小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1663 高官を危うくする4つの弊害 「迎合」は汚職より悪質

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 フランシス・ベーコンの『随想集』(岩波文庫・渡辺義雄訳)の頁をめくっていたら、「高い地位について」という随想が目についた。ベーコンは高い地位に就いた者が注意すべき事柄を挙げ、特に「権威の弊害」として具体的に4つの項目を示している。中でも私がこれは!と思ったのが「迎合」だった。  

 ベーコンによると、高い地位に就いた者の権威を危うくするものとして「延引」(ブログ筆者注・予定よりも遅れること)「汚職」「粗野」「迎合」の4つがある。このうち、最後の「迎合」についてベーコンは、「それは収賄よりも悪質である。賄賂は時おりくるだけであるが、懇願とかいわれない手心とかが、人を動かすようになれば、止めどもなく動かされることになるからである。それはソロモンの言うとおりである。『人をえこひいきするのは、よくない。そのような人は一切れのパンために正道を踏み外しかねないからである』」と述べている。  

 これを読んで2017年の流行語になった「忖度」(そんたく)という言葉を思い浮かべた。この言葉がクローズアップされたのは森友学園加計学園をめぐって官僚たちが安倍首相の考えを推し量って、これらの学校関係者に便宜を図ったのではないかという疑惑が浮上したためだった。私はこの言葉と同時に、これらの問題では「迎合」の姿勢が幅を利かせたのではないかと思う。  

 迎合を辞書で引くと「他人の意向を迎えてこれに合うようにすること。他人の機嫌をとること。『上役に――する』」(広辞苑)「自分の考えを曲げてまでも、他人の意向や世の風潮に調子を合わせること。『権力』[大衆]に――する」(明鏡国語辞典)と出ている。財務省の官僚たちが起こした問題は、まさに時の権力者の顔色をうかがい、迎合したことが誘因だといえるだろう。ベーコンの随想集は1597年に書かれたものだ。400年以上も前の考え方が今も通用するのだから、虚しさを感じてしまう。  

 ベーコンは「迎合は収賄よりも悪質」と言う。その迎合という深い闇が、中央官庁を覆ってしまっている感がある。迎合の反対は「おもねらない」や「筋を曲げない」ということだろうか。そんな気骨ある人々が残っていることを願うばかりである。