小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

ジャーナリズム

1680 ああ文豪も新聞離れ ゲーテの理想的生き方

ドイツの文豪ゲーテ(1749~1832)は、様々な言葉を残している。18世紀中ごろから19世紀前半に生きた人であり、現代とは2世紀前後の差がある。とはいえ、その数々は現代に通ずるもので考えさせられるのだ。現代世相を引き合いに、いくつかの言…

1641 読んだふりの本『一九八四年』 そして映画『ペンタゴン・ペーパーズ』

読んでもいないのに見栄を張って読んだふりをしてしまうという本があるという。イギリスではその「読んだふり本」のトップがジョージ・オーウェルの『一九八四年』だと、日本版(ハヤカワ文庫)を翻訳した高橋和久さんが書いている。内容が暗く、難解なだけ…

1628 五輪を巡る友情物語  誇張されたストーリー

スポーツ大会の頂点ともいえるのがオリンピックだ。出場した選手たちは互いに技を競い、優劣を争う。それがメダルへとつながる。だから、選手にとって戦う相手はライバル(競争相手や好敵手)だ。韓国の平昌冬季五輪で金メダルを獲得した2人の日本人選手に…

1624 遠のく核なき世界 Tはterrible(不愉快、恐ろしい、ひどい)か

米国の第33代大統領、ハリー・トルーマン(1884-1972)は、前職のフランクリン・ルーズベルトの急死によって1945年4月12日、副大統領から昇格したため、「偶然による大統領」とも呼ばれた。この年の8月、米軍が広島、長崎への原爆投下という、人類…

1621 村上春樹が受賞できない背景は ノーベル賞の問題点を洗い出した本

2017年のノーベル文学賞は、予想外の日系英国人作家カズオ・イシグロだった。このところ毎年のように日本のメディアで受賞するかどうかで話題になる村上春樹は今回も受賞はかなわなかった。なぜだろう。ノーベル賞取材にかかわった共同通信社ロンドン支局の…

1614「焼き場に立つ」少年の写真 ローマ法王「戦争の結果」

カトリックのローマ法王庁がフランシスコ法王の指示で、教会関係者に対し、1945年に原爆投下直後の長崎で撮影された少年の写真入りカードを配布したという記事が今日の新聞各紙に掲載された。「これが戦争の結果」(あるいは結末)などという見出しだっ…

1605 遠くなった無冠の帝王 『デスク日記』の原さんの死

「無冠の帝王」という言葉がある。「(地位はないが強い力のある者、または権力に屈しない者の意で)新聞記者。ジャーナリスト」(広辞苑)という意味だった。「だった」と過去形で書くのは、昨今の記者たちが権力に屈してしまっている印象が強く、「無冠の…

1580 小説『黒い雨』を読みながら 試される政府の本気度

『黒い雨』(新潮文庫)は、阿鼻叫喚の広島の街の姿を井伏鱒二という冷静な作家によってに描かれた原爆小説だ。この時期、本棚から取り出して再読する人もいるだろう。私もその一人である。この小説は原爆小説とはいえ、正面から政治上の主張はしていない。…

1578 「長い物には巻かれよ」 守った人と守らなかった人

「長い物には巻かれよ」という言葉は「目上の人や勢力のある人には争うより従っている方が得である」(広辞苑)という意味だ。官僚の世界で、この言葉を守った人と守らなかった人の2つの例が日本と韓国で最近話題になった。どちらが多くの人に受け入れられ…

1576 消えた新聞の青春群像 増田俊也『北海タイムス物語』

「北海タイムス」という新聞があったことを北海道民の多くが記憶しているだろうか。1998(平成10)年9月に「休刊」宣言をして事実上の廃刊をしてからもう19年になる。この北海タイムスを舞台に、入社間もない整理部記者の苦闘を描いた増田俊也著『…

1557 『グローバル・ジャーナリズム――国際スクープの舞台裏』を読む

「こんにちは。私はジョン・ドウ(匿名太郎)。データに興味はあるか?」ドイツ・ミュンヘンの南ドイツ新聞の記者に、インターネットを通じて飛び込んできたこの一文が、タックスヘイブン(租税回避地)による世界各国の首脳や富裕層による資産隠し、課税逃…

1535 真珠湾攻撃幻の第一報  配信されなかったAPの速報

旧日本海軍が真珠湾(ハワイ・ホノルル)の奇襲攻撃に踏み切ったのは1941(昭和16)年12月8日未明(日本時間)で、時差が19時間あるから現地時間は7日(日曜日)朝のことだった。米国ホノルル海軍基地から米海軍省に届いた電報は「Air Raid Pear…

1531 音楽は希望の使い 市民オーケストラの映画「オケ老人」

「オケ老人」という題名に惹かれて映画を見た。老人が中心の市民オーケストラを、杏演ずる高校の数学教師が指揮するストーリーだ。杏の指揮ぶりが真に迫り、オーケストラのメンバー役の俳優はベテラン(笹野高史、左とん平、小松政夫、石倉三郎、藤田弓子、…

1524 ボブ・ディランのノーベル文学賞 サルトルは拒否したが……

《「キューバ危機」の時、ディランは、ソ連からの攻撃を想定した小学生の頃の訓練を思い出していたのかもしれない。》 今年のノーベル文学賞に米国のシンガーソングライター、ボブ・ディランが選ばれた。冒頭の文章は、高橋郁男著『詩のオデュッセイア』(コ…

1509  ジャーナリズムの役割とは むのたけじさんのこと

《ジャーナリズムとは何か。ジャーナリズムの「ジャーナル」とは、日記とか航海日誌とか商人の当座帳とか、毎日起こることを書くことです。それをずっと続けていくのが新聞。それは何のためかというと、理由は簡単で、いいことは増やす、悪いことは二度と起…

1503 ロッキード事件40年 様変わりした検察

NHKTVでロッキード事件特集が放送された。のちに検事総長となる吉永祐介氏が東京地検特捜部副部長・主任検事として様々な困難を乗り切って田中角栄元首相の逮捕にこぎつけるが、もう一つの捜査ターゲット、自衛隊のP3C導入をめぐる疑惑は解明されな…

1485 オバマ大統領の広島訪問の意味 非道さを伝えたAPの第一報

「人類が開発した最も恐ろしい兵器――原子の分裂という宇宙の根源的な力によって徹底的な破壊をもたらす原子爆弾――が今日、その凄まじさで日本を驚愕させ、そしてそれがもたらす戦争と平和への潜在的可能性を示し、世界の他の地域をも驚愕させた」 これは、広…

1478 戦争写真『硫黄島の星条旗』の謎 太平洋戦争とは何だったのか

太平洋戦争をとらえた写真の中で、米国ではAP通信カメラマンの「硫黄島の星条旗」が傑作として名高い。激戦地の摺鉢山山頂に米国旗・星条旗を掲げる6人の米兵たちの姿を撮影した写真である。この写真をめぐって、1人の兵士がこれまで言われてきた兵士と…

1467 ユネスコ憲章の精神とかけ離れた世界の実態 ガルシンの嘆きはいまも

オバマ米国大統領が5月のG7伊勢志摩サミット参加時に、広島を訪問することを検討しているというニュースが流れた。訪問が実現すれば、現職の米国大統領としてはもちろん初めてである。 オバマ大統領は2009年チェコ・プラハで「核兵器なき世界」を訴え…

1461 ウクライナ危機の本質とは 『プーチンとG8の終焉』

ロシアによるクリミアの併合、混迷するウクライナ危機はかつての米ソ冷戦時代の再来かといわれた。クリミア併合をきっかけに欧米を中心とする国々がロシアに経済制裁を加え、これまでのG8という枠組みからロシアを除外する動きが続いた。こうした国際社会…

1460 なぜ日本は原発大国になったのか 『原子力政策研究会100時間の極秘音源』

『原子力政策研究会100時間の極秘音源―メルトダウンへの道―』(新潮文庫)という題名からは、やや難解な原子力に関する本であることを想像させる。 だが、そうではない。戦後の原子力開発=原発の導入、原発をめぐる安全神話の醸成という問題の真相に迫った、…

1400 大災害で救助された人間と犬 5万年前からの家族

今月10日、北関東を流れる鬼怒川の堤防が茨城県常総市で決壊した。濁流に襲われて街が消える状況を映したテレビ画面は2011年の東日本大震災を想起するものだった。屋根に取り残された年配の夫婦と思われる2人がそれぞれ犬を抱えて、自衛隊のヘリによ…

1399 飽食の時代を考える 首相動静とミンダナオの事件

新聞に首相動静という欄がある。そこには首相の前日の動きが掲載されている。ちなみに昨日(8日)の夜の動静は「午後6時53分、東京・内幸町の帝国ホテル着。同ホテル内の宴会場『梅の間』で日本経済新聞社の喜多恒雄会長、岡田直敏社長らと会食。午後8時55分…

1382 『戦争紀行』(杉山市平著)再読 侵略戦争への警告

ことしは戦後70年になる。私的な俳句の会合が8月にあるが、この句会の兼題(出題によって事前に句をつくり、句会で発表すること)の一つが「終戦記念日」(傍題 敗戦忌、終戦の日、終戦日、八月十五日)と指定された。案内には「今年は昭和90年、戦後70年。…

1376 病んでいる日本社会 報道の自由度ランキングは61位

安倍首相の応援団である自民党若手議員の勉強会で、講師として招いた作家の百田尚樹氏とともに衆院議員が沖縄県民世論を批判、「広告を出さないように経団連に働きかけろ、2つの新聞はつぶすべきだ」などと沖縄の2紙(沖縄タイムス、琉球新報)を威圧する…

1339 おかしな世界と日本 繰り返す栄枯衰退の歴史

国会は「言論の府」といわれる。言論が尊重され、言論によって国政のあり方が議論されている。しかし、現在の国会の姿は異常である。安倍晋三首相や自民党議員が国会で野次を飛ばし謝罪するという醜態を演じ、日本の政治家から品格がなくなっているとしか言…

1323 マスコミの役割いずこへ 2冊のジャーナリズム論を読む

最近の日本のマスコミ界は、何となくおかしい。時の政府を監視するという一番大事な役割を投げ捨て、政権にすり寄っている新聞、テレビが目についてしまう。マスコミ界から「へそ曲がり」がいなくなってしまったのか。そんなことはないはずだ……。こんなこと…

1308 報道写真家が入れない領域  混迷度増す現代社会

日本百名山の一つ、御嶽山が9月27日に噴火して戦後最悪の死者を出した。あれから間もなく3週間になるが、きょう16日で、行方不明者の捜索活動は打ち切られた。山はもう冬なのである。 御嶽の噴火では登山者によって多くの写真が撮影された。ほとんどが…

1307 バイヨン寺院の出来事 悲劇のアンコールワット

ことしも帰化植物、セイダカアワダチソウの黄色い花が咲く季節になった。散歩コースの調整池の周囲には、天敵のススキと共存共栄している姿が見られる。こんな風景の中を歩いていると旅をしたくなる。旅といえば1年少し前、カンボジアの世界遺産・アンコー…

1305 進まぬジャーナリズムの変革 メデイァ批評15年のコラム集

朝日新聞の原発事故をめぐるいわゆる「吉田調書」と慰安婦に関する「吉田証言」の2つの誤報問題は、日本のジャーナリズムが危機的状況にあることを感じさせる。そんなときに新聞通信調査会が刊行した『ジャーナリズムよ メディア批評の15年』という本に目…