小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1406 勝つためには何でも 昨今相撲雑感

画像
白鵬が休場した大相撲は、やはり気の抜けたビールだった。一人横綱鶴竜は早々に2敗し、11日目まで全勝だった大関照の富士は、12日目から3連敗し、しかも右膝まで痛めてしまった。日本人力士と言えば、幕内下位で好成績だった勢が上との対戦では負け続け、稀勢の里も肝心な対戦で負け、優勝争いは2敗の鶴竜と3敗の照の富士の2人に絞られた。つまらない千秋楽になりそうである。 肩のけがで先々場所まで2場所連続して休場した鶴竜は、今場所こそ優勝をと思っているのだろう。白鵬日馬富士がいないのだから、チャンスではある。だが、照の富士が途中まで好調で、鶴竜の優勝の目は遠のいた感があった。しかし、勝負は意外性がつきまとう。照の富士に土がつき、2敗目の稀勢の里戦では右膝靭帯をいためてしまう。横綱昇進以来9場所目。まだ優勝していない鶴竜にとって好機到来だ。もうなりふり構われない状況なのだろう。 勝つためには何でもやる。それが11日目の栃煌山戦での立ち合の変化となり、勝ったものの「横綱らしくない」という厳しい批判を浴びた。しかし、鶴竜は、そんな批判は気にしないのだろう。14日目の稀勢の里戦では、あぜんとする立ち合いを繰り返した。まず右に飛ぶが、手つき不十分という行司の裁定で仕切り直し。次は真っ向から立つと思っていると、今度は左に飛び、結果的には稀勢の里を寄り倒して、優勝争いのトップに立った。 この立ち会いにはメディアの批判が集中し、「鶴竜 綱が泣く」(朝日)「鶴竜2敗死守!稀勢との大一番2度の変化で大ブーイング」(スポーツ報知)など、厳しい論調の記事が出た。朝日の記事の最後は「相撲取材を始めて30年近い。横綱の注文相撲は何度か見たが、同じ相撲で2度変化したのは記憶にない。角界の最高峰に立つ横綱は歴代71人。『品格、力量抜群』として推挙された地位だ。こんな形で優勝をたぐり寄せたのでは、『綱』の看板が泣いてしまう」と、結んでいる。ここまで書かれた鶴竜は、千秋楽に傷ついた照の富士と対戦する。相手が右足に力が入らないのだから、比較的楽な戦いになるはずだ。負けても優勝決定戦になるので、かなり優位に立ったと言える。 鶴竜はいまでこそ、体(身長186センチ、体重155キロ)も白鵬(同192センチ、158キロ)と比べてもそう見劣りしないが、入門当初は小さいため苦労したという。そのため立ち会いに変化する注文相撲が身についてしまい、それが横綱になっても時折出てしまう―という記事を読んだ。それにしても、同じ相手に2回もやるのだから「勝ちたい」という強い思いが、あの相撲に出たのだろう モンゴル出身で巨体力士逸ノ城は、照の富士の活躍の陰に隠れてしまった感があるが、つい最近まで日の出の勢いだった。彼も以前は立ち合いに変化を見せたことがあった。巨漢が変化することには好感が持てなかった。最近は変化をやめて正攻法に徹している。成績は芳しくないが、正攻法で伸びてほしいと願う一人である。 いま、外国人力士が全幕内力士42人中18人を占めている。このうちエジプト出身の大砂嵐は、腕を使って相手ののど元やあごを 下から突き上げるかち上げやけんか相手を殴っているように見える張り手というラフさが身上だが、そう簡単には勝たしてもらえない。 はたきやかち上げ、張り手は相撲で許されている技である。だから、勝つためにはそうした技が出てきてもおかしくはない。だが、横綱だけは休場しても降格はないから、ファンは横綱には堂々と正攻法で勝つ姿を求め、変化をすることにはことのほか厳しいのだろう。スポーツに武士道の品格を求める声もあるが、外国人力士にそれは容易には理解できないのではないか。国際化時代の大相撲は、変わりつつあるのだ。 1401 白鵬の休場に思う 異文化の中で輝く存在 写真 千葉県大多喜の清流(記事とは無関係です) 追記 千秋楽で照の富士が奮起し鶴竜を下して12勝3敗同士の優勝決定戦となった。結果は鶴竜が勝ったが、少しだけ盛り上がったといえるだろう。鶴竜は、テレビのインタビューに対し「肩が直ってないので自信がなかった、勝ちたいと思った」稀勢の里 戦を振り返った。