小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1930 教養ある人間の条件 チェーホフの手紙から

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 ロシアの文豪、アントン・チェーホフは多くの手紙を書いたことで知られる。中でも実の兄あての教養に関する手紙は辛辣で、面白い。27歳だったチェーホフは、少しだけ年上の兄を「天才」と持ち上げたあと、1つだけ欠点があると書く。それは「無教養」だと指摘し、教養ある人間の条件として8項目を挙げる。その中で私が気に入ったのは4の「うそをつかない」ことだ。あなたはどうですか。

  以下に、その8項目を要約する。

  1、 彼らは人格を尊重する。いつも寛容で、柔和で、慇懃で、謙譲である。

 2、 彼らは乞食や猫に対して同情を持つだけでなく、普通の目に見えないもののためにも心を痛める。

 3、 彼らは他人の所有権を尊重する。だから借金を払う。

 4、 彼らは正直で、火のようにうそを恐れる。(うそは聞き手を侮辱するばかりでなく、語り手をいやしくする)

 5、 彼らは、他人の心に同情を呼び起こすために自分を卑下することをしない。

 6、 彼らは空騒ぎをしない。(本当の天才は、いつも人目に遠く、暗闇の中、群衆の中に隠れている)

 7、 彼らは自分に才能があれば、それを尊重する。(人々に対して教育的な影響を与えることを自覚している。だが、彼らは気難しい)

 8、 彼らは自分の中に美しい感情を養おうとする。(彼らは折にふれて酒を飲むに過ぎない。彼らは健全な精神に宿る健全な体を求めるからだ)

 「うそ」という言葉を聞くと、どうしても政治の世界を考えてしまう。「うそも方便」(物事をうまく運ぶためにうそが必要なこともある、という意味)とはいう。だが、「白を黒」(屁理屈をいうこと)と言い張る政治が内外で大手を振るっているように思えてならない。日本の政治? ここで書くまでもない。新しい菅内閣は人気が高い。だが、国会が始まってみないと全く分からない。せめても、うその答弁をしない内閣であってほしいと思う。

  チェーホフは兄への手紙の最後に、かつてのロシアで有名だった遊園地「ヤキマンカ」に行くよりも教養を身に着けることの大事さを強調し、「必要なのは間断のない昼夜の努力、たゆむことのない読書、研究・意志等です。毎時毎時が貴重です」と記している。私はこのうちどれだけをやってきたか、これからどれだけできるか分からない。でも、やってみる価値はあるかもしれない。しかし、もう遅いか……。(参考文献、新潮社『世界名作選2』)