小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

国際

1510 マラソン選手の命がけの抗議 スポーツの政治利用とは

リオ五輪の男子マラソンで銀メダルを獲得したエチオピアのフェイサ・リレサ選手(26)が額の前で両手を交差させるポーズでゴールインし、圧政を続けるエチオピア政府への抗議だと表明した。帰国すれば殺さるかもしれないという「命がけ」の抗議だった。 リ…

1507 銀メダリストのフェアプレー精神 最後で内村に逆転されたが……

このところオリンピックからフェアプレー精神は失われ、勝つことが最優先になっている印象が強い。だが、開催中のブラジル・リオ五輪でフェアプレー精神が健在であることを知り、心が和んだ。 それは日本時間11日早朝(現地時間10日夕)に行われたリオ五…

1506 野球界の光と影 イチローの3000本とAロッドの引退

8日(現地時間7日)大リーグ、マーリンズのイチローが3000本安打を達成した。一方、3000本安打を打っているヤンキースのアレックス・ロドリゲスが引退を表明した。2人は対照的な打者だった。 「細くて小さなプレーヤーが、巧みなバットコントロー…

1503 ロッキード事件40年 様変わりした検察

NHKTVでロッキード事件特集が放送された。のちに検事総長となる吉永祐介氏が東京地検特捜部副部長・主任検事として様々な困難を乗り切って田中角栄元首相の逮捕にこぎつけるが、もう一つの捜査ターゲット、自衛隊のP3C導入をめぐる疑惑は解明されな…

1498 危険度増す国際支援活動 不公正・不平等社会とテロ

バングラデシュの首都ダッカで起きたIS関連グループによるレストランでの外国人を狙った7月1日のテロから8日が過ぎようとしている。日本人7人を含む多くの外国人や警察官が犠牲になった。犯行グループ7人は全員がバングラデシュの若者だった。日本人…

1497 五輪哀歌 アナクロとグローバル化と

ブラジルのリオ五輪が近づいているせいか、昨今の新聞には五輪関連のニュースが少なくない。朝刊には「国歌歌えぬ選手 日本代表ではない」という見出しの記事があり、夕刊には男子ゴルフの松山選手が「リオ五輪辞退」というニュースが載っていた。これらの記…

1492 コルビュジエの思想 世界遺産になる西洋美術館

建築家、安藤忠雄氏の愛犬の名前は「ル・コルビュジエ」というそうだ。どこかで聞いた名前だ。そう、フランスの20世紀を代表する同名の建築家(1887年10月6日―1965年8月27日)である。上野の国立西洋美術館を含め、彼が設計した建物が世界文…

1485 オバマ大統領の広島訪問の意味 非道さを伝えたAPの第一報

「人類が開発した最も恐ろしい兵器――原子の分裂という宇宙の根源的な力によって徹底的な破壊をもたらす原子爆弾――が今日、その凄まじさで日本を驚愕させ、そしてそれがもたらす戦争と平和への潜在的可能性を示し、世界の他の地域をも驚愕させた」 これは、広…

1481 この世は勧善懲悪ではない ゴンクール賞 『天国でまた会おう』

ピエール・ルメートル著『天国でまた会おう』(ハヤカワ文庫、上下)は『第一次世界大戦(1914~1918)で、上官によって瀕死の状況に追い込まれながら生き延びたフランスの元兵士2人が戦後、どのように生きたを描いている。 2人は壮大な詐欺事件と…

1467 ユネスコ憲章の精神とかけ離れた世界の実態 ガルシンの嘆きはいまも

オバマ米国大統領が5月のG7伊勢志摩サミット参加時に、広島を訪問することを検討しているというニュースが流れた。訪問が実現すれば、現職の米国大統領としてはもちろん初めてである。 オバマ大統領は2009年チェコ・プラハで「核兵器なき世界」を訴え…

1464 ISとトランプ現象は格差社会への警鐘 4月1日に考える

4月1日はエイプリルフール(4月ばか)。嘘をついてもいいという風習の日だ。だが、現実の世界を見ていると、そんな心境にはなれない。21世紀はテロの世紀になってしまうのかと思わせるほど、ISによる無残で残酷なテロが相次いでいるからだ。そして、…

1463 旅で感じるもの ミャンマーはアジアの楽園になれるのか

放浪の旅に明け暮れた自由律の俳人、種田山頭火は、「道は前にある、まっすぐに行かう(行こう)」が信念だった。そして、「句を磨くことは人を磨くことであり、人のかがやきは句のかがやきとなる。人を離れて道はなく、道を離れて人はない」(『山頭火句集…

1462 白鵬のアイデンティティーは 大阪のファンのブーイングに思う

「アイデンティティー」と言う言葉が一般的に使われている。日本語でいえば、やや難しいが、共同体への帰属意識ということだろう。大相撲春場所で優勝し、インタビューで涙を見せた白鵬の姿を見てこの言葉を思い浮かべた。優勝を決める日馬富士との対戦で、…

1461 ウクライナ危機の本質とは 『プーチンとG8の終焉』

ロシアによるクリミアの併合、混迷するウクライナ危機はかつての米ソ冷戦時代の再来かといわれた。クリミア併合をきっかけに欧米を中心とする国々がロシアに経済制裁を加え、これまでのG8という枠組みからロシアを除外する動きが続いた。こうした国際社会…

1459「ラオスにいったい何が」 特別な光と風を感じる人々

村上春樹の「大いなるメコン川の畔で」(文藝春秋社刊『ラオスにいったい何があるというんですか』所蔵)というエッセーは、ラオスの世界遺産の街、ルアンプラバンの旅の記録である。 この街へ入るときに通過したベトナム・ハノイでベトナム人に「どうしてま…

1455 「ミモザの日」支える300人の公国 グリーグの贈る言葉

春を告げる花といわれるミモザの花が満開だ。きょう3月8日は「国際女性デー」である。イタリアでは「女性の日」あるいは「ミモザの日」と呼ばれている。男性から女性にミモザを贈る行事があり、この日ローマの街は黄色い花であふれるという。 この花を生産…

1438 人生の選択 グローバル化時代の望郷とは

望郷とは、「故郷をしたいのぞむこと。故郷に思いをはせること」(広辞苑)という意味だ。世はグローバル化時代。飛行機をはじめとする交通機関やインターネットという情報手段の発達によって、世界は狭くなった。だから、望郷という言葉はあまり使われなく…

1432 「物理学者は罪を知った」……  原爆の父の悔恨

新年早々、北朝鮮の核実験(北朝鮮は水爆実験成功と発表)という物騒なニュースが流れた。このニュースを聞いてアメリカの核開発を担ったマンハッタン計画を主導し、原爆の父といわれた物理学者、ロバート・オッペンハイマー(1904―1967)の「物理学者は罪を…

1421 マルタと沖縄と ミニ国家が歩む道

最近マルタ島を旅した知人がいる。人口42万人、国土面積は東京23区の半分に当たる316平方キロという小さな島国(マルタ島やゴゾ島、コミノ島からなるイギリス連邦のマルタ共和国)である。 地図で見ると、長靴のような形をしたイタリアのつま先の位置…

1409 自然界の驚異を知る大村さんの受賞 受け継がれるヒポクラテスの精神

山形の知人から、きのこの季節を知らせる便りが届いた。写真を見ると、里山のこの秋は大豊作のようだ。きのこには人間が食べることができるものと、食べると最悪命を失う毒を持ったものがある。長い歴史を経てその見分けができるようになったのだから、人間…

1406 勝つためには何でも 昨今相撲雑感

白鵬が休場した大相撲は、やはり気の抜けたビールだった。一人横綱の鶴竜は早々に2敗し、11日目まで全勝だった大関照の富士は、12日目から3連敗し、しかも右膝まで痛めてしまった。日本人力士と言えば、幕内下位で好成績だった勢が上との対戦では負け…

1401 白鵬の休場に思う 異文化の中で輝く存在

大相撲で優勝35回という前人未到の記録を打ち立てた横綱白鵬が、秋場所初日から2連敗し、3日目から休場した。2007年夏場所後に横綱に昇進して8年、初めての休場だ。横綱と言えば休場が付き物のようで、白鵬以外の横綱は休場するのが珍しくはない。 …

1401 白鵬の休場に思う 異文化の中で輝く存在

大相撲で優勝35回という前人未到の記録を打ち立てた横綱白鵬が、秋場所初日から2連敗し、3日目から休場した。2007年夏場所後に横綱に昇進して8年、初めての休場だ。横綱と言えば休場が付き物のようで、白鵬以外の横綱は休場するのが珍しくはない。…

1397 地球の裏側にやってきたペルーの宗教画 藤田嗣治が持ち帰ったクスコ派の作品

日本画の技法を油彩画に取り入れ、エコール・ド・パリの画家として知られている藤田嗣治は1931年南米旅行をした際、ペルーのクスコを訪れている。標高3400メートルの高地にあるクスコはかつてのインカ帝国の首都で、インカ文明の中心地だった。ここ…

1390 戦後史に残る町 ドイツ・ポツダムのこと

戦後70年の歴史を考えるとき、以前訪れたことがある一つの町のことが頭の中に浮かんでくる。ドイツのポツダムである。米国大統領(トルーマン)、英国首相(チャーチル)、中華民国主席(蒋介石)の名前で日本に対し無条件降伏を求める「ポツダム宣言」はこ…

1386 曲がり角の商業五輪 記録的猛暑の中で考える

猛暑が続いている。東京では7月31日からきょう5日まで6日連続して気温が35度を超える猛暑日となり、気象庁が統計を取り始めてからの記録を更新した。外を歩くと、暑さのあまり身体がふらつく。熱中症患者が続出していて、全国的に救急車がフル稼働状…

1379 トマス・モアと安保法制  政治家の理性とは

『ユートピア』の著者、トマス・モア(1478~1535)は中世イングランドの法律家・思想家だ。 イギリス史上、最高のインテリで暴君といわれたヘンリー8世(カトリック信者でありながら6回結婚を繰り返した)の離婚に反対したとして反逆罪に問われ、ロン…

1377 光の画家フェルメールと帰属作品  西洋美術館の『聖プラクセディス』

東京・上野の国立西洋美術館の常設展に「フェルメールに帰属」という作品がことし3月から展示されている。『聖プラクセディス』という、オランダの画家ヨハネス・フェルメール(1632-75)が若き日、イタリアの画家、フェリーチェ・フィルケレッリ(1605-60…

1376 病んでいる日本社会 報道の自由度ランキングは61位

安倍首相の応援団である自民党若手議員の勉強会で、講師として招いた作家の百田尚樹氏とともに衆院議員が沖縄県民世論を批判、「広告を出さないように経団連に働きかけろ、2つの新聞はつぶすべきだ」などと沖縄の2紙(沖縄タイムス、琉球新報)を威圧する…

1375 「マドレーヌに紅茶」と「羊羹にお茶」 『失われた時を求めて 全一冊』

「プル―スト効果」という現象がある。フランスの作家、マルセル・プルースト(1871-1922)の長編小説『失われた時を求めて』で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸したとき、その香りをきっかけとして幼いころの記憶が鮮やかに蘇るという描写から名付けられた、…