小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2075 フェルメール現象再び? 知られざるレッサー・ユリィ

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          (ユリィ「夜のポツダム広場」)

 久しぶりに美術館に行き、1枚の絵の前で釘付けになった。「夜のポツダム広場」。描いたのはドイツのレッサー・ユリィ(1861~1931)。私の知らない画家だった。絵の下半分は雨に濡れた路面が建物の照明に照らされて輝いている。なぜか建物の灯りより、道路の方が光っている。右側には傘を差した人たちのシルエット。全体にくすんだ夜の街はなんとなく物寂しい。著名な画家たちの作品が展示された『イスラエル博物館所蔵「印象派・光の系譜」展』(三菱一号館美術館)で、私は初めて見る画家の作品に惹き付けられた。

 この美術展は、イスラエル博物館が所蔵する作品のうち印象派の画家たちの作品を中心に69点が展示されている。モネ、ルノワールゴッホ、ゴーガン、セザンヌクールベといった著名画家のほか、以前のブログに書いたことがある、アル中で知られたヨンキントの作品(「日没の運河、風車、ボート」)もあった。ユリィの絵は「夜のポツダム広場」と「風景」「冬のベルリン」「赤い絨毯」の4点が展示されていた。説明文によると、ユリィはユダヤ系のドイツ人。ミュンヘン分離派を経てベルリン分離派で活動したといわれるが、日本ではこれまで無名に近い画家といわれる。手元の分厚い西洋美術史の本にもWikipediaにも載っていない。

 生物や風景を印象派に近い技法で描き、雨の路地や夜のカフェをテーマにした作品が知られているそうだ。60歳を過ぎて開いた大規模作品展で名声を揺るぎないものにしたという。あらためて新聞の美術欄に載ったこの美術展の記事を読むと、モネやルノワール印象派の巨匠たちの作品を押しのけて1、2位を争う人気とのことで、売店のポストカードは開催初日(10月15日)に売り切れたため急ぎ補充された、と出ていた。既視感のある懐かしさ、コロナ禍で人影が少なくなった陰鬱な都会の夜の風景との共通性など、人それぞれの見方があるにしても、ユリィという画家の名は多くの美術ファンの記憶に残るはずだ。 

 日本ではフェルメール現象といわれるほどオランダの画家フェルメールの絵画展は異常な人気がある。今回のユリィ人気はそれほどまでとは言えないにしても、コロナ禍で大きな影響を受けた2021年の美術界の歴史に残る出来事になるのかもしれない。今回展示されたヨンキントの絵は、運河の後方に風車が見えるオランダの風景を描いた小品で、夜の画家といわれる黒や暗褐色系を使った陰影のイメージを強調する作品の部類に入る。

 私は新型コロナ感染を避けるため、昨年1月以降美術館巡りをあきらめていた。コロナ禍が落ち着いたこともあり、今回所用のついでに美術館に入った。感染対策のため予約客を優先し人数制限もあり、当日券購入のために列に並んだのだが、館内はこれまでの満員電車のような状況はなく、比較的ゆっくりと鑑賞する環境になっていた。入館者には歓迎すべきこととはいえ、美術館運営にとって厳しい状況が続いていることは言うまでもない。

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               (ユリィ「風景」)

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                (ゴッホプロヴァンスの収穫期」)

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             (ゴッホ「麦畑とポピー」)

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            (セザンヌ「湾曲した道にある樹」

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               (モネ「睡蓮の池」)


写真はポストカード、あるいは会場で筆者撮影(Photo © The Israel Museum, Jerusalem)