小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1760 言葉が泣いている 検討から真摯へ

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 昨今、政治家の常套(じょうとう)語として使われるのは「真摯」だ。以前から国会で使われている常套語の代表ともいえる「検討」という言葉の影が薄くなったほどである。本来「まじめでひたむきなこと」という意味の真摯が、いい加減な言葉として使われているようで残念でならない。折角の言葉も使われ方次第で、品位を失ってしまう典型といっていい。  

 国会の審議でよく聞かれる「検討します」という言葉は「よく調べて、対策を講じる」はずなのに、質問をはぐらかすために答える「何もやらない」という意味に使われることがほとんどだ。あいまいな意味の役人用語でもある。与党の質問には「前向きに検討します」という答弁が目立つのだが、野党の質問に対してはまともに答えないから、最近は「検討します」という言葉自体、あまり聞かれない。

「真摯」の方は、森友・加計問題や沖縄の辺野古基地問題で政府首脳が連発している。その裏でどう見ても真摯とは思えない言動が明らかだから、その姿勢は実は「ふまじめでいい加減」に見える。2月の辺野古基地建設の是非をめぐる沖縄県の県民投票で、建設反対票が7割以上という結果が出た後、安倍首相は「真摯に受け止め、沖縄の基地負担軽減に取り組む」と発言した。だが、県民投票の翌日から土砂投入が再開され、玉城デニー知事との会談では「世界で一番危険といわれる普天間の状況を置き去りできない」と語るだけで、県民投票の結果を考慮しない頑なな姿勢を続けている。いわば無視といっていい。  

 そして、沖縄では「真摯」とは程遠い問題が起きている。東京で読む新聞には出ていないが、沖縄の2つの地元紙(琉球新報沖縄タイムス)を読んでそれを知った。沖縄防衛局が石垣島石垣市)に陸上自衛隊を配備するための駐屯地工事を地元の環境影響評価(アセスメント)を求める声を無視して始めたというのである。両紙によると、防衛省は南西地域の防衛態勢の充実を図るという目的で石垣島に500~600人規模の警備部隊やミサイル部隊を配備する方針で、駐屯地を建設するというのだ。  

 駐屯地は46ヘクタールで、造成工事を始めたのは土地取得済みの旧ゴルフ場13ヘクタールの一部の進入路部分に当たる0・5ヘクタールだ。予定地の約半分を占める市有地は未取得なのに、なぜ防衛省は工事を始めたのだろうか。沖縄県は昨年、環境影響評価(アセスメント)条例を改正し、対象事業をこれまでゴルフ場や飛行場など特定事業に限定していたものを、土地造成を伴う事業すべてに拡大した。  

 これによって基地施設の整備もアセスの対象に含まれることになったのだが、条例には本年度内の工事は対象から除外するという経過措置があった。防衛省はこれに目を付けたと両紙は指摘する。最短でも3年程度が必要なアセスの手続きを省くことで、工事を加速させたいという防衛省の思惑がこうした地元の声を無視した工事に踏み切った要因だという。この計画に対し地元の4地区が反対しており、住民らが再度の話し合いを求めた直後の工事着手だったという。年度内に着工すれば、20ヘクタール以上の土地造成を伴う事業が対象となる県の改正アセス条例の適用外となる「アセス逃れ」だという批判は折り込み済みの工事着手といえるようだ。   

 こうした政府・防衛省のやり方について、両紙は以下のように手厳しく批判している。 「『説明責任』と『合意形成』という最低限のルールさえ守られず、沖縄の北では米軍基地、南では自衛隊駐屯地工事が強行されている。米軍と自衛隊の一体化が急速に進む中での基地建設は、南西諸島の『軍事要塞(ようさい)化』というほかない」(沖縄タイムス) 「住民の理解が得られていない中での着工は、あまりに乱暴だ。あまりにも住民不在のまま基地建設を進めている。『島しょ防衛』という配備目的の中に、地元住民は含まれていないとしか思えない。アセスの手続きを踏まない拙速な工事はただちに中止すべきだ」(琉球新報)  

 21世紀になって18年目に入った。人間で言えば18歳は、溌剌とした青春時代である。だが、世の中から溌剌さが失われ、姑息な手段や言葉使いが横行している。その象徴が真摯の多用だと思ってしまう。

 

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