小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1948 世界が疫癘に病みたり デフォーが伝えるペスト・パニック

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 ロンドンが疫癘(えきれい)に病みたり、

 時に1665年、

 鬼籍に入る者(注・死者のこと)の数(かず)10万、

 されど、われ生きながらえてあり。

                H.F.

 ダニエル・デフォー著/平井正穂訳『ペスト』(中公文庫)は、この短い詩で終わっている。

「疫癘」は、悪性の流行病・疫病のことをいい、ここでは黒死病ともいわれ、かつて世界で猛威を振るったペストのことを指している。『ロビンソン・クルーソー』で知られるデフォー(1660年~1731)のこの作品は、実際にペストが大流行した1665年のロンドンを舞台に、パニックに陥ったロンドン市民の姿を描いたもので、1722年に出版された。フィクション、ノンフィクションどちらにも読むことができる作品だ。結びに使われた詩は、コロナ禍の現代に生きる世界の人々の姿と置き換えることができる。

  世界で最も感染者が多いアメリカ。ジョンズホプキンズ大学の集計では、11日午後7時現在、127万3055人が感染し、23万9683人が死亡している(世界の感染者は5151万0231人、死者は127万3055人)。選挙で敗北したのに、それを認めようとしない駄々っ子トランプ氏。彼がデフォー流に今の心境をいえば、以下のようになるのか……。

 

 アメリカが疫癘に病みたりとバイデン、

 時に2020年、

 鬼籍に入る者の数23万はフェイクか、

 されど、われ生きながらえてあり。

 

「疫癘」は古語辞典によると、「大鏡」(平安時代後期の歴史物語)にも出てくる言葉だ。32の「内大臣道隆」の冒頭部分に「この大臣は、これ、東三条の大臣の御一男なり。御母は、女院の御同じ腹なり。関白になり栄えさせ給ひて六年ばかりや御座しけむ、大疫癘の年こそ失せ給ひけれ。されど、その御病にてはあらで、御酒のみだれさせ給ひにしなり」とある。道隆は平安中期の関白、藤原兼家の長男で、父の跡を継いで関白になる。しかし、大鏡にあるように就任して6年ばかりで死んでしまう。死因は、当時流行して多数の貴族の命を奪った疫病ではなく、酒の飲み過ぎだったという。

  疫病には感染しなかった道隆。だが、別の病に倒れ、大酒飲みの関白として歴史に名を残した。コロナに感染して回復、コロナを軽視し対策を怠り、大統領選の敗北を認めようとしないトランプ氏も、アメリカの歴史に記されることは間違いない。史上?の大統領としてか。(?の部分は、何が適当かでしょうか)

  写真 自然界はこの写真のように、人間が右往左往しているのとは別に静かに季節の移ろいを送っている。

 

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