小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

2017-01-01から1年間の記事一覧

1551 木々の葉のさまは人の世と同じ 『イーリアス』から

まことに、木々の葉の世のさまこそ、人間の世の姿とかわらぬ、 木の葉を時に、風が来って地に散り敷くが、他方ではまた 森の木々は繁り栄えて葉を生じ、春の季節が循(めぐ)って来る。 それと同じく人の世系(よすじ)も、かつは生い出て、かつまた滅んでゆ…

1550 巡ってきた6年目の春 共感呼ぶある愛の詩

朝、散歩をしていたら、調整池の森からウグイスの鳴き声が聞こえてきた。自然界は確実に春へと歩みを続けている。だが、3月は心が弾まない。それは私だけではないだろう。言うまでもなく、6年前の東日本大震災がその原因である。 「三月は鼻に微風を送る山…

1549 春に文句を言う人は トルコの小話より

冬の寒い一日、皆は、天気の悪いことをこぼしていた。一人が言った。 「満足することを知らんもんもおる。そんな輩は、いつも不平ばかり言うんじゃ。冬になれば、ああなんて寒いんだと言う。夏になれば、なんて暑いんだとくる」 「そのとおりじゃ」とホジャ…

1548 ある障害者の体験 電車内は文化レベルの尺度

障害者支援のNPOを運営している知人が視覚障害者になった。視野狭窄の病気が進行したためで、医師からは外出する際、白い杖を持つように勧められ、知人は白い杖を持って外出、電車に乗るようになった。そこで知人が体験したことは、現代社会のよそよそし…

1547 優れた人との出会いが花の時代 『わたしの渡世日記』から

「人は老いて、ふと我が来し方を振り返ってみたとき、かならず闇夜に灯を見たような、心あたたまる経験を、自分も幾つか持っていることに気づくだろう。それがその人の『花の時代』である。(中略)私の場合でいうならば、優れた人間に出会った時期をこそ、…

1546 再読『一九八四年』 全体主義の芽がそこに…

北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏がマレーシア・クアラルンプール空港で暗殺された事件が国際的波紋を呼んでいる。北朝鮮による多国籍の人間を使った請負殺人との見方も出ている。国際空港を舞台にした事件は、全体主義国家の恐怖を描い…

1545 市民が支える小さな山荘 愛の鐘響く新庄・杢蔵山

作家の深田久弥(1903~1971)は、長い年月をかけて日本の名峰、百座を登頂した。その実体験を基に名作『日本百名山』を書いた。その後記(新潮文庫)で「日本人ほど山を崇び山に親しんだ国民は、世界に類がない。国を肇めた昔から山に縁があり、ど…

1544 異質さを認め尊重する手がかり トランプ時代の『アンネの日記』の読み方

「人間相互の“異質さ”を認めあい、尊重しあうための手掛かりとして読んでいただければと思う」。翻訳者、深町眞理子は、『アンネの日記 増補新訂版』(文春文庫)のあとがきで、こんなことを書いている。イスラム圏7か国出身者の入国禁止令を出して物議をか…

1543 豊穣な音楽の世界 恩田陸著『蜜蜂と遠雷』を読む

ピアノコンクールをテーマにした作品として思い浮かべるのは『チャイコフスキーコンクール ピアニストが聴く現代』(中央公論社)である。ピアニストの中村紘子(21016年7月26日に死去)がこのコンクールの審査員を務めた体験から、コンクールの舞台…

1542 名横綱への道 稀勢の里の魅力

大相撲初場所で大関稀勢の里が初優勝(14勝1敗)し、横綱昇進が決定的になった。優勝インタビューで稀勢の里は「自分の相撲を信じて、一生懸命どんどん稽古して、また強くなって皆さんにいい姿を見せられるように頑張りたいです」と語った。これまで以上…

1541 列島に限りなく降る雪 天から送られた手紙

「汽車の八方に通じて居る國としては、日本のやうに雪の多く降る國も珍しい」 民俗学者、柳田國男は『雪國の春』の中で、こんなことを書いている。 現在日本列島は大雪が続いている。まさに柳田國男の言う通りである。日本を訪れ、広島に入ったオーストラリ…

1540 天に軌道があるごとく 歴史に残る人たちの街を歩く

「天に軌道があるごとく、人はそれぞれ運命というものを持っております。とかく気合いだけの政治家は威勢のいいことを言うが、中身はない。トランプのババじゃあないんだから、自分の主張が全部通ると思っていたら、あなた、すぐに化けの皮がはがれますよ。…

1539 寒風が吹いても 強き言葉で

3が日休んでいた近所の公園のラジオ体操が再開になった。この季節の6時半はまだ完全に夜が明け切らず、薄暗い。周囲の街路灯が点いたままだ。ラジオに合わせて体を動かし始める。冷えが少しずつ消えて行く。手足を伸ばしながら世の中はどう変わっていくの…