小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1941 過ちに気づき始めた世界の人々 核兵器禁止条約発効へ

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 核兵器を全面禁止する核兵器禁止条約を批准した国・地域が発効に必要な50に達した。中米ホンジュラスが新たに批准したことで、90日後の来年1月22日に発効することになった。それでも岸防衛相は「核の保有国が加われないような条約で、有効性に疑問を感じざるをえない。日本は唯一の被爆国であり、核兵器の廃絶に向け、リーダーシップを取らなければならない」と、世迷言ともいえる感想を述べた。これを聞いて、私は先日政界から引退を表明したウルグアイの元大統領、ホセ・ムヒカ氏(85)の「私たちは過去の過ちから学んだだろうか」という言葉を思い浮かべ、虚しさを覚えた。

 ここで書くまでもなく、ムヒカ氏は清貧さで知られ、在任中(2010年3月1日~2015年2月末)は「世界で一番貧しい大統領」といわれた。2016年4月10日、広島を訪問し、原爆資料館で「倫理がない科学は、考えられないような悪の道具になる。歴史は、人間が同じ石でつまずく唯一の動物と教えている。私たちはそれを学んだだろうか」と記帳した。  

 言い換えれば「人類は過去の過ちから何も学んでいない」と、人類が無差別大量破壊兵器を、同じ人類に使ったことを痛烈に批判したのだ。その意味で唯一の被爆国日本は、過ちを正すべく国際社会で重要な立場にあるはずだ。だが、現在の政権・外務省幹部は口先では「リーダーシップを取らなければならない」と言いながら、核兵器廃絶に向け国際社会で何をやったのか、実績を聞いたことがない。米国政権を気遣うあまりの政策。世界の人々は、日本は今も米国の属国と見るだろう。  

 AP通信の報道によると、条約をめぐって反対の立場をとる米国は、既に批准した複数の国に対し、批准を取り下げるよう圧力とも受け取られる書簡を送っていたことが明らかになった。書簡で米国は、「核保有国と北大西洋条約機構NATO)の加盟国、条約について反対の立場で一致している。条約は核兵器の検証と軍縮についての時計の針を戻すもので、核不拡散条約(NPT)を脅かす」と主張しているという。これに対し条約の採択に貢献した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)=2017年にノーベル平和賞を受賞=はツイッターで「トランプ政権による前代未聞かつ投げやりな試みだ。いじめや圧力にかかわらず、世界中で条約への賛同が広がっている」と記した。この指摘は正しい。    

 この条約は、核兵器を「非人道兵器」とする国際規範であり、このような無差別に人を含む生物を殺し、消し去ってしまう核がない地球を目指すものだ。その日が来るのはいつになるのかは分からない。初めて核が使われてから75年。世界の多くの人々が過去の過ちに気づき始めたと思いたい。  

 ホンジュラスという国のことはほとんど知らない。地図で見ると、グアテマラエルサルバドルニカラグアと国境を接する小国だ。この国を訪れた日本人は少ないかもしれない。中南米パナマで生活した知人は亡くなってしまったから、この地域のことを聞くことはかなわない。私は南米に行く途中、米国のロサンゼルスで一泊した後、エルサルバドルの首都サンサルバドルで乗り換え時間を過ごし、少しだけ中米の空気を吸った。中米のホンジュラスが50番目の批准国になったことは、心ある多くの日本人の記憶に刻まれるに違いない。  

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