1562 「生と死」にどう向き合う 草間彌生展にて
彫刻家、画家である草間彌生は、自伝『無限の網』(新潮文庫)の中で、「芸術の創造的思念は、最終的には孤独の沈思の中から生まれ、鎮魂のしじまの中から五色の彩光にきらめきはばたくものである、と私は信じている。そして今、私の制作のイメージは、『死』が主なるテーマである」と書いている。国立新美術館で開催中の「草間彌生 わが永遠の魂」展は、まさに死をテーマにした、原色に彩られた独特の作品が並んでいる。
草間は2009年から大型の絵画シリーズ「わが永遠の魂」に取り組んでいるという。それは「生と死」に対する草間の向き合い方が示されているようだ。草間は、自伝の中で現代の死について以下のように示している。
《科学や機械万能の進歩による人間の思い上がりは、生命の輝きを失わせ、イメージの貧困をもたらしている。暴力化した情報化社会、画一化した文化、自然の汚染、この地獄絵図の中で、生の神秘はすでに息づくことをやめている。私たちを迎い入れる死は、その荘厳である静かさを放棄し、私たちは静謐な死を見失いつつある》
このように考える草間は、「わが永遠の魂」シリーズで、死への道について多くの作品を描いた。それには「私の死の瞬間」「天国へのぼる時」「天国へのぼる会談」「死の足跡」「天国へ昇る入口」「死の瞬間」「永劫の死」等々、死を考える数多くの題名が付いている。 私が初めて草間の作品を見たのは、7年前の2010年、青森県十和田市にある市立十和田市現代美術館でのことだった。美術館の外にも、現代芸術家たちの作品があった。そこで、こんなところに変なものがあると、いぶかったのが水玉模様の草間の作品(かぼちゃやきのこのオブジェ)だった。
草間は岡本太郎とともに、日本の芸術界に衝撃を与えた。その言動も私の常識を超えている。2年前、六本木の森美術館で『村上隆の五百羅漢図展』があり、巨大壁画を見た。今回の草間彌生展は、それ以来の衝撃を受けた。私と同様の受け止め方をした人は少なくないかもしれない。草間作品は、それほどに重い意味を持っているように思える。