小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2060 小さな秋を見つけた 2度咲きの金木犀と「はえぬき」の新米

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「秋たけなわ」というには少し早いようですが、秋本番はそこまで来ています。秋の訪れを知らせてくれる樹木として金木犀があります。あの独特の香りに接すると、私は秋を感じます。今年、庭の金木犀が咲いたのは9月10日でした。大体1週間で花は終わります。しかし、散った花は例年に比べ少ないようでした。残念な思いに浸っていましたら、再び金木犀の花の香りがしたのです。庭の2本の木を見ましたら、再び花が咲いていました。2度咲きです。

 9月は天候不順の日が続きました。そのためなのでしょうか。園芸に興味を持つ人には常識なのかもしれませんが、私は金木犀の2度咲きを見たのは初めてです。この現象について研究テーマにした大学もあり、発表された論文には、原因は気温の急激な変化だという結論になっているそうです。金木犀は3度咲きもあるということですから、地球の環境変化にとても敏感な樹木なのでしょう。2度咲きは私の家だけではありませんでした。今、近所の庭々からも芳香が漂い、黄色い花を見ることができます。

 前回のブログで山形の友人が月山で撮影した写真をアップしました。この友人から新米や山形の酒が届きました。段ボールには胡桃の炭も入っていました。東北から小さな秋が送られてきたようです。新米は山形県鶴岡市山形県農業試験場庄内支場(現在の山形県農業総合研究センター水田農業研究所)が1992(平成4)年に開発した「はえぬき」です。この米は有名ブランド米の魚沼産コシヒカリにひけをとらない味といわれ、ランクが一番上の特A米として山形県の水田の約6割で作付されているそうです。

「米の粒がしっかりして、粘りすぎず、ほどよい歯ごたえ、弾力がある。さめても味が落ちにくい」というのが特徴で、炊き立てのご飯から甘い香りが漂ってきました。食べてみるとこの表現通りのおいしいコメでした。

 昔話になりますが、私はかつて仙台支社に勤務していました。その頃「東北の米」という30回の連載記事を書いたことがあります。当時は今日のようなおいしい品種はあまりなく、「ササニシキ」が全盛の時代でした。「コシヒカリ」は少しずつ普及していたころでした。この企画で鶴岡の試験場にも取材に行った記憶があります。この試験場から後に、このようなおいしい品種が開発されるとは、当時の私は想像していませんでした。

 あれから長い歳月が流れました。北海道や青森の米はまずいと言われていた時期もありました。しかし、今では北海道も青森も含めておいしい米が全国で生産されています。「日本人にとって米とは何かを問うことは、たとえば、国語とは何かを問うに等しい、歴史的、本質的な“重み”があるのではなかろうか」。粉川宏著『コシヒカリを創った男』(新潮社)の中の一節です。言うまでもなく、日本人にとって米はそれほど重要な食べ物なのです。

はえぬき」の開発について詳しいことは知りませんが、名前は「生え抜き」(その土地に生まれ、ずっとそこで成長したという意味)という言葉が由来とのことで、山形県の気候風土を基に開発された品種のため山形以外では本来の味は出ないとも言われているそうです。このため、山形以外ではこの米はほとんど栽培されず、後発の「つや姫」という品種の方が山形米のブランドとして、一般に知られているようです。いずれにしろ、米の新しい品種誕生の背景には研究者をはじめコメ生産者たちの汗と涙があるに違いないと思うのです。

 

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写真

 1、山形から届いた稲穂と胡桃炭( 自家製の炭焼き窯で2日間焼いたもので、コロナ禍収束を願う魔除けの意味があるそうです)。

 2、2度咲きの金木犀の花。

 3、夕方、散歩したら、道路脇の藪にアケビがぶら下がっていました。口の開いたアケビの実は甘い香りがしました。

 

秋の月山の風景(板垣光昭さん撮影)