小径を行く

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時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2068 学ぶことを忘れると堕落する 2つのニュースを読んで

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 最近2つの新聞記事に驚いた。いずれも政治にかかわるニュースであり、政治の信頼とは何かを考えさせられたのは私だけではないはずだ。近くにあった高橋健二訳『ゲーテ格言集』(新潮文庫)を見ていたら、「有能な人は、常に学ぶ人である」という言葉が出ていた。確かにそうだと思う。学ぶことを怠ると、想像力も枯渇しついいい加減なことを口走り、愚策と気づかぬまま税金を湯水のように使ってしまうのだろうか。2つのニュースから私も自戒し、これからも本を読み学び続けたいと考えた。

 ゲーテの言葉はエピグラム(ウィットに富んだ短い詩・寸鉄詩)で知られるローマ帝国時代の諷刺家マルティアリス(40ごろ~104ごろ)の言葉が由来で、本来は「よき人は常に初心者である」という意味だそうだ。世阿弥の能に関する著書『風姿花伝』の中の「是非の初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず」(ブログ筆者意訳=未熟だった時も芸に慣れた時も、そして年老いても初心者として芸に挑むことを忘れてはならない)と共通するものだろう。

 前書きはこの程度にして、私が驚いた2つのニュースは以下の通りだ。1つは自民党麻生太郎副総裁が25日、自民党の公認候補の応援に行った小樽市内で「温暖化と言うと悪いことしか書いていないが、いいことがある。昔『やっかいどう米』と言うほど(北海道産米は)売れない米だったが、うまくなった。農家のおかげか、違う。温度が上がったからだ。それを輸出している。これが現実だ」などと述べたことだ。

 これに対し北海道農民連盟が翌26日、「温暖化を肯定するような発言は耳を疑う」と抗議の談話を出したのに続き、岸田文雄首相が同日夜のテレビ番組で、「(麻生発言は)適切ではなかった。申し訳ないと思う」と陳謝した。この後、岸田首相が麻生氏に何と言ったかは分からない。何も言わなかったのではないかと疑う。

 麻生氏は毒舌で知られた政治家で、これまでの様々な発言が物議を醸している。温暖化=米がうまくなったと主張する今回の発言は、各道県の農業試験場(現在は農業研究センターなどと呼称)の品種改良の地道な取り組みと農家のうまい米を作ろうという努力を否定するものといっていい。長い間、うまい米の代表としてコシヒカリが君臨していたが、現在では北海道、青森を含めてその地域にあった銘柄が誕生し、いずれもコシヒカリにそん色ないうまい米になっていることを麻生氏は知っているのだろうか。麻生氏の発想は、地球温暖化対策の世界的枠組みの「パリ協定」を離脱した(バイデン政権が今年2月に復帰)温暖化否定論者の米国トランプ前大統領と似たり寄ったりだ。

 2つ目は昨年の安倍政権当時、新型コロナ対策として調達・配布した布マスクが大量に倉庫に保管され、6億円もの保管料がかかっていたことが会計検査院の調査で判明したことだ。昨年の配布後から現在までアベノマスクといわれる布製の小ぶりなマスクを付けた人はほとんど見かけたことがない。

 側近官僚の進言で打ち出されたこの政策。当時の安倍首相は全世帯に1億3千万枚と介護施設福祉施設、妊婦向けに1億6千枚の計2億9千枚を配ると宣言した。だが実際には、双方合わせて約8千200万枚(115億円相当)が配られずに倉庫に保管されたままになっており、昨年度だけでこの保管料6億円を支払ったというのだ。このマスクは子ども用といえるほど小さく、もらっても使う人はまれだったようだ。しかも不織布マスクに比べウイルスを含んだ飛沫の吐き出し、吸い込み防止の効果が低いことが判明、多くの人が不織布マスクを使っているのが現状だ。

 これに対し、政府は「調達で問題があったとは考えていない」(磯崎官房副長官)、「保管費はかかるが税金で買ったので簡単に捨てられない。有効活用を考えている」(厚生労働省)と答えたそうだ。問題がありありで、有効活用も難しいから、税金の無駄遣いを続けているのだろう。会計検査院は「法律に基づいた是正勧告はしない」というものの、コロナ禍の歴史の中で政治の失敗例として人々の記憶に刻まれることになるだろう。

 マルティアリスはスペイン出身でローマに移り住んで同郷の政治家でストア学派の哲学者ルキウス・アンナエウス・セネカ(「生きることは生涯をかけて学ぶべきことである」という言葉が有名)家に身を寄せていた。エピグラムで当時のローマの人々の生活や知人たちのスキャンダラスな行動、地方の教育などを描いた。マルティアリス流に言えば、2つのニュースから得たものは「学ぶことを忘れると、人は堕落する」だろうか。