小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

歴史

1960 潔癖症を見習おう 鏡花の逸話を笑ってはならない

明治から昭和初期に活躍した作家の泉鏡花(1873~1939)は、『高野聖』や『婦系図』など、幻想的な作品を発表した。もし、鏡花が現代に生きていたら、コロナ対策の大家になっていたかもしれないと、想像する。鏡花は病的といえるほど、不潔を嫌う潔…

1959 生存競争と政治家「保身」に対する寅さんの声

2020年も残すところ6日。コロナ禍に揺れる世界。ことしも政治家の危うい言動が目に付いた。そのうち3人の姿から「保身」という言葉が浮かぶ。ユニークな意味・解釈で知られる「新明解国語辞典 第7版」(三省堂)には「[生存競争から脱落しないように…

1958 ベートーヴェンは《第九》が一番 何かを満たしてくれる曲

NHK教育テレビで、今年が生誕250年になるベートーヴェンの曲について「ベスト10」のアンケートをした番組やっていた。一番に選ばれたのは、私の予想通り《第九》だった。なぜ日本人は《第九》が好きなのだろう。ベートーヴェン研究者で政治活動家(…

1955 2020年の読書から 2人の女性作家の伝記小説

日本の新刊本は、年間約7万2000部(20019年、出版指標年報)発行されている。多くの本は書店に並んでも注目されずに、いつの間にか消えて行く運命にある。新聞の書評欄を見ても、興味をそそられる本はあまりない。というより、慌てて買わなくとも…

1953 小説を読む楽しみ 開高健の眼力

「小説は無益であるからこそ、貴重である。何もかもが、有効であり、有益であったならば、この世はもう空中分解してしまう」。ベトナム戦争取材記や釣り紀行で知られる作家の開高健(1930~89)の小説に対する見方((大阪市での教職員対象の講演録・2…

1951 男たちはどんな顔? 険しく卑しくもの欲しげでずる賢くなっていないか

「男たちはいい顔をしているだろうか。女の目から見てどう映るか」。男にとって耳の痛いことを書いた文章を読んだ。では日本の首相、アメリカの大統領は、いい顔をしているだろうか。考え込まざるを得ないのは、私だけではないはずだ。逆に、ニュージーラン…

1950 散歩の途次にて 見上げる空に不安と希望が

「私の生涯は極めて簡単なものであった。その前半は黒板を前にして坐した。その後半は黒板を後にして立った。黒板に向って一回転をなしたといえば、それで私の伝記は尽きるのである」。哲学者、西田幾多郎(『続思索と体験・続思索と体験以後』は、自身の半…

1948 世界が疫癘に病みたり デフォーが伝えるペスト・パニック

ロンドンが疫癘(えきれい)に病みたり、 時に1665年、 鬼籍に入る者(注・死者のこと)の数(かず)10万、 されど、われ生きながらえてあり。 H.F. ダニエル・デフォー著/平井正穂訳『ペスト』(中公文庫)は、この短い詩で終わっている。 「疫癘」は…

1947 政治は国民を指導し取り締まるもの? 辞書作りは盤根錯節

時々、辞書の頁をめくる。結構面白いことが載っている。最近、アメリカの大統領選挙、日本の学術会議委員任免拒否問題が連日新聞に載っている。いずれもが政治ニュースだ。そこで、「政治」について辞書を引いてみる。中にはユニークな説明もあり、考えさせ…

1942 感染症の災厄を乗り越えて「アン」シリーズ4に見る希望の展開

内外ともにコロナ禍により経済的、精神的に追い詰められている人が少なくない。これまで多くの感染症が人類を襲った。ウイルスとの闘いは果てしがない。かつて、インドだけで1年に300万人が死亡したという恐るべき感染症が天然痘だった。この忌むべき感…

1941 過ちに気づき始めた世界の人々 核兵器禁止条約発効へ

核兵器を全面禁止する核兵器禁止条約を批准した国・地域が発効に必要な50に達した。中米ホンジュラスが新たに批准したことで、90日後の来年1月22日に発効することになった。それでも岸防衛相は「核の保有国が加われないような条約で、有効性に疑問を…

1939 ある詩人の晩年 省察に明け暮れた山小屋生活

太平洋戦争・日中戦争は全国民を巻き込み、知識人も例外ではなかった。戦後、戦争に加担したことに対し批判を受け、思い悩んだ知識人・芸術家は少なくない。作曲家の古関裕而をモデルにしたNHKの連続ドラマ『エール』で、主人公が戦後苦しむ姿はその一例…

1938 嫌な時代と嫌な奴ら 好学の士いずこ

アインシュタインと湯川秀樹はだれでも知っている理論物理学者で、ノーベル賞受賞者だ。米国のプリンストン高等研究所(ニュージャージー州プリンストン)に縁があり、親しい間柄だった。この研究所の創設にかかわり、初代所長になったのがエイブラハム・フ…

1936 時代を反映する鉄道 京葉線30年の歩み

東京ディズニーランドに行くため、JR東京駅から京葉線で舞浜まで乗ったことがある人は多いはずだ。京葉線の東京~蘇我間43キロ(西船橋ルート11・3キロを含めると京葉線は54・3キロ)が全面開業したのは1990(平成2)年3月10日のことで、…

1935 俯瞰(ふかん)って何ですか 庶民は政治を見ている

「総合的、俯瞰的観点に立って判断した」。日本学術会議の会員任命をめぐって、同会議から推薦された105人のうち6人が任命から外された問題で、加藤官房長官と菅首相は同じ説明を繰り返している。俯瞰は、高いところから見るという物理的意味と、物事を…

1934 ある新聞人の苦悩の戦後 沖縄再訪への思い抱きながら

沖縄・那覇に「戦没新聞人の碑」がある。沖縄以外ではあまり知られていないが、今から54年前の1966(昭和36)年9月30日に除幕された、太平洋戦争の沖縄戦で亡くなった14人の新聞関係者を慰霊する碑である。沖縄戦ではおびただしい民間人が犠牲…

1933 流れに逆らう勇気 政権は高支持率だが……

人がみな 同じ方向に向いて行く。 それを横から見てゐる心。 (石川啄木『悲しき玩具』より) 報道機関の世論調査で、30%台まで下がった安倍晋三内閣の支持率が、安倍氏の退陣表明(8月28日)直後に70%を超える驚異的回復を見せた。安倍政治の継承…

1930 教養ある人間の条件 チェーホフの手紙から

ロシアの文豪、アントン・チェーホフは多くの手紙を書いたことで知られる。中でも実の兄あての教養に関する手紙は辛辣で、面白い。27歳だったチェーホフは、少しだけ年上の兄を「天才」と持ち上げたあと、1つだけ欠点があると書く。それは「無教養」だと…

1927「本の表紙を変えただけでは」 理想の政治家像とは

「本の表紙だけを変えても、中身が変わらなければ駄目だ」。自民党の総裁選のニュースを見ていたら、こう言って、総理大臣(首相)になるのを固辞した政治家がいたことを思い出した。私は政治家は嫌いだ。だが、当時この政治家の気骨ある姿勢に驚き、自民党…

1926 学べき悔恨の歴史 秘密文書に見るユダヤ人問題

前回のブログで、ナチス・ドイツの強制収容所アウシュヴィッツにあったオーケストラのことを書きました。引き続きこれに関連したことを記したいと思います。太平洋戦争中、日本政府が人口・民族政策に関する研究を行い、秘密文書をまとめていたことはあまり…

1925 アウシュヴィッツのオーケストラ 生き延びるための雲の糸

「人間の苦悩に語りかけ、悲しみを慰め、それをいやすよう働きかける力こそ、音楽のもつ最高の性質の一つだと信じる」。音楽評論家の吉田秀和は、『音楽の光と翳(かげ)』(中公文庫)で音楽の力について書いている。第2次大戦下、死が日常化したナチスの…

1917 8年間に6000キロを徒歩移動 過酷な運命を生き抜いた記録

今年5月、このブログで『今しかない』(埼玉県飯能市の介護老人保健施設、楠苑・石楠花の会発行)という小冊子を紹介した。この中に「「私の人生は複雑で中国に居たんです。抑留されて8年間いました。野戦病院だったから、ロシアの国境近くから南の広東ま…

1915 20年後の新聞 紙の媒体は残るのか

「20年後も(新聞が)印刷されているとしたら、私には大変な驚きだ」。アメリカの代表的新聞であるニューヨーク・タイムズ(NYT)のマーク・トンプソン最高経営責任者(CEO)の発言を聞いて、驚く人、悲しむ人、当然だという人……さまざまな感想があ…

1911 私利私欲を憎め 小才子と小悪党がはびこる時代

現代の日本社会を見ていると、小才子(こざいし)と小悪党が跋扈(ばっこ)し、私利私欲のために権力を動かしている者たちが大手を振って歩いている。これは独断と偏見だろうか。決してそうではないはずだ。コロナ禍に襲われた今年も残りは5カ月余になって…

1910 奇跡を願うこのごろ 梅雨長し部屋に響くはモーツァルト

「奇跡」を辞書(広辞苑)で引くと、「(miracle)常識では考えられない神秘的な出来事。超自然的な現象で、宗教的真理の徴(しるし)と見なされるもの」とある。2020年の今年こそ、奇跡が起きてほしいと願う人が多いのではないだろうか。ある日突然、こ…

1909「人生は死に至る戦いになる」かみしめる芥川の言葉

先日、俳優の三浦春馬さん(30)が自殺し、テレビのワイドショーでは連日過熱報道が続き、行き過ぎだという声も出ている。そんな折、今月24日が「河童忌」であることを思い出した。大正文壇の寵児といわれた芥川龍之介の命日(1927年7月24日)だ…

1905 アメリカへ社会の病根の深さを抉った本 対岸の火事視できない日本

アメリカ中西部ミネソタ州の白人警官による黒人男性暴行死事件(ことし5月発生)に抗議するデモが全米に拡大している。この背景にあるのは、言うまでもなく人種差別と深刻な格差社会である。その象徴のような存在に思えるトランプ大統領を「金儲けと貪欲一…

1904「医」と「恥」から想起すること 国手が欲しい国は

山形県酒田市出身の詩人吉野弘(1926~2014))の詩『漢字遊び』の中に「医」「恥」という短い作品がある。コロナ禍の現代を端的に表すような詩を読んで、私は漢字の妙を感じ、同時に多くの政治家の顔を思い浮かべた。 吉野の「医」は以下の通りだ。…

1902 手塚治虫が想像した21世紀 「モーツァルトは古くない」

「鉄腕アトム」の作者、手塚治虫(1928~1989)は、21世紀とはどんな世紀と考えていたのだろうか。「原子の子、アトム」というキャラクターを漫画に描いた天才だから、私のような凡人とは異なる世紀を夢見ていたに違いない。人類を苦しめる新型コ…

1901 富山平野は「野に遺賢あり」 中国古典の言葉から

「野(や)に遺賢(いけん)なし」。中国の古典「書経」(尚書)のうち「 大禹謨(だいうぼ)にある故事である。「民間に埋もれている賢人はいない。すぐれた人物が登用されて政治を行い、国家が安定しているさまをいう」(三省堂・大辞林)という意味だ。現…