小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1567 2つの大戦の過去とは決別できない 『ヨーロッパ炎上 新・100年予測』の結論

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 ヨーロッパの国々の関係は複雑だ。ヨーロッパをまとめていたEUは、イギリスの離脱決定によって今後の雲行きが怪しいし、シリアなどから押し寄せる難民問題は解決が困難だ。ジョージ・フリードマンの『ヨーロッパ炎上 新・100年予測』(ハヤカワ文庫)は、そんなヨーロッパ情勢を分析し、今後を占う本である。著者はヨーロッパの今後をどう予測しているのだろう。  

 ヨーロッパでは第一次大戦が始まった1914年から第二次大戦が終結した45年までに1億人が死んでいる。「戦争、集団虐殺、粛清、計画的飢餓などの政治的理由」(著者)である。こうした背景を基にしながら、著者はヨーロッパの近代史を俯瞰し、「紛争の火種」として、個別具体的な問題を論じている。著者は1949年にハンガリーで生まれ、米国で成長したユダヤ人であり、著者家族の生活にも触れながら、ヨーロッパ情勢を分析しているのが特徴だ。  

 第二次大戦の敗戦国ドイツの経済発展に伴う「ドイツ問題」の再燃、ロシアとヨーロッパの関係、フランスとドイツの関係、イスラムとドイツに挟まれた地中海の国々、トルコやイギリスの今後など、現在ヨーロッパで起きているさまざまな事象を理解する上で必要なテーマはほぼ網羅されている。そしてイギリスの離脱が決まったEUが弱体化し、ヨーロッパは第一次大戦から第二次大戦の31年とは決別できないと結論づけている。いずれにしろ、ヨーロッパの近未来はバラ色ではないことは間違いない。相次ぐ悲惨なテロはその一例だ。近未来予測が芳しくないのはヨーロッパだけでなく、全地球にも当てはまることなのかもしれない。(複雑な現代にあって、100年の予測など不可能である。この題名は?である)  

 この本を読んで2つの記述が気になった。1つは国同士の争いで被害を受けた側の感情に関するもので、もう1つは戦争に対する分析である。一考に値すると思われるので、以下に掲げる。  

 1、私たちには記憶というものがあり、誰かに不当な扱いを受けた思えば、決してそれを忘れない。国家間で何か争いがあった時には、最も強い国を除け、すべての国が被害者意識を持つことになる。決して正当化できない悪事が行われ、自分たちはその犠牲になったと感じる。そして決してそのことを忘れない。(中略)他人の抱く感情を理解せずに動けば、政治的に重大過ち犯すことがあるだろう。他人の愛情や憎しみは、どうしても理不尽に見えるが、それはそういうものだと理解しなくてはならない。

(中国や韓国の反日姿勢も、こうした理由によるのではないだろうか)  

 2、人間が戦争をするのは、愚かだからでも、過去に学んでいないからでもない。戦争がいかに悲惨なものかは誰もが知っており、したいと望む人間はいない。戦争をするのはその必要に迫られるからだ。戦争をする現実に強制されるのである。ヨーロッパ人はもちろん人間なので、他の地域の人間と同様、あるいは過去の彼らと同様、いつでも悲惨な戦争を選択せざるを得ない状況に追い込まれる可能性はある。戦争か、平和か、その選択を迫られる時は来る。ヨーロッパ人は過去に何度も戦争を選択してきた。今後も選択する時はあるだろう。まだ何も終わってはいない。人間にとって重要なことは、いつまでも終わることはないのである。

(人間という生物が地球上に存在する以上、戦争はなくならないということなのだろう。イギリスの思想家・法律家トマス・モアの著書『ユートピア』を思い出した。ユートピアの人々は、戦争を最も残忍なものとして嫌い、軽蔑する一方で、あらゆる侵略者に対して兵器を手にして立ち上がる用意があるだけでなく、すべての友好民族に対して民族の国境に侵入した敵を撃退するための援助をする用意があることが記されている)

1379 トマス・モアと安保法制  政治家の理性とは