小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1835 季節外れマロニエの緑葉 人生至宝の植物に異変

 

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 ラジオ体操をやっている広場に約20本のマロニエセイヨウトチノキ)がある。ほとんどの木が葉を落としつつあるのに、なぜか1本だけ青々と葉が茂っている。桜の花が季節外れに咲いたなどという話は聞いたり、実際に見たりすることがあるが、季節外れにマロニエの葉が茂るのを見たのは初めてだ。気候変動の影響だろうか。今年は植物も戸惑う年といえるようだ。  

 マロニエは春に芽吹き、初夏には白やピンクの花が咲き、秋になると実をつけ、ラジオ体操をやっている人の近くに実が落ちることもある。晩秋には葉が色づき、近くのけやきよりも早くに落葉する。木によって少しのずれはあるものの、このパターンは変わらない。ところが、今年9月になって1本が早めに落葉したと思ったら、新しい葉が出始め、10月中には全体が緑の葉で覆われたのだ。 「季節外れに葉を出すなんてどうしたんでしょうね」 「今年の夏は長梅雨が続き、明けたら急に暑くなったんで、季節感がなくなってしまったのかもしれないですね」  

 ラジオ体操仲間は、こんなふうに話している。さらにこの秋、私の住む千葉市は台風15号、19号の上陸、21号に伴う記録的大雨で大きな影響を受けた。体操広場近くのけやきの木が強風で折れたりしたから、夏から秋にかけての気候変動にマロニエの木もこれから活動の時期だと勘違いし、季節外れに葉を出してしまったのだろうか。落葉樹は気温が低くなると根の働きが鈍くなり、水分も十分に取れなくなるため古い葉を落として冬を越す。新しい葉が茂ってしまったマロニエはもう花が咲くことはないだろうし、寒くなってきたから2度目の落葉をすることになるのだろう。それはつらいことに違いない。

「われらを取り巻いている物の中で、植物ほど人生と深い関係を持っているものは少ない。まず世界に植物すなわち草木がなかったなら、われらはけっして生きてはいけないことで、その重要さが判るではないか。われらの衣食住はその資源を植物に仰いでいるものが多いことを見ても、その訳がうなずかれる。植物に取り囲まれているわれらは、このうえもない幸福である。こんな罪のない、且つ美点に満ちた植物は、他の何物にも比することができない天然の賜である。実にこれは人生の至宝であると言っても、けっして溢言(言い過ぎ)ではないのであろう」  

 植物学者の牧野富太郎は『植物知識』(講談社学術文庫)の中で、人間と植物のかかわりについて、このように書いている。私たちにとって至宝である植物。2度目の葉を出したマロニエは、地球温暖化に警鐘を鳴らしているかのように私には見える。  

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 写真  1、真ん中が2度目の葉を出したマロニエ  2、近くの遊歩道のけやきは紅葉になってきた

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