小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1507 銀メダリストのフェアプレー精神 最後で内村に逆転されたが……

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 このところオリンピックからフェアプレー精神は失われ、勝つことが最優先になっている印象が強い。だが、開催中のブラジル・リオ五輪でフェアプレー精神が健在であることを知り、心が和んだ。

 それは日本時間11日早朝(現地時間10日夕)に行われたリオ五輪の体操男子個人総合で内村航平(27)が、トップに立っていたウクライナのオレグ・ベルニャエフ(22)を最後の演技種目・鉄棒で逆転し、ロンドン大会に続いて2連覇を飾った試合後の話である。

 5種目を終わって、ベルニャエフと内村の差は0・901点あった。それまでのベルニャエフの演技を見ていると、内村とはいえ最後の鉄棒でこの差を逆転するのはかなり難しいと思われた。だが、内村の演技は完璧に近く、一方のベルニャエフは演技の内容も内村より劣り、着地も乱れた。それが大逆転(鉄棒の点数は内村が15・800、ベルニャエフが14・800。総得点で0・0099の点差)につながったと報道されている。

 内村自身も「個人総合で今回ほど負けるんじゃないか、と思った試合はなかった」と語ったというから、まさに「大逆転」だった。そんな経過もあって試合後の記者会見で内村に対し、外国人記者から「審判はあなたに親しみを感じているから、高い点数が出たのではないか」という質問が出たという。

 内村は「そんなことは思ってない。みんな公平にジャッジをしてもらっている」と答えたが、隣のベルニャエフは聞かれていないのに「審判も個人のフィーリングは持っているだろうが、スコアに対してはフェアで神聖なもの。航平さんはキャリアの中でいつも高い得点をとっている。それは無駄な質問だ」と怒るように話したというのである。

 さらにベルニャエフは「航平さんを一生懸命追っているが簡単じゃない。この伝説の人間と一緒に競い合えていることが嬉しい。世界で1番クールな人間だよ」と内村を称え、銅メダルを獲得した英国のマックス・ウィットロックも「彼は皆のお手本。最後の鉄棒は言葉がない。クレイジーとしかいえない」と述べたという。

 記者の質問は、内村の強さに対する妬みあるいは嫌味のようなものが含まれていたようで、ベルニャエフが言うように、まさに無駄な質問だったといえる。一方で負けた悔しさを抑えて、内村を称えたベルニャエフにフェアプレー精神を感じたのは私だけではないはずだ。激闘を制した内村はひときわ輝いて見えたが、厳しい練習環境の中で最後の最後まで内村を脅かしたベルニャエフの健闘も、この大会の歴史を飾ることになるだろう。

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