小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2021-01-01から1年間の記事一覧

2088 コロナ禍の2021年を送る 逆境にあっても明日を信じて

2021年もコロナ禍で明け暮れました。新聞・通信社が選ぶ十大ニュース、今年もコロナ禍が内外ともにトップ(あるいはそれに近い)になっています。何しろ、世界の感染者は2億8436万人、死者は542万人(30日現在。日本は感染者173万3207…

2087 アナログへの回帰再び 新聞と行政の協定に衝撃

今年は私にとって「静」の漢字が似合う一年だった。ほとんど遠出はせず、東京の美術館には2回しか行かなかった。それでも自宅周辺の散歩だけは欠かさなかった。このほか古いレコードをアナログプレーヤーで聴き直し、それだけでは治まらずに長い間使ってい…

2086 混乱期を生きる母と娘 かくたえいこ『さち子のゆびきりげんまん』

昭和から平成を経て令和になり、昭和は遠くなる一方だ。日中戦争、太平洋戦争という戦争の時代だった昭和。そして、敗戦。70数年前の人々はどんな生活を送っていたのだろう。かくたえいこ(角田栄子)さんの児童向けの本『さち子のゆびきりげんまん』(文…

2085 それぞれの故郷への思い『今しかない』第4号から

よく知られている室生犀星の「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しく歌ふもの」は、『小景異情』という詩の「その2」にあり、望郷の詩句の代表ともいえる。人は年老いるほど、故郷への思いが強くなるのかもしれない。このブログで何度か紹介した『今…

2084 蕭条とした冬景色 さ霧晴れても

調整池を回る遊歩道を散歩していると、このところ毎朝のように調整池から霧が立っている。放射冷却によって起きる現象だ。長い年月見慣れているとはいえ風情があって、見飽きない。対面からやってきた女性が『冬景色』の歌を口ずさみながら歩いていく。女性…

2083 人間を笑う年の暮 世界に広がる犯罪地図

12月もきょうで10日。残すところことしも21日になった。年の暮である。昨年から続くコロナ禍。南アフリカで見つかった新変異株オミクロンが世界的に拡大し、世界中で新規の感染者が増え続けている。一方の日本。第5波が落ち着き、いまのところ感染者…

2082 コロナ禍続く年の暮れに 笑顔なきゴッホとベートーヴェン

2020年から続いているコロナ禍。間もなく2年になる。日本ではワクチン接種が進み、徹底した対策によって第5波が急速に収まりつつあり、見通しは明るいと思ったのは早計だった。南アフリカで見つかった新変異株、オミクロンが世界的に拡大し、成田から…

2081 寒気の中でも凛として咲く 香り優しき水仙の花

(庭先に咲いた水仙) 庭先のスイセンの花が咲き始めた。この花は「水仙」(このブログでは一部を除き、以降「水仙」)と漢字で書きます)と書いたのを音読したものだそうだ。昔は「雪中花」(せっちゅうか)と呼んだこともあったという。文字通り雪の中でも…

2080 秋から冬への風景 点描・美しい自然の移ろい

(千葉県鴨川市の四方木不動の滝・雄滝) 今年も残すところ、36日になった。カレンダーを見たら2021年という西暦のみのものがほとんどで、西暦とともに「令和3年」と併記されたのは1つだけだった。現行のグレゴリオ暦になって148年(日本では18…

2079 せめて口笛を  人生は短し、芸術は…

ピアノやヴァイオリンは本当に素敵だと思うけれど、私には手が出なかった。 あくせく働くだけの私には、今まで、口笛をものにするのが精一杯。 もちろん、それとてまだ名人芸からは程遠い。何しろ芸術は長く、人生は短し、だ。 でも、口笛一つ吹けない人は可…

2078 アナログレコードを聴く 新鮮に響くハイドン・セット

名前も知らないし、どんな人かも知らない。ただブログを読んでいると、女性と思われる。拙ブログにコメントをいただいたこの人のブログを読んでいたら、「アナログのポータブルも悪くない」と題して、ポータブルのレコードプレーヤーを購入してレコードを聴…

2077 絶望を託された私たち 上間陽子『海をあげる』

《私は静かな部屋でこれを読んでいるあなたにあげる。私は電車でこれを読んでいるあなたにあげる。私は川のほとりでこれを読んでいるあなたにあげる。この海をひとりで抱えることはもうできない。だからあなたに、海をあげる。》 上間陽子著『海をあげる』(…

2076 大リーグに大谷現象 常識を超えた野球選手

米大リーグ・エンゼルスで、投打の「二刀流」をこなした大谷翔平がアメリカンリーグの最優秀選手(MVP)に選ばれました。このブログでもこれまで何回か大谷のことを書いていますが、ここにまとめてみました。興味ある記事があればお読みください。昨日のブロ…

2075 フェルメール現象再び? 知られざるレッサー・ユリィ

(ユリィ「夜のポツダム広場」) 久しぶりに美術館に行き、1枚の絵の前で釘付けになった。「夜のポツダム広場」。描いたのはドイツのレッサー・ユリィ(1861~1931)。私の知らない画家だった。絵の下半分は雨に濡れた路面が建物の照明に照らされて…

2074 寂の空への旅立ち 瀬戸内寂聴さん逝く

紅葉燃ゆ旅立つあさの空や寂(じゃく) 作家の瀬戸内寂聴さんが今月9日に亡くなった。99歳。瀬戸内さんの名前を聞くと、私は必ずある日のことを思い出す。瀬戸内さんが得度し、瀬戸内晴美から瀬戸内寂聴になった1973年11月14日のことである。あれ…

2073 ビーナスベルトに酔う 自然のアートに包まれて

毎朝、6時前に散歩に出ます。いつも最初に歩くのは調整池を回る遊歩道ですが、今朝歩いていて西の空を見上げますと、下の方が藍色でその上の部分がピンクに染まっていました。なかなか幻想的0で美しい空の色でした。日の出前のことです。これはビーナスベル…

2072 シリウスとの対話 かけがえのない犬たちへ

「○○よく頑張ったね。いい子だね」。夕方、散歩をしていたら、小型犬を連れた若い女性とすれ違った。しばらくして、こんな声が聞こえた。だいぶ遠くなってからあの犬がしきりに吠えている。私とすれ違った犬は人が近づくとほえてしまうのだ、でもそれを我慢…

2071 秋から冬への移行 時雨の季節感

ものの本(ある事柄に関することやその方面のことについて書かれた本)によりますと、「時雨」の季節は、『万葉集』(7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂された、現存するわが国最古の歌集)のころは秋と捉えられていたそうです。その後、都が奈良から京…

2070 ある晩秋の風景 日だまりを求めて

さうか これが秋なのか だれもゐない寺の庭に 銀杏の葉は散ってゐる (草野天平「秋」・定本草野天平全詩集より。天平は詩人草野心平の弟) 晩秋。銀杏の葉も黄色く色づき、散り始めている。私のふるさとの浄土真宗の寺にも銀杏の木があった。秋になると、黄…

2069 ありふれた日常の中で ランドセルの少年と履き慣れた靴

庭の外に遊歩道があって、1キロに及ぶけやき並木が続いている。春から冬までの季節、けやきは様々な表情を見せてくれる。葉を落とした冬の姿も風情がある。秋たけなわ。例年なら美しい紅葉となるのだが、この秋は様子がややおかしい。葉が色づく前に散り始め…

2068 学ぶことを忘れると堕落する 2つのニュースを読んで

最近2つの新聞記事に驚いた。いずれも政治にかかわるニュースであり、政治の信頼とは何かを考えさせられたのは私だけではないはずだ。近くにあった高橋健二訳『ゲーテ格言集』(新潮文庫)を見ていたら、「有能な人は、常に学ぶ人である」という言葉が出て…

2067 自分の信じる道を真っ直ぐ歩いた人 ある長い墓碑銘

かつて取材で知り合った東京のNさんがことし1月に亡くなったと、奥さんから喪中のはがきが届いた。間もなく11月。そろそろ年賀状を書く季節が近づいている。Nさんとは、中国まで一緒に旅をしたことがある。脳梗塞で倒れ、1年間は車いす生活を送り、奥…

2066 イスラムの秘薬から世界の飲み物に コーヒーをめぐる物語

急に寒くなったため、庭に出していた鉢植えのコーヒーの木を慌てて部屋に入れた。普段の年なら11月半ばにやるのだが、今年は特別早い取り込みだ。これで寒さに弱いというコーヒーの木も何とか持ちこたえるだろう。十数年前、娘が百円ショップで買ってきた…

2065 1人泡盛を飲む夜  蘇った銘酒物語

「酒 傾ければ 愁い来らず」。中国、唐時代の詩人・李白の「月下独酌」の中の一句だ。人は、この世の憂いを忘れるために酒を飲む。コロナ禍が続き友人たちと酒を飲みかわす機会はほとんどなくなった。秋の夜長、私はひとり沖縄の酒・泡盛を飲む。火事で焼失…

2064 国連から消えた『ゲルニカ』タペストリー パウエル演説と暗幕

米ブッシュ政権で国務長官を務めたコリン・パウエル氏(84)が、新型コロナ感染合併症のため18日に亡くなった。パウエル氏といえば、2003年2月5日、国連安全保障理事会で幾つかの証拠とされる例を挙げてイラクが大量破壊兵器を保有していると演説…

2063 群馬は魅力がいっぱい ランキング下位でも

時々地図を取り出して、見ることがあります。日本地図だったり、世界地図だったり、その時の気分によって変わりますが、地図を見ることは楽しみの一つです。先日「都道府県魅力度ランキング」が発表になり、茨城県が最下位の47位、群馬県が下から4番目の…

2062 「よく分からないから不気味」コロナ感染急減の背景は 

「なぜ、コロナ感染者がこんなに急に減ったのだろうね。よく分からないから不気味なの」。小学校高学年の家族が「登校中、低学年を送ってきた大人がこんなことを話しているのが聞こえたよ」と教えてくれた。今夏、あれほど猛威を振るったコロナ禍。一時は1…

2061 辞書に載った大谷の二刀流 サムライ言葉今も 

米大リーグが今シーズン、ほぼ終了しつつある。大リーグといえば、全試合が終わったエンゼルスで投打の「二刀流」をこなした大谷翔平の大活躍ぶりが目についた。大谷自身は「二刀流」という言葉は使わないそうだが、流行語にもなったこの言葉が辞書にも追加…

2060 小さな秋を見つけた 2度咲きの金木犀と「はえぬき」の新米

「秋たけなわ」というには少し早いようですが、秋本番はそこまで来ています。秋の訪れを知らせてくれる樹木として金木犀があります。あの独特の香りに接すると、私は秋を感じます。今年、庭の金木犀が咲いたのは9月10日でした。大体1週間で花は終わります…

2059 いい匂いの山の朝風 晩秋の月山風景

詩人で彫刻家の高村光太郎は、戦後、岩手で山小屋生活をした際「日本はすつかり変わりました。あなたの身ぶるひする程いやがつてゐた あの傍若無人のがさつな階級が とにかく存在しないことになりました。(以下略)」(詩集『典型』の「炉辺 報告智恵子に」…