小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1936 時代を反映する鉄道 京葉線30年の歩み

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 東京ディズニーランドに行くため、JR東京駅から京葉線で舞浜まで乗ったことがある人は多いはずだ。京葉線の東京~蘇我間43キロ(西船橋ルート11・3キロを含めると京葉線は54・3キロ)が全面開業したのは1990(平成2)年3月10日のことで、ことしでちょうど30年になった。当初、貨物線として計画された同線は、旅客輸送へと大きく転換し、通勤通学・観光路線としての歩みを続けている。

 私は鉄道ファンではないので、気にとめなかったのだが、開業当時の経緯を記した資料(ラジオ体操仲間の元JRマン、Nさんの原稿)を見る機会があり、京葉線が全面開業30年という節目であることを知った。  

 日本で初めて鉄道が開業したのは1872(明治5)年の新橋~横浜(現在の桜木町)間だった。三戸祐子定刻発車』(新潮文庫)によると、当時、陸軍や弾正台(後の司法省)が、鉄道建設は冗費である、鉄道を敷く資金があるなら国防費に回せといって、鉄道建設に強硬に反対し、用地測量の妨害までした。鉄道推進派の重鎮・大隈重信が「それなら海中を通れ」と言い出し、一部区間は海の上に石を組み、その上にレールを敷いて列車が走ったのだという。京葉線もかなりの部分が東京湾埋立地を走っており、日本初の鉄道との縁を感じる。  

 以前、ペルーのマチュピチュへ旅した際、同行者に2人の熱狂的鉄道ファンがいた。古都クスコから少し離れたウルバンバという町のホテルに泊まり、翌朝早くオリャンタイタンボという駅からインカレールの列車に乗り、マチュピチュに向かった。2人は列車に乗ると、1時間の乗車時間中、車両の中を歩き回り、盛んに中と外の写真を撮っていた。裁判官出身の大学の法律の先生と京王電鉄の女性の運転士さんで、2人ともこの列車に乗るのが楽しくて仕方がないという顔をしていたことを思い出す。  

 では、京葉線には鉄道ファンを喜ばせるだけの魅力があるのだろうか。沿線には葛西臨海公園葛西臨海公園駅=東京都江東区)、東京ディズニーランドとホテル群(舞浜駅=千葉県浦安市)、幕張メッセプロ野球ロッテの本拠地千葉マリンスタジアム=ゾゾマリンスタジアム、ビジネス用高層ビル群、ホテル群(海浜幕張駅千葉市)、稲毛ヨットハーバー(稲毛海岸駅千葉市)、千葉ポートタワーサッカー場フクダ電子アリーナ、(千葉みなと駅千葉市)といった施設があり、観光客、ビジネス客、イベント参加者、スポーツ観戦などでの利用者も多い。しかし何といっても、埋立地に大型の住宅団地が造成されたため、通勤・通学での利用者が一番多いようだ。車窓から見える沿岸部の風景も季節ごとに変化があり、冬には東京湾越しに雪を抱いた富士山がひときわ美しい。  

 Nさんの資料には「京葉線は明暗2つの面を持っている」と記されている。前述のような施設を持ち、都心に直結する大動脈としての役割があり、蘇我から外房線の上総一ノ宮、内房線の君津まで一部は運転され、利便性が年々高くなっている。その一方、同線は鉄道建設公団(現在の独立行政法人鉄道建設運輸施設整備支援機構)が建設した路線で、JRは同機構に借損料として年間400億円を元利均等払いで40年間払い続ける契約をしている。大きな負担であることは間違いない。ただ百円を稼ぐのに生じたコストを示す営業係数(100以下なら黒字。JRは未公表)は100以下(鉄道ジャーナリストの試算)とみられ、大型ショッピング施設がある新習志野~幕張海岸間は2023年開業(2022年度内開業も)に向け幕張新駅の建設工事が進んでいる。無機質な埋立地が広がっていた沿線を変えたのは、京葉線開業の効果だったといっていいかもしれない。  

 私も京葉線を利用者の一人である。東京駅は地下2階にあり、新幹線や山手線などのホームが遠く乗り換えに不便で、海沿いを高架で走る区間が多いため風の影響を受けやすいことも弱点だ。強風によって電車が立ち往生し、出勤や帰宅の際、大きな影響を受けたことも数多い。風による事故を起こさないという安全対策は、この路線の永遠の課題であるのは言うまでもない。  

 鉄道の歴史は時代を反映している。車社会の発達や地方の人口減少によって、利用者が少なくなり廃線への運命を歩んだ路線は珍しくない。その半面、東京一極集中によって東京へ向かう首都圏の路線は、年々輸送力増強を図ってきた。ことしはコロナ禍が鉄道経営に暗い影を落とした。緊急事態宣言で鉄道利用者が急減し、京葉線も例外ではなかった。ディズニーランドの休園に伴って、東京駅の動く歩道が一時閑散としていた光景も記憶に新しい。  

 来年、コロナ禍で1年延期になった東京五輪パラリンピックは開催されるだろうか。京葉線海浜幕張駅が最寄り駅である幕張メッセも、五輪・パラリンピックの一部競技の会場になっている。開催されれば間違いなく京葉線もかなりの賑わい、混雑になるだろう。それは京葉線の歴史に記されるイベントになる。だが、開催はコロナ禍が収束に向かうかどうか次第であり、ワクチン開発の見通しもはっきりしないから、神のみぞ知ることなのだ。「千葉県の開発と仕上げの象徴」といわれた京葉線。その未来図は……。30年先はどのような姿になっているのか。

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