小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1571 きのふの誠けふの嘘 アジサイの季節に

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 紫陽花やきのふの誠けふの嘘 正岡子規 

 アジサイの季節である。最近は種類も多いが、この花で思い浮かぶのは色が変化することだ。子規はそのことを意識して人の付き合い方についての比喩的な句をつくったのだろう。安倍首相の獣医学部をめぐる言動は子規の句通りである。  

 安倍首相は6月24日の神戸での講演で、「1校に限定して特区を認めた中途半端な妥協が、結果として国民的な疑念を招く一因となった。今治市だけに限定する必要は全くない。地域に関係なく、2校でも3校でも、意欲ある所にはどんどん新設を認めていく」と述べた。今治市に計画されている加計学園獣医学部新設認可問題で、安倍首相だけでなくその側近も野党の批判に対し「一切関わっていないし、その立場にはない」と否定的立場をとってきた。  

 だが、今回の発言はこの言葉を覆し、国家戦略特区の最終決定者である首相の立場は「何でもできる」と明言したものだといえる。通常国会閉会後の 記者会見で安倍首相は加計問題に関する批判に答え、「信なくば立たずであり、何か指摘があればその都度、真摯に説明責任を果たしていく」とも述べている。その直後萩生田官房副長官の関与を示す文書の存在を文科省が発表したにも関わらず、その後何ら説明をする場をつくることはない。

「信なくば立たず」は論語の「顔淵第十二」の「七」に出てくる。子貢という弟子の質問に対する孔子の「民無心不立」(民 信ずる無くんばたたず)という言葉が由来である。子貢の為政者の心構えとはという質問に対し、孔子は「民の生活の安定、十分な軍備、そして政権への信頼だ」と答える。「三者のうちどうしても棄てなければならないとしたら、それはどれか」と聞かれると「軍備だ」と答え、さらに「残った二者ではどちらを捨てるか」という質問には「生活だ。もちろん食べるものがなければ人は死ぬ。古来人間はいつか必ず死ぬ。だが、もし為政者への信頼がなければ、国家も人も立ち行かない」と語ったというのである。  

 この言葉を引用しながら、何も説明しないのは子規の句のように「きのふの誠けふの嘘」の態度と言わざるを得ない。都議選で自民党の候補者について「防衛省自衛隊防衛大臣自民党としてもお願いしたい」と演説、深夜に撤回した稲田という女性の防衛大臣も首相と似た者同士なのだろう。  

 アジサイは雨に打たれながら、静かに季節を謳歌している。色が変化するアジサイに何の罪もない。あるのは嘘をつく人間の方なのだ。

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1372 イザベラ・バードが見たアジサイ 『日本奥地紀行』より