小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2061 辞書に載った大谷の二刀流 サムライ言葉今も 

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 米大リーグが今シーズン、ほぼ終了しつつある。大リーグといえば、全試合が終わったエンゼルスで投打の「二刀流」をこなした大谷翔平の大活躍ぶりが目についた。大谷自身は「二刀流」という言葉は使わないそうだが、流行語にもなったこの言葉が辞書にも追加されたから、大谷は野球の歴史に残る選手になったのは間違いない。

「二刀流」について三大中型辞典といわれる「広辞苑」(岩波書店・第7版=2018年1月)、「大辞林」(三省堂・4版=2019年9月)、「大辞泉」(小学館・第2版=2012年11月)を引いてみた。解説は以下の通りだ。

 ▼広辞苑 二天一流(にてんいちりゅう)に同じ→宮本武蔵の創始した剣術の一派。はじめ円明流と称す。二刀一流。武蔵流。二刀流。

 ▼大辞林<1>剣術で左右の手に1本ずつの刀を握って戦う刀法。宮本武蔵二天一流が有名<2>酒も飲むし、甘い物も食べること<3>野球で投手と野手と両方で出場すること。

 ▼大辞泉①両手に一本ずつの刀を持って戦う剣術の流派⇒宮本武蔵の創始した二天一流(⇒二天流)などが有名。②酒も甘いものも両方好きなこと。また、その人。両刀づかい。

 大辞林は大谷の活躍で「『投手と野手』という新たな意味での使用例が増えたことから<3>を採録したという。

「「二刀流」に関し「広辞苑」と「大辞林」「大辞泉」を比較すると、「広辞苑」はややつまらない。▼「実用日本語表現辞典」(Weblio)には、大谷の名前を入れた詳しい解釈が以下のように載っている。これが一番詳しくて現代性もある。

 (1)刀や剣などを左右の手に1振りずつ持って戦うこと、あるいはそれを特徴とする武道の流派のこと。日本では特に、宮本武蔵二天一流が著名である。左右の手に刀や剣などを持つことは「両刀」や「双剣」などともいう。右手と左手に持つ刀や剣は、例えば長さが異なっていて、短い方が防御に用いられるなど、異なる役割を持っていることもある。(2)本来の意味から転じて、性質の異なる2つの物事を同時に行うさまを意味する語。(3)北海道日本ハムファイターズ(この解説は大谷が大リーグに移る前に作成されたことが分かる)の選手、大谷翔平を指す語。大谷翔平が投手と野手の両方をこなすことができることに由来する。

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 現在でも高校野球までは投手で4番バッターという選手が存在するのは珍しくない。昔の日本のプロ野球でも投手と打者をやる選手がいた。野口二郎(元阪急)は投打でシーズンのフル出場を示す規定投球回数規定打席の両方を6回記録し、関根潤三(元近鉄)は投手と野手の両方でオールスター戦に出場したことがあるという。しかし、現在の日本のプロ野球では両法をやる選手、ましてや両方とも一流という大谷のような存在は珍しい。

 大谷と比較される往年の大打者ベーブルースレッドソックス時代の1918年に13勝、11本、翌19年に9勝、29本の記録を持っているが、ルースは20年にヤンキースに移籍後は野手としてプレー、大リーグ史上に残る大打者になった。ルースと大谷が活躍したとはいえ、大リーグで「二刀流」という言葉は使われない。宮本武蔵の「二刀流」は、"Nito Ryu" ("the school of the two swords") などと訳され、大谷のことはtwo-way player (双方向プレーヤー)と呼ばれているのだという。

 日本では辞書にも載るほどの言葉だが、以前のインタビューで大谷は「だれが言い出したか分からないが、そういう表現は使わない。ただ野球を頑張っているという意識でやっている」と答え、この言葉を使わないと明言している。

「言葉は人間の表現です。表現である以上、他人に理解してもらわなければいけない。このことだけはどんな言語にも共通して言えることです」。井上ひさしは『日本語教室』(潮選書)で言葉について、このように書いている。大谷の活躍とともに「二刀流」という言葉は日本国内に浸透した。しかし、海外ではそうはいかないだろう。まさかサムライ時代のことを指す言葉とは、外国人には理解できないかもしれない。

(大谷の2021年の成績▼投手 9勝2敗、防御率    3.18 奪三振156▼打撃 本塁打46、打率257、打点100、盗塁26、四球96)

 写真 霧の向こうに駅前のビル群が。日本のマチュピチュ