小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1565 5月の風に 春から夏へのバトンタッチ

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 今年の立夏は5日だった。ゴールデンウィークはほぼいい天気の日が続いた。それが終わると、天気はぐずついている。沖縄は間もなく梅雨に入るという。春から夏への移行の季節になった。旬の食べ物はタケノコである。故郷の竹林のことを思い出した。  

 この季節、七二候によれば「竹笋生ず」という。「たけのこが、ひょっこり出てくるころ。伸びすぎないうちに、とれたてを味わいましょう」(白井明大『日本の七十二候を楽しむ』東邦出版)とあるように、タケノコは新鮮なうちに食べるのが一番おいしいのは誰でも知っている。それほどにタケノコの成長は早く、すぐに食べごろを逸してしまう。  

 筍を茹でてやさしき時間かな 後藤立夫  

 タケノコを茹でる時間はどれほどなのだろう。普通はあくを抜くために、米ぬかと唐辛子を入れた鍋で1時間半程度必要だという。そんなことは知らずに子どものころから、家の近くにあった孟宗竹の竹林から採ってきたタケノコを食べていた。  

 ここで思い出を一つ。ある時、都市部に住む友人とわが家の竹林にタケノコを採りに行った。私は普段着、彼はワイシャツにネクタイ姿。さすがにネクタイは外したが、腕まくりしたワイシャツにはカフスボタンが付いたままだった。彼は持っていったスコップで懸命にタケノコを掘った。十分収穫できて、私たちは満足して家に戻った。  

 しばらくして、彼は右腕のカフスボタンがないことに気付いた。就職するときに母親からプレゼントされた特別なものらしく、私たちは竹林に戻り、なくしたカフスボタンを必死で探した。1時間ほど経過したが、結局見つからなかった。彼の落胆ぶりはいまでも覚えている。それから、彼がタケノコを食べないようになったかどうかは分からない。それにしても、タケノコ採りにワイシャツで行く人はいまはいないのではないか。  

 正岡子規はタケノコに関するおびただしい俳句をつくっている。以下はそのうちの3句である  筍に雲もさはらぬ日和かな  筍の頭出したるうれしさよ  筍の並ぶものなくのびにけり

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1361 5月は好きですか ノバラの芳香に包まれて 443 一番好きな季節は 立夏のころ