2081 寒気の中でも凛として咲く 香り優しき水仙の花
(庭先に咲いた水仙)
庭先のスイセンの花が咲き始めた。この花は「水仙」(このブログでは一部を除き、以降「水仙」)と漢字で書きます)と書いたのを音読したものだそうだ。昔は「雪中花」(せっちゅうか)と呼んだこともあったという。文字通り雪の中でも咲くため、こんな風情のある呼び方をしたのだろう。『新日本大歳時記 冬』(講談社))には「寒気の中に凛として咲き、しかも、可憐な花の風情は、日本人の心情に適うものがあるようだ」と書かれており、日本人にはなじみが深い花といえるようだ。
牧野富太郎によると、水仙は中国から日本に伝来した。しかし原産地は中国ではなく、大昔に南ヨーロッパの地中海地方から中国へ渡り、さらに日本へとやってきたという。中国ではこの花が海辺でよく育つため、俗を脱している仙人に擬えて水仙と名付けられた(『植物知識』講談社学術文庫)ようだ。ヘルマン・ヘッセの『庭仕事の愉しみ』(草思社)の中にも、ボーデン湖(ドイツ、オーストリア、スイスの国境に位置する湖)のほとりで暮らしていた当時描いたに水仙の水彩画が載っている。『花の香り』という詩もあり、「スイセン」については以下のよう印象を記している。
「スイセンの香りは」
ほろ苦いけれど 優しい
それが土の匂いとまじりあい
なま暖かい真昼の風に乗って
もの静かな客人のように窓から入ってくるときは。
私はよく考えてみた――
この香りがこんなに貴重に思われるのは
毎年私の母の庭で
最初に咲く花だったからだと。
これまで、私は水仙の香りを嗅いだことはない。この詩を読んで、あらためて庭先の花のにおいを嗅いでみると、詩と同様の印象を受けた。牧野の本にも、よい香を放つと書かれており、水仙は優しい香りなのだ。
子規の句のように、上を向くと青空の中に浮かぶ雲がよく見える。空気が乾いていて、透明感のある季節である。一方、新聞を見ると、インドのニューデリーでは大気汚染が深刻で、すべての学校が閉鎖になり、在宅勤務が奨励されているという記事が出ている。スモッグで視界が悪くなっている街の写真も掲載されている。中国の首都北京でも毎年冬になると微小粒子状物質PM2・5に覆われることが通例になっている。それだけではない。目には見えない新型コロナウイルスがこの世界を覆っている。南アフリカで見つかったオミクロンという新しい変異株対策のため、日本政府は全世界から外国人の入国を30日午前零時から1カ月原則停止すると発表した。変異株の詳しい実態はまだ不明だから不安感は増すばかりだ。こんな時こそ、雪の中でも凛と咲き続ける水仙のような強さを持ちたいと思う。(開催が迫っている北京五輪に黄色~赤信号が灯ったといえる事態ではないか)
(ヘッセの水彩画・スイセン)
(庭先の皇帝ダリア)
(夜明けの調整池)
※お知らせ このブログ名「新・小径を行く」は2078回から以前の「小径を行く」に戻しております。よろしくお願いいたします。