小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1498 危険度増す国際支援活動 不公正・不平等社会とテロ

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 バングラデシュの首都ダッカで起きたIS関連グループによるレストランでの外国人を狙った7月1日のテロから8日が過ぎようとしている。日本人7人を含む多くの外国人や警察官が犠牲になった。犯行グループ7人は全員がバングラデシュの若者だった。日本人被害者は英語で「私は日本人だ」と話したが、標的から外れることはなかった。

 イスラム過激派から見れば日本人も「敵」であることが、今回の事件で追認された。 日本人7人は国際支援のために活動していた人たちだ。痛ましい限りである。国際支援活動は地域によっては危険と隣り合わせといわれる。今回の事件はその危険度が大幅に増していることを示したといえる。

 安倍首相は2015年1月、中東を訪問してISと戦う周辺諸国のために2億ドルを拠出すると表明した。それがISによる日本人人質殺害(湯川遥菜さんと後藤健二さんの2人)の引き金になった疑いが濃厚であり、今回の事件にも影響が及んだことは間違いないだろう。

 今回の事件直後、安倍首相は「残虐非道なテロによって何の罪のない多くの方々の命が奪われました。強い憤りを覚えます。私たち国際社会が共有している普遍的価値に対する挑戦であり断固抗議をいたします。(中略)今後も内外の日本人の安全確保のために全力を尽くしていく考えであります」と話したと、ニュースに出ていた。

 どんな安全対策をするのだろう。外務省のHPで注意喚起するだけでは、十分な対策とはいえない。 イスラム研究者・小杉泰(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授)の『イスラーム帝国のジハード』(講談社、興亡の世界史06)を読み返した。イスラム教の起源からジハードの背景を描いた作品である。

 現在、世界ではISをはじめとするイスラム過激派によるテロが相次ぎ、「テロと反テロ」の様相を呈している。これについて小杉は「『テロと反テロ』の時代は、人類を幸福にしない。テロ行動がジハードの名の下に行われているならば、それはなくなる必要がある。しかし、『反テロ』の名の下に暴力的な戦争が行われるならば、それもテロと同じように、暴力の連鎖をもたらすものであろう」と述べている。

 小杉によれば「ジハード」はもともと公正な社会を建設するための奮闘努力を指し、ジハードが聖典に明示されている限り、教義からジハードがなくなることはない―と考えられるという。 小杉は急進派が活動する大きな理由の一つに「不正の存在」を挙げ、以下のように書いている。

「深刻な貧困の存在、拡大し続ける貧富の差、社会的・経済的な不公平、イスラーム的な公正を無視した統治などは、弱者や困窮者たち、抑圧された人々を悲惨な運命に置く。悲惨な状況が、侵略や占領に起因する場合も同じだろう。イスラームに関わりなく、現在の世界に大きな不公平、不平等が満ちていることは、あらためて述べるまでもない。闘争を主張する急進派や過激派は、そこから支持を引き出してくる」

 日本社会をみても不公正、不平等があふれている。20数年前、松本サリン事件や地下鉄サリン事件など、多くの凶悪事件を起こしたオウム真理教には高学歴な信者が少なくなかった。今回のダッカ襲撃事件の犯人も同様に高学歴と伝えられている。不公正、不平等の社会が続けば、思いつめた若者によるテロという危険な芽が育つ可能性があることを忘れてはならない。

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 写真 パリ・ルーブル美術館広場とエッフェル塔。パリでも2015年11月、同時多発テロが起き、130人の死者が出ている。あれからまだ7カ月しか経ていないが、世界ではテロによって多くの人命が失われている。

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