小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1570 植物の三徳 清澄のユリ園を訪ねて

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 植物には三徳があると言ったのは、植物学者の牧野富太郎である。人間の生活に植物がいかに重要な役割を果たすかを示した言葉である。それは後述するが、牧野は「もしも私が日蓮ほどの偉物であったなら、きっと私は、草木を本尊とする宗教を樹立して見せることができると思っている」(牧野富太郎『植物知識』講談社学術文庫)とも述べている。梅雨の晴れ間に恵まれた一日、牧野の言葉に惹かれて、房総半島のユリ園を見に行った。  

 訪ねたのは、千葉県で2番目に高い鴨川市の清澄山(きよすみやま、377メートル)である。ここには日蓮宗大本山清澄寺(せいちょうじ)があり、隣接する日本山妙法寺仏舎利塔前の斜面にはユリ園(約2千平方メートル)が広がっていた。地域の人たちが日蓮ゆかりの地である清澄寺周辺に活気をもたらそうと、2年前からユリを植え始め約1万3000本になった。オレンジ、白、赤、紫、黄など彩り豊かなユリは真っ白な仏舎利を背景に、いま見ごろを迎えている。  

日蓮は1222年(貞応元年)、安房の国小湊(現在の鴨川市小湊)で生まれ、12歳から清澄寺で修行したという。このあと、さまざまな寺で修行を重ね、31歳のときに清澄寺で日の出に向かって初めて「南無妙法蓮華経」という題目を唱えた。これが日蓮宗の始まりといわれ、清澄寺から仏舎利塔へ行く途中の高台には、1923年(大正12)年8月30日に建立された日蓮聖人(上人)銅像(渡辺長男作)がある。房総の海に向かって手を合わせる日蓮の姿は、人を魅了してやまない。  

 日蓮ゆかりの地につくられたユリ園もまた、多くの人を惹きつけるようで、見物の人の姿が絶えることはなかった。ところで、牧野が言う三徳(仏教の三徳と同趣旨)とは以下の3点(カッコ内は要約)である。ユリ園を見て参道を歩くと、その通りだと気がついた。三徳を失った現代人は少なくない。その代表が政治家であることは言うまでもない。  

 1、人間の本性がよくなる(野に山に、周囲に咲き誇る草花を見れば、だれでも優しい自然美に打たれて和やかな心になる)  

 2、健康になる(植物を趣味にして山野に草や木を探し求めれば戸外の運動となり、日光浴もできるから健康が増進される)  

 3、人生に寂寞を感じない(周囲にある草木は永遠の恋人として優しく微笑みかけてくれる)

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 写真  1、2 日本山妙法寺仏舎利塔前のユリ園風景  3、房総の海に向かって合掌する日蓮像  4、銅像の先に広がる山並み。そのはるか向こうは太平洋  5、清澄寺本殿  6、天然記念物千年杉  7、名物の大グス   

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