国際
米国の第33代大統領、ハリー・トルーマン(1884-1972)は、前職のフランクリン・ルーズベルトの急死によって1945年4月12日、副大統領から昇格したため、「偶然による大統領」とも呼ばれた。この年の8月、米軍が広島、長崎への原爆投下という、人類…
2017年のノーベル文学賞は、予想外の日系英国人作家カズオ・イシグロだった。このところ毎年のように日本のメディアで受賞するかどうかで話題になる村上春樹は今回も受賞はかなわなかった。なぜだろう。ノーベル賞取材にかかわった共同通信社ロンドン支局の…
「知(知識)は力なり」という考え方を広めたのはイングランドの哲学者、フランシス・ベーコン(1561-1626)だった。これに対し2世紀後、ドイツの哲学者ショーペン・ハウエル(1788 - 1860)は「『知は力なり』。とんでもない。きわめて多くの知識を身につけて…
ジェフリー・アーチャーはイギリスの政治家で作家である。彼のライフワークともいえる『クリフトン年代記』は、第7部「永遠に残るは」(新潮文庫、戸田裕之訳)で完結した。1920年に労働者の家に生まれたハリー・クリフトンの生涯を描いた大河小説で、…
「自分の目、耳、肌、心でつかまえたものを、借りものではない自分の言葉でわかりやすく人に伝えること」。6日に老衰のため87歳で亡くなった元朝日新聞天声人語担当のジャーナリスト、辰野和男さんの著書『文章のみがき方』(岩波新書)の中に、先輩記者…
大相撲の横綱日馬富士が、酒の席で同じモンゴル出身の幕内力士貴ノ岩に暴力を振るったことが角界を揺るがす大問題になっている。日馬富士の引退という事態に発展するという指摘もある。酒は百薬の長という半面、人の心を狂わす力もある。このニュースを見な…
けがのため、入院している。その病床で数日前、夢を見た。イギリス国籍の日系作家、カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞したというのだ。それは正夢だった。このところ毎年のように、ノーベル賞の時期になると、村上春樹が文学賞をもらうのではないかと…
スペインの大都市、バルセロナの中心部で通行人の中にワゴン車が突っ込むというテロがあり、これまでに13人が死亡、100人以上が負傷した。イスラム過激派による犯行とみられている。この街のメーンストリート、ランブラス通りでの惨事である。かつて私…
「長い物には巻かれよ」という言葉は「目上の人や勢力のある人には争うより従っている方が得である」(広辞苑)という意味だ。官僚の世界で、この言葉を守った人と守らなかった人の2つの例が日本と韓国で最近話題になった。どちらが多くの人に受け入れられ…
ヨーロッパの国々の関係は複雑だ。ヨーロッパをまとめていたEUは、イギリスの離脱決定によって今後の雲行きが怪しいし、シリアなどから押し寄せる難民問題は解決が困難だ。ジョージ・フリードマンの『ヨーロッパ炎上 新・100年予測』(ハヤカワ文庫)は…
つい先日、米オレゴン州立大学で「YInMnブルー」という鮮やかな新しい青色を発見した、というニュースが流れた。テロが相次ぐ時代、平和の象徴ともいわれる青い色に、新しい色が加わったことは喜ばしいことだと思う。 報道によると、新しい青色はオレゴ…
「こんにちは。私はジョン・ドウ(匿名太郎)。データに興味はあるか?」ドイツ・ミュンヘンの南ドイツ新聞の記者に、インターネットを通じて飛び込んできたこの一文が、タックスヘイブン(租税回避地)による世界各国の首脳や富裕層による資産隠し、課税逃…
冬の寒い一日、皆は、天気の悪いことをこぼしていた。一人が言った。 「満足することを知らんもんもおる。そんな輩は、いつも不平ばかり言うんじゃ。冬になれば、ああなんて寒いんだと言う。夏になれば、なんて暑いんだとくる」 「そのとおりじゃ」とホジャ…
北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏がマレーシア・クアラルンプール空港で暗殺された事件が国際的波紋を呼んでいる。北朝鮮による多国籍の人間を使った請負殺人との見方も出ている。国際空港を舞台にした事件は、全体主義国家の恐怖を描い…
「人間相互の“異質さ”を認めあい、尊重しあうための手掛かりとして読んでいただければと思う」。翻訳者、深町眞理子は、『アンネの日記 増補新訂版』(文春文庫)のあとがきで、こんなことを書いている。イスラム圏7か国出身者の入国禁止令を出して物議をか…
旧日本海軍が真珠湾(ハワイ・ホノルル)の奇襲攻撃に踏み切ったのは1941(昭和16)年12月8日未明(日本時間)で、時差が19時間あるから現地時間は7日(日曜日)朝のことだった。米国ホノルル海軍基地から米海軍省に届いた電報は「Air Raid Pear…
「この世のことはどんな些細なことでも予断を許さない。人生のどんな小さなことも、予想できない多くの部分から組み合わされている」。オーストリアの詩人、ライナー・マリア・リルケ(1875~1926)は唯一の長編小説『マルテの手記』の中で、こんな…
知人がカンボジアのプノンペンで、一人のガイドに出会った。送られてきた知人の旅行記は、ガイドのことを「氏」という敬称をつけて表現していた。それはなぜなのだろう。読み進めるうちにその理由が分かった。ガイドは私設の学校をつくり、子どもたちに勉強…
人間は欲望を求める動物である。「食欲、睡眠欲、性欲」が3大欲望といわれるそうだが、このほかにも物欲、金銭欲、名誉欲と欲望は果てしない。だが、その欲望を満たすことできない存在も少なくない。曹乃謙著(杉本万里子訳)『闇夜におまえを思ってもどう…
《「キューバ危機」の時、ディランは、ソ連からの攻撃を想定した小学生の頃の訓練を思い出していたのかもしれない。》 今年のノーベル文学賞に米国のシンガーソングライター、ボブ・ディランが選ばれた。冒頭の文章は、高橋郁男著『詩のオデュッセイア』(コ…
今回の旅で最初に行ったのは、旅順だった。正確には大連市旅順口区という。日露戦争の舞台でもあり、その後多くの日本人が住んだ。八木さんも生まれたこの街は近年まで対外開放されることなく、神秘の地ともいわれたそうだ。 「官民の手によって、今日まで丁…
特に途上国に行って車の運転をしようとする人は自分の腕に自信があるか、必要に迫られて仕方なく、という場合が多いのではないかと思う。例えば、私は東南アジアのタイやベトナムで「運転を」と言われても、辞退する。車の洪水の中で立ち往生してしまうのが…
以前、中国を訪れた際、社会主義の国なのだからサービスは不要だというような、店員の態度に腹を立てたことがあった。物を買うと、お釣りを投げ「ありがとう」も言わない。これが中国とあきらめた時期もあった。だが、いまやそうした態度をとる店員はほとん…
いま、日本と中国の関係は「非常に」という形容詞がつくほどギクシャクしている。政冷経熱といわれて久しい。今回の旅で2組の若い世代の夫妻にお世話になった。この人たちは日本通で、八木さんの家族のような存在だ。互いに日本と中国を行き来する知人と若…
中国の旅に、私は何冊かの本を持って行った。その中に清岡卓行著『アカシヤの大連』も入っている。大連で生まれ育った清岡の自伝的小説ともいえる作品で、アカシアが香る美しい街としての大連が描かれている。32年前、初めてこの街に足を延ばしたときには…
八木さんは旅順で生まれ、この町で1年間だけ小学校に通っている。その小学校を探して歩いていると「旧八一零歴育退休職工活動室」と書かれた平屋の建物が目に入った。文字を読むと、定年退職者専用の建物のようだ。中国にはこのような、定年退職者が集まっ…
海外、特にヨーロッパなどを旅していると、あなた(あるいは君)は中国人かと聞かれた経験を持つ日本人は少なくないはずだ。欧米人から見たら、日本人と中国人、あるいは韓国人の見分けはつかないのかもしれない。私たち日本人は中国人や韓国人はほぼ見分け…
モンゴルの人々はハダクという青い絹の布を大事にする。それは中国・内モンゴルでも同様だ。内モンゴルの工業都市、包頭から車で2時間半かけて希拉穆仁(シラムレン)(モンゴル語で黄色い川の意味)という名の草原に行った。内モンゴルなのだからモンゴル族…
82歳になる知人がいる。八木功さんだ。生まれてから45年間を中国で暮らし、その後日本に移り、いまも蒲田の中華料理店「ニイハオ」を経営しながら現役の料理人として働き続けている。9月下旬、中国でこの人がどんなところに住み、どんな生活をしていた…
朝も秋ゆうべも秋の暑さかな 「もう秋のはずなのに、朝も夕方も暑くてたまらない」という意味の句だ。8月が終わり、9月になったが、残暑は厳しい。だが、空を見上げると、秋の気配が伝わってくるように、薄い雲が流れている。間もなく子規のへちま忌(9月…