小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2059 いい匂いの山の朝風 晩秋の月山風景

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 詩人で彫刻家の高村光太郎は、戦後、岩手で山小屋生活をした際「日本はすつかり変わりました。あなたの身ぶるひする程いやがつてゐた あの傍若無人のがさつな階級が とにかく存在しないことになりました。(以下略)」(詩集『典型』の「炉辺 報告智恵子に」より)と書いた。妻智恵子宛ての形式にした短い詩である。がさつな階級とは、言うまでもなく旧軍部のことだが、最近の日本の政界もがさつぶりが目について仕方がない。改めて、その内容を書くのは馬鹿馬鹿しいのでここでは触れない。

『典型』には、山暮らしに関連する詩も何編かある。その中の「山からの贈物」の詩は、山を友にして生活している友人から届いた東北の秋の絶景の写真ともよく合うと、私は思う。

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 山にありあまる季節のものを

 遠く都の人におくりたいが

 おくらうとすると何もない。

 山にゐてこそ取りたての芋コもいいし

 栗もいいし茸もいいが、

 今では都に何でもあつて

 金がものいふだけだといふ。

 それではいつそ

 旧盆すぎて穂立をそろへた萱の穂の

 あの美しい銀の波にうちわたる

 今朝の山の朝風を

 この封筒に一ぱい入れよう。

 香料よりもいい匂いの初秋の山の朝風を。

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 山形の月山に近い地区で暮らす友人は、この霊峰を自身の散歩コースのようにしていて、最近も1泊2日で単独の月山登山(姥沢→頂上→清川行人→本道寺)をしたという。送ってきた写真(動画も)には「月山の風景はもう一つで、里山の方が奇麗かもしれない」という断り書きがついていた。しかし私は写真から光太郎が書く「山の朝風」のような爽やかさを感じ、いい匂いが届いたように思った。

 私は山登りといったら、幼馴染と行った故郷の安達太良、磐梯山くらいしか知らない。故郷を離れてからは山との縁のない生活をしており、友人からの四季折々の便りに接する度に憧憬に近い思いになる。

 友人は今回のコースについて「胎内岩のおびただしい石筍の歴史を感じるところが見所。小屋は伽藍堂。まわりは墓石らしき石筍が整理されて小綺麗になって何となく霊感を感じました。疲れ果て19:00頃に就寝。あくる朝は雲の中、本道寺(本道寺口之宮湯殿山神社)までは結構長い距離なので誰一人会いませんでした。もちろん熊にも、です」と説明している。

 月山は羽黒山湯殿山を加えた出羽三山の一つである。羽黒山は標高414メートル、湯殿山は同1500メートルであるのに対し、月山は1984メートルであり、出羽三山の雄峰だ。その雄峰巡りを長年続けている友人でも、この山に対しいつも新鮮さを感じているに違いない。送られてきた写真を見ていると、山の息遣い、自然の営みが伝わり、気持ちがゆったりする。友人は山の友として、地元大蔵村(豪雪地帯で肘折温泉で知られる)にある山形県最古といわれる酒蔵の日本酒・大吟醸をリュックに入れるのを忘れなかったようだ。山小屋で飲む日本酒の味は、格別だったに違いない。

 1939 ある詩人の晩年 省察に明け暮れた山小屋生活

 以下は友人の板垣光昭氏が撮影した月山の風景です。お楽しみください。(多くの写真の中から一部のみの掲載です)

 

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こちらは残雪の頃の月山の風景(板垣さん撮影)