ったのは、1970年8月25日のことである。絶筆となった絵は、この句(妻の神田美砂呼=本名ミサ子さん作)にあるように馬をモチーフにした作品(未完成)だった。…

1805 幻想の城蘇る 生き残ったノイシュバンシュタイン城

「私が死んだらこの城を破壊せよ」狂王といわれ、なぞの死を遂げた第4代バイエルン国王ルートヴィヒ2世(1845~1886)の遺言が守られていたなら、ドイツ・ロマンチック街道の名城、ノイシュバンシュタイン城は消えていた。この城を描いたラジオ体…

1799 損傷したモネの大作《睡蓮、柳の反映》AI技術で浮かび上がる復元画

原型をとどめないほど上半分が消えた1枚の絵。修復したとはいえ、その損傷が激しい大作を見て、画家の嘆きの声が聞こえてくるようだった。東京上野の国立西洋美術館で開催中の「松方コレクション展」。その最後に展示されているのが60年間にわたって行方…

1790 マロニエ広場にて 一枚の絵にゴッホを想う

近所にマロニエ(セイヨウトチノキ)に囲まれた広場がある。その数は約30本。広場の中心には円型の花壇があり、毎朝花壇を囲むように多くの人が集まってラジオ体操をやっている。私もその1人である。既にマロニエの花は終わり、緑の葉が私たちを包み込ん…

1731 暮れ行く初冬の公園にて ゴッホの「糸杉」を想う

大阪市の長居公園(東住吉区)のすぐ近くに住む友人は、この公園の夜明けの風景を中心にした写真をフェイスブックに載せている。最近は夜明けではなく、夕暮れの光景をアップしていた。そのキャプションには「烏舞う夕暮れ。11月27日夕、長居公園。ゴッ…

1729 ああ!妻を愛す 永遠の美を求める中山忠彦展

中山忠彦は、日本の現代洋画界を代表する一人といわれる。ほとんどが自分の妻を描いた作品というユニークさを持つ画家である。千葉県立美術館(JR京葉線千葉みなとから徒歩で約10分)で開催中の「中山忠彦――永遠の美を求めて――」をのぞいた。それは驚き…

1728 ルーベンス展でセネカに出会う 晩秋の西洋美術館で

好天に恵まれた過日、晩秋の上野公園を歩いた。3つの美術館で開催中の展覧会のどれかを見るべく早めに家を出た。10時過ぎにはJR上野駅の改札口を出て、美術館に向かった。しかし、2つの美術館は長い行列が続いていた。結局、入ることができたのは3番…