小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1674 辞書を引く楽しみ 「問うに落ちず語るに落ちる」

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 最近、辞書を引くことが多い。分厚い辞書だけでなく電子辞書には出版社別のいろいろな辞書が入っていて、気になる言葉を簡単に調べることができる。例えば「語るに落ちる」という言葉がある。政治家の言動を見ていると、昨今これに当てはまることが少なくないことに気が付く。政治の劣化と言われて久しいが、政治家より政治屋という妖怪が永田町を徘徊していることが背景にあるのだろうか。

「語るに落ちる」は「問うに落ちず語るに落ちる」の略で、「人にきかれると用心して話さないが、自分から語る時は、うっかりしゃべってしまうこと」(東京堂出版・故事ことわざ辞典)という意味だ。この辞典によると、出典は「それそれ問ふに落ちず語るにおちると」という近松門左衛門作の人形浄瑠璃女殺油地獄」(おんなころし あぶらのじごく)のセリフだという。また『毛吹草』という江戸時代の俳諧論書にも「問うに落ちぬは語るにおつる」という言葉が出てくるそうだ。  

 新明解国語辞典第7版(三省堂)には「こちらから聞いても用心して白状しないのに、自分から思わず本当の事を言う」と、「白状」(自分の罪や隠していたことを申し述べること)という犯罪用語的な解説も出ている。毎朝配達された新聞を見ると、このことわざに該当する話は事欠かない。今朝も2つのニュースがあった。     

 1つは、15日の衆院厚生労働委員会参考人として出席した肺がん患者が意見を述べている最中、「いい加減にしろ」というヤジを自民党穴見陽一という議員が飛ばしたというのである。この委員会は受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案を審議していたもので、穴見議員は21日になってヤジを飛ばしたことを認め、謝罪するコメントを書面で発表した。

「喫煙者を必要以上に差別すべきないという思いでつぶやいた」という弁明だが、まさに「うっかり本音を漏らしてしまった」といえるだろう。この議員は大分県を中心に展開するファミリーレストランの社長を長く務めている(現在は相談役、社長は妻)。改正案では資本金500万円以上の店舗は全面禁煙となることから、同議員関連のファミリレスもその対象となるというが、国会議員の立場を理解していない言動に、怒りよりも虚しさを感じてしまうのだ。  

 2つ目は、首相発言を取り消した自民党河村建夫衆院予算委員長の釈明だ。国会の委員会の委員長といえば、スポーツの審判のように中立・公平な議事運営に当たるべき立場だ。だが河村氏は、20日夜東京・銀座の高級ステーキ店で安倍首相との会食に参加した。その席には麻生副総理兼財務相自民党の二階幹事長ら政府自民党のお歴々もおり、会食後河村氏は「首相が『もう集中審議は勘弁してほしい』というから、『なかなかそうもいかないでしょう』と言っておきました」と記者団に語った。

 ところがである。21日になって「首相の『勘弁してほしい』という言い方はなかった。間違いだった。首相は『予算委員会よろしくね』という感じの話をした」と、前夜の記者団への発言を撤回したのだ。河村氏が当初説明した首相発言は、まさしく「語るに落ちる」もので、それが公になったものだから、慌てて取り消しを指示したとしか思えない。  

 首相の夜の会食・宴席好きは毎日の動静(大阪北部で大きな地震があった18日でさえ、自民党の岸田政調会長と会食している)を見ていても明らかだ。こうした夜の宴席で、実は「語るに落ちる」を繰り返しているのかもしれない。

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 写真 22日朝の霧が立ち込めたわが家周辺の光景。政界の混沌ぶりを象徴しているかのようだ。