小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

歴史

1899 あの閃光が忘れえようか  広島を覆う暗雲

あの閃光が忘れえようか 瞬時に街頭の三万は消え 圧しつぶされた暗闇の底で 五万の悲鳴は絶え 峠三吉の「八月六日」という詩は、こんな書き出しで、以下原爆投下後の広島の惨状を綴っています。あと1カ月余で、広島に原爆が投下されて75年になります。そ…

1898 住みにくい世こそ芸術を 沖縄戦終結から75年の日に

世界のコロナ禍は収まらず、1000万人感染(日本時間23日午前9時現在、感染者905万7555人、死者47万665人=米ジョンズ・ホプキンス大集計)という恐ろしい現実が近づいている。日本は梅雨、そして劣化という言葉を通り越したひどい政治状…

1897 五輪がもたらす栄光と挫折 アベベの太く短い人生

東京五輪がコロナ禍により2021年に延期された。さらに大会の簡素化、再延期、中止といった五輪をめぐる議論が続いている。五輪は出場する選手にも大きな影響を与える。ティム・ジューダ著、秋山勝訳『アベベ・ビキラ』(草思社文庫)を読んだ。ローマと…

1896 地図の旅、札幌へ そこはアカシアの季節

地図を見ながら想像の旅を続けている。山形を出発した旅は九州へと移り、さらに沖縄を経てヨーロッパまで行った。今回はヨーロッパから帰国し、北海道へと歩を進める。想像の旅だから、強行軍でも疲れることはない。札幌の知人のフェースブックを見ていたら…

1895 地図の旅海外へ 今年はベートーヴェン生誕250年

コロナ禍により世界各国で様々な分野の芸術活動が休止せざるを得ない状況に追い込まれた。クラシックの演奏会もキャンセルとなった。6月になった。経済活動の再開とともに3カ月ぶりにウィーン(オーストリア)でウィーンフィルによる公演が再開され、ダニ…

1894 涙の沖縄への地図の旅 ひめゆり部隊の逃避行

私の地図を見ながらの想像の旅は、今回で4回目になります。前回の九州から海を隔て、沖縄へと旅は続いています。6月。それは沖縄の人々にとって、忘れることができない鎮魂の月といえます。太平洋戦争末期の1945(昭和20)年3月26日、座間味島な…

1893 東北から九州への想像の旅 潜伏キリシタンを描いた『守教』を読みながら

私の地図を見ながらの想像の旅は続いている。今回は、東北から九州へと移る。潜伏キリシタンあるいは隠れキリシタンという言葉がある。江戸幕府が禁教令を布告し、キリスト教徒を弾圧した後も、ひそかに信仰を続けた信者のことで、2018年6月、「長崎と…

1891 アルメイダの共助の精神 「大分の育児院と牛乳の記念碑」再掲

帚木蓬生の『守教』(新潮文庫)は福岡県大刀洗町の国の重要文化財、今村天主堂が建つまでの長い背景(戦国時代から明治まで約300年間)を記した大河小説だ。この上巻に、九州で布教活動をした一人のポルトガル人が登場する。ルイス・デ・アルメイダであ…

1889 信頼性を失った新聞の衰退 インテグリティを尊重せよ

新聞の契約更新にきた販売店の人に「コロナで折り込み広告も少なくなって大変でしょう」と聞いてみた。すると「うちはそんなにありませんが、コロナの感染拡大で新聞を取るのをやめる人がかなり出ています。折り込みの減少でやめた店(販売店)もありますよ…

1886 8月9日を忘れた政府関係者 『長崎の鐘』に寄せて

2021年8月9日を東京五輪閉会翌日として「祝日」にする法案を政府が考えたそうだ。この日は長崎に原爆が投下された日である。祝日にするのはそぐわないのは自明の理ではないか。さすがに自民党議員からも「ありえない」という異論が出て、閉会式の日の…

1885 新聞離れ助長が心配 検事長と新聞記者の麻雀

新聞はかつて第4の権力といわれるほど影響力が大きかった。現在でも以前ほどではないが、新聞の力は侮れない。だが、インターネットの普及もあって若い世代の新聞離れが顕著であり、新聞業界が斜陽産業の道を歩んでいることは、誰しもが認めることだろう。…

1884 永遠ではないから尊い 薬師如来とお地蔵さんのこと

薬師如来という仏像がある。諸病を癒し寿命を延ばしてくれるという功徳があるといわれ、わが国では7世紀ごろから信仰されている。国宝である奈良・薬師寺の薬師三尊像(薬師如来、脇侍の日光菩薩・月光菩薩)はよく知られているが、私は福島県会津地方にあ…

1882 『今しかない』 短い文章で描くそれぞれの人生(1)

それぞれの人生を垣間見るような思いで、凝縮された文章を読んだ。埼玉県飯能市の介護老人保健施設・飯能ケアセンター楠苑(1997年6月2日開設、定員98名)石楠花の会発行の『今しかない』という44頁の小冊子である。頁をめくるとほとんどの文章が…

1876「人生は一行のボードレールにもしかない」か 『阿弥陀堂だより』から

コロナ禍による緊急事態宣言の期限がさらに延長されることが確定的で、外出自粛の日々が続くことになる。これまで経験したことがない状況の中で一日をどう送るか、人それぞれに工夫をしているはずだ。物理的、心理的に閉塞感に覆われた時、読書をする人も少…

1869 釈迦の生誕とミロのヴィーナス 4月8日は何の日か

灌仏(くわんぶつ)の日に生れ逢う鹿(か)の子(こ)かな 松尾芭蕉 旧暦4月8日に仏教の開祖・釈迦(ゴータマ・ブッタ、ゴータマ・シッダッタ)が生誕したという伝承に基づき、日本では毎年4月8日に釈迦誕生を祝う仏教行事・灌仏会(かんぶつえ。仏生会、浴仏…

1868 コロッセウムは何を語るのか 人影なき世界遺産

新型コロナウイルスによって、観光立国イタリアは大きな打撃を受けている。著名観光地は軒並み閉鎖され、年間400万人が訪れるといわれるローマのコロッセウム(ラテン語、コロセウムとも。イタリア語ではコロッセオ)も例外ではない。古代遺跡の閉鎖を説…

1866 科学には国境がない かみしめたいパスツールの言葉

第一次世界大戦が終結したのは1918(大正7)年11月のことだった。この年の3月初めに米国カンザス州の陸軍基地から発生したとみられるインフルエンザA型(H1N1型)は、欧州戦線に従軍した米軍兵士を通じてヨーロッパに伝わり、さらに世界的流行(パ…

1863 チャイコフスキーの魂の叫び 感染症と闘う時代に

日本は光の春なのですが、世界は不穏な時を迎えています。皆さんはどんな日々を送っているでしょうか。新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、多くの人たちは圧倒的に「不安」を抱いているといっていいかもしれません。私はチャイコフスキーの交響…

1861 自家撞着の政治家 知識を身につけていても

人間は生きよと銀河流れをり 新感覚派の俳人といわれた上野泰(1918~1973)の句である。「スケールの大きな世界。すでにほろんだ星も含む銀河が『人間は生きよ』と語りかけながら流れていきます。心に何か悩みや屈託があったとしても、この涼やかな…

1860 東日本大震災から9年 被災地訪問記再掲

きょうで東日本大震災から9年になる。9年という歳月は日本社会に様々な変化をもたらした。大震災のあと私が初めて被災地に入ったのは岩手県だった。以下に当時、別の媒体に書いた訪問記を再掲する。(政治は民主党から自民党政権に代わり、第2次安倍政権…

1859 雷電が伝えたかったこと 猛稽古に込めた闘う姿勢

凶作と飢餓、貧困に悪政が追い討ちをかけた天明・寛政年間(江戸時代)、相撲界にヒーローが現れた。古今無双の強さを誇った雷電為右衛門である。8日から始まった大相撲春場所(大阪)は無観客開催という異例の場所になった。テレビで歓声のない静寂な相撲…

1857 不条理の春がきた コロナウイルス蔓延の時代に

ドイツの文豪、ゲーテ(1749~1832)は、人が年をとることについて様々な言葉を残している。最近のコロナウイルス問題に関して、高齢者による無分別な行動のニュースを見たり読んだりしていると、自戒を込めてゲーテの言葉の意味を考えてしまう。以下はゲーテ…

1851 新型コロナウイルスにどう立ち向かう『ペスト』の人々を思う

人口が1100万人を超える中国湖北省の大都市、武漢市の公共交通機関は23日午前から全ての運行を停止した。同市で発生した新型のコロナウイルスによる罹患者は拡大を続けており、同市は事実上の閉鎖状態になった。 人類の歴史はウイルスとの闘いでもある…

1847 来年こそは平和であってほしい「生き方修業」を続ける仲代達矢さん

(来年以降も芝居を通して人々に伝え続けて行きたいことは何でしょうか、という問いに対し)「1つに絞ると、戦争と平和です」。NHKラジオの歳末番組で、87歳で現役を続ける俳優の仲代達矢さんがこんなことを話すのを、散歩をしながら聞いた。凍てつく寒さ…

1846「第九」を聴きながら 横響と友人にブラボー!

友人が所属する横浜交響楽団の定期演奏会を聴いた。《横響定期第九70回記念・横響と第九を歌う会50周年記念》と題した演奏会は、飛永悠佑輝さんが指揮し、ワーグナーの楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第一幕への前奏曲に続いて、ベートーヴ…

1844 ブッダ80年の生涯を調べ尽くす 電子書籍『蘊蓄 お釈迦さま』を読む

「般若心経の最後にある『ぎゃあてい、ぎゃあてい、はらぎゃあてい……』(日本では「ぎゃてい、ぎゃてい、はらぎゃてい」が一般的だが、このような読み方もあるという)は、どういう意味ですか」この素朴な疑問に対し、僧侶は「分からん」と言って答えてくれ…

1843 姑息な政府答弁書 反社会勢力の定義困難とは……

「姑息」(こそく)という言葉がある。辞書には「(『姑』はほんのちょっとの間、『息』はやむ、やすむの意から)一時のまにあわせに物事を行うさま。その場しのぎ」(旺文社・国語辞典)とある。これに加え、「俗に卑怯なさま」(広辞苑)、「近年『その場…

1842 地球は悲劇と不幸を満載した星 権力悪と戦った長沼節夫さん逝く

私は30歳のころ、東京の新宿署を拠点に警察を担当する「4方面クラブ」に所属していた。いわゆるサツ回り記者である。地方の支社支局を経ているとはいえ、駆け出し記者だった。ほかの社も、私と同様に地方を経験して社会部に配置された記者が多かった。そ…

1841最長寿蝙蝠(バット)消える 喫煙習慣の終りの始まり

「ゴールデンバット」と聞いて、たばこの銘柄と分かる人はかなり減っているのではないだろうか。1906(明治39)年から続いた日本一長寿の銘柄だが、ことし限りで姿を消すことになった。若いころの一時期、私もたばこを吸ったことがある。しかし、長い…

1838 事実の記録に徹する 日航ジャンボ機事故を追跡取材した記者

世の中で起きている様々な事象は「事実」と「真実」がある。手元の広辞苑には「事実」は「実際に起こった事柄」とあり、「真実」は「表現されたものの内容にうそ偽りがないこと。また、本当のこと。偽りのないものと認識された事柄。特に、物事の奥深くにひ…