言葉
第一次世界大戦が終結したのは1918(大正7)年11月のことだった。この年の3月初めに米国カンザス州の陸軍基地から発生したとみられるインフルエンザA型(H1N1型)は、欧州戦線に従軍した米軍兵士を通じてヨーロッパに伝わり、さらに世界的流行(パ…
春立つや子規より手紙漱石へ 榎本好宏 俳人の正岡子規と文豪、夏目漱石は頻繁に手紙を交わしたそうです。この句は立春の日、子規から漱石に手紙が届いた情景を描いています。立春から春の彼岸が過ぎ、新型コロナウイルスによる感染症が世界で爆発的に流行し…
昨年6月、このブログで「語るに落ちる」という言葉(ことわざ)を使い、政治家の言動について書いたことがある。残念ながら、その後もこのことわざ通りの動きが政治の世界では続いている。連日、ニュースで取り上げられている「首相と桜を見る会」に関する…
「わが亡き後に洪水よ来たれ」という言葉について、23日付けの朝日新聞・天声人語は「人間の無責任さを示す言葉」として紹介している。原文はフランス語で「「Après moi, le déluge」で、「後は野となれ山となれ」と訳されることもあるそうだ。いずれにして…
知人の古屋裕子さんが日本気象協会のホームページ「tenki.jp」で、季節にまつわるコラムを担当している。直近は「さあ9月、『秋』への予感を感じるために!」と題し、「木」に関する話題を取り上げている。(「誰でも持っている心に残る木」「大木はやすら…
このブログで時々言葉について書いてきた。今回は「常套(じょうとう)語」である。「套」は内閣告示の常用漢字表にないことから、報道各社の用語集(たとえば共同通信記者ハンドブック)では、これを「決まり文句」に言い換えることになっている。しかし、…
昨今、新聞やテレビのニュースになるのは暗い話題がほとんどである。輸出管理の優遇措置を認める「ホワイト国」から韓国を除外したことをめぐる日韓の対立、愛知県での「表現の不自由展」の開催直後の中止、アメリカの相次ぐ銃乱射事件、北朝鮮による飛翔体…
CDでチェロ奏者、パブロ・カザルス(1876~1973)の「鳥の歌」を聴いた。「言葉は戦争をもたらす。音楽のみが世界の人々の心を一つにし、平和をもたらす」と語ったカザルス。1971年10月24日の国連の日に国連本部でこの曲を演奏した。カザ…
プロ野球、中日の攻撃の際に歌われる応援ソングの中に「お前が打たなきゃ誰が打つ」という言葉があるそうだ。この「お前」という部分に与田監督が「選手がかわいそうだ」と違和感を示し、応援団がこの歌を使うのを自粛したというニュースが話題になっている…
昨今、政治家の常套(じょうとう)語として使われるのは「真摯」だ。以前から国会で使われている常套語の代表ともいえる「検討」という言葉の影が薄くなったほどである。本来「まじめでひたむきなこと」という意味の真摯が、いい加減な言葉として使われてい…
JR山手線田町~品川間にできる新しい駅名が「高輪ゲートウェイ」と決まった。公募した新駅名では130位(36票)だったというニュースを見て、国鉄が民営化された当時、愛称として選ばれた「E電」のことを思い出してしまった。駅名だからすたれること…
埼玉在住の詩人たちの同人詩誌『薇』の19号が届いたのを機会にこの詩誌のバックナンバーを取り出し、頁をめくってみた。創刊号に印象深い詩が掲載されていたことを思い出したからだ。この詩誌は2009年12月に創刊、年2回発行されている。今号は創刊…
「イタリアやスペインでは〇〇は四季を通じて行われ、一つの文化である」。これは角川俳句大歳時記(角川学芸出版)に出ている、ある季語の解説の一部だ。賢明な方はすぐにあれかと思い至るはずだ。そうです。「〇〇」は「昼寝」でした。この夏は猛暑を超え…
今夏も近所の調整池を周る遊歩道に、待宵草(竹久夢二の歌は「宵待草」)の黄色い花が咲いた。早朝の散歩で黄色い、可憐な印象の花を見た。この花の正式名称はアカバナ科のマツヨイグサ(待宵草)で、南米チリ原産の帰化植物だそうだ。江戸時代に渡来し、野…
ドイツの文豪ゲーテ(1749~1832)は、様々な言葉を残している。18世紀中ごろから19世紀前半に生きた人であり、現代とは2世紀前後の差がある。とはいえ、その数々は現代に通ずるもので考えさせられるのだ。現代世相を引き合いに、いくつかの言…
日本各地で書店・本屋が消えている。郊外のショッピングセンター内の大型書店の出現やアマゾンなど通販サイトの普及、さらに電子書籍の参入と若者の本離れなど、背景には様々な要因があるだろう。書店が一軒もない町や村は今ではそう珍しくはない「書店が少…
最近、辞書を引くことが多い。分厚い辞書だけでなく電子辞書には出版社別のいろいろな辞書が入っていて、気になる言葉を簡単に調べることができる。例えば「語るに落ちる」という言葉がある。政治家の言動を見ていると、昨今これに当てはまることが少なくな…
夏目漱石の『坊ちゃん』に有名なたんか(啖呵)が出てくる。「ハイカラ野郎の、ペテン師の、イカサマ師の、猫被りの、香具師の、モモンガーの、岡っ引きの、わんわん鳴けば犬も同然な奴」(9章)である。「濁世」(だくせ、じょくせ、ともいう)という言葉…
フランシス・ベーコンの『随想集』(岩波文庫・渡辺義雄訳)の頁をめくっていたら、「高い地位について」という随想が目についた。ベーコンは高い地位に就いた者が注意すべき事柄を挙げ、特に「権威の弊害」として具体的に4つの項目を示している。中でも私…
「人生には笑ってよいことが誠に多い。しかも今人(こんじん)はまさに笑いに飢えている」民俗学者として知られる柳田国男が『不幸なる芸術・笑いの本願』(岩波文庫)という本の中で、こんなことを書いている。柳田の言うように、人生では笑っていいことが…
2215試合というプロ野球の連続試合出場記録を持ち、国民栄誉賞を受賞した元広島カープの衣笠祥雄さんが亡くなった。71歳だった。「鉄人」といわれた衣笠さんは17シーズン、全試合に出続けた。長い年月だ。その間、欠場の危機を乗り越えたのは優れた…
若い友人が大学の卒業研究として、音楽をテーマにした小説に取り組んだ。当初、担当の教官は「それは音楽に対する冒とくだ」という趣旨のことを話し、友人の構想に疑問を呈したという。しかし、熱心に取り組む姿勢に打たれたのか、途中からそうした言葉は消…
孔子の言葉と弟子たちとの問答を集めたといわれる「論語」には、よく知られている言葉が少なくない。「過ちを改めるに憚ることなかれ」(過失を犯したことに気づいたら、すぐに改めなければならない・学而第一 8の末尾)もその一つだ。過ちに関してはもう一…
近所に小さな森がある。その森に最近フキノトウ(蕗の薹)が大きくなっているのが、散歩コースの遊歩道からも見える。そこまで行くにはかなり斜面を下る必要があってかなり危険なため、誰も取りに行かない。そして、日に日に薹が立ち一面が白くなっていく。…
12月ともなると、遊歩道の街路樹のけやきもほぼ葉を落とした。我が家のすぐ前にある2本だけがなぜか、頑張って赤茶けた葉を3分の1ほど残している。しかし、間もなくこの木の葉も落ちてしまい、遊歩道は「冬木立」の風景になるだろう。「妻逝きて我に見…
中国・三国志に呉の呂蒙という人物が登場する。彼は無学な武人だったが、主君の孫権から学問をするよう勧められ、勉学に励んだ。後年、旧友の魯粛という将軍がその進歩に驚き、「今はもう呉にいたころの蒙さん(阿はちゃんという意味)ではない」とほめたと…
まことに、木々の葉の世のさまこそ、人間の世の姿とかわらぬ、 木の葉を時に、風が来って地に散り敷くが、他方ではまた 森の木々は繁り栄えて葉を生じ、春の季節が循(めぐ)って来る。 それと同じく人の世系(よすじ)も、かつは生い出て、かつまた滅んでゆ…
「天に軌道があるごとく、人はそれぞれ運命というものを持っております。とかく気合いだけの政治家は威勢のいいことを言うが、中身はない。トランプのババじゃあないんだから、自分の主張が全部通ると思っていたら、あなた、すぐに化けの皮がはがれますよ。…
3が日休んでいた近所の公園のラジオ体操が再開になった。この季節の6時半はまだ完全に夜が明け切らず、薄暗い。周囲の街路灯が点いたままだ。ラジオに合わせて体を動かし始める。冷えが少しずつ消えて行く。手足を伸ばしながら世の中はどう変わっていくの…
「この世のことはどんな些細なことでも予断を許さない。人生のどんな小さなことも、予想できない多くの部分から組み合わされている」。オーストリアの詩人、ライナー・マリア・リルケ(1875~1926)は唯一の長編小説『マルテの手記』の中で、こんな…