小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2083 人間を笑う年の暮 世界に広がる犯罪地図

    f:id:hanakokisya0701:20211210092723j:plain

 12月もきょうで10日。残すところことしも21日になった。年の暮である。昨年から続くコロナ禍。南アフリカで見つかった新変異株オミクロンが世界的に拡大し、世界中で新規の感染者が増え続けている。一方の日本。第5波が落ち着き、いまのところ感染者数も少ない状態だが、揺り戻し、第6波を心配する声も少なくない。そんな歳末のひととき正岡子規(1867~1902)の句を思い出し、冷静になろうと考える。

 人間を笑うが如し年の暮

 子規がこの句を作ったのは、1898(明治31)年で、31歳の時だった。脊椎カリエスの凄まじい痛みに耐えながら句作に没頭した子規。4年後にはこの世を去るのだが、ユーモアセンスあふれた句も少なくない。この句もその一つだ。コロナ禍におびえる私たちのことを指しているように思えてしまう。天野祐吉は、この句について以下のように読んでいる。

 わははははははは、
 馬鹿だねえ、人間ってやつは。    
 あははははははは。   
 そうですね、あなたもわたしも、    
 わははははははは。    
 あははははははは

          『笑う子規』(ちくま文庫

   ⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄ 

 手元に一冊の詩集がある。2009年に旅立った詩人、飯島正治さんの『朝の散歩』(風心社)。26の詩が盛り込まれた詩集の中ほどに題名にもなった「朝の散歩」という詩がある。その中にこの詩人の憂いが書かれている。それは今の世界をも覆う閉塞感といっていい。

 私の前を歩く小さな犬のコロが
 ときどき振り返り私の歩みをせかす
 そんなに急ぐなよ 疲れるよ
 梅雨空の早朝 日課の散歩だ

 お前が家に来て
 地球が太陽をひと回り その間も
 海や陸地は微熱を出し続けている。
 偏西風に乗って来る汚染微粒子のせいか
 花粉症が治っても鼻の奥が変なのだ
 だからお前と同じようにくんくんしている

 テロや核問題や殺人
 今日の朝刊も犯罪地図を描いている(下線はブログ筆者)
 他の群れを支配したいという動物の
 本能を持ったまま脳を肥大化させたヒト
 自分さえいま良ければのエゴイスト

 私の周りの狭い地図のなかでも
 約束を反故にされたり
 思いが伝わらなかったり
 そういうことが重なると気が滅入るのだ
 霧雨が降りてきて暗い
 近道して家に帰ろう

 お前も犬の欲望を生きている
 牛乳やささ身には目がないし
 ときどき威張って吠える
 けれど一片の小ざかしさもない

   ⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄⬄ 

 朝刊を広げる。詩人が嘆くように、世界と日本の犯罪地図が描かれている。独裁者による国家的犯罪は目を覆うばかりだ。それだけではない。わが日本では、前の衆院選で落選した政治家が代表を務める政治団体がコロナの雇用助成金を受け取った話や私大理事長の巨額脱税容疑など、小ざかしい人間の欲望をえぐった記事も目に付く。2021年12月。まさに「人間を笑うが如し年の暮」といっていい。

 そんなざわめく気持ちを落ち着かせてくれる風景を見た。9日、暮れ始めたころの南西の空だ。低い位置に金星(宵の明星)が輝き、その左斜め上に三日月があり、さらにその上に寄り添うように木星が接近していた。人間界の犯罪地図とは無縁の、この天体ショー。朝の散歩の詩人も、どこかの星から見ていたのかもしれない。

              f:id:hanakokisya0701:20211210174551j:plain