小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1382 『戦争紀行』(杉山市平著)再読 侵略戦争への警告

画像 ことしは戦後70年になる。私的な俳句の会合が8月にあるが、この句会の兼題(出題によって事前に句をつくり、句会で発表すること)の一つが「終戦記念日」(傍題 敗戦忌、終戦の日終戦日、八月十五日)と指定された。案内には「今年は昭和90年、戦後70年。節目にあたり一句試してみましょう」とあり、暑さに耐えながら句を考えている。

 そんな日常、8年前の2007年7月に出版された『戦争紀行』(いりす・同時代社)という本を再読した。 著者の杉山市平氏(1917~1996)は、共同通信記者を経てAA(アジア・アフリカ)ジャーナリスト協会書記として、ジャカルタ、北京で22年間生活した。この本は杉山さんの旧三高時代と東大入学後の生活、さらに在学中に召集され日中戦争さなかの中国にわたり、湖北省湖南省北部で3年半軍隊生活を送った体験記である。

 内容については、出版当時のブログで紹介している(下段のリンクから読むことができる)ので、ここでは省略する。 昨今、世界の動きはきな臭さが消えない。それに呼応するように、憲法学者の大半が違憲という集団的自衛権を認めた安保法制を与党が数に物を言わせて衆議院で強行可決するなど、わが日本も政治的に不穏な動きが増している。

 そんな情勢を予言するように、杉山さんはこの本の「後記」で戦争について警告的な文章を書いている。やや長いため、以下に要約して紹介する。現代に生きる私たちに対する大先輩からの伝言のように考えることができる。

《戦争はいつかまた、何らかの形で日本に襲いかかってくる、と思わなければならない―わたしはそう考えている。現実のこの世界で、これだけ国と国、民族と民族、階級と階級の利害が絡み合い、せめぎ合っているこの世界で、戦争なしに歴史が進んでいくなどとは、到底考えられない。現に終戦日から今日まで、世界のどこかで戦争が起こっていなかった日はなかった。

 こんど日本に襲いかかる戦争は、巨大な破壊と死をともなって来るだろう。そのような戦争が起こらないように、闘わなければならないことは勿論だ。日本が再び侵略戦争に乗り出すということはまずないだろうから、何はともあれ侵略戦争を起こす者と闘わねばならない。それでも大規模な戦争が始まったならば、日本のように国際政治上のキーポイントを占める先進工業国は、何らかの形で侵略的攻撃にさらされる可能性がきわめて大きいだろう。  

 不幸にしてそうした情況で死に襲われた国民は、侵略者に対する憤怒の目をむいて死ななければならない―虚脱状態で侵略の死に屈するようなことがあってはならないと考える。 この前の戦争で日本国民を虚脱状態に陥れたのは、世界の実情について国民を盲目にし、中国を蔑視させ、日本の不敗を盲信させ、そして中国侵略へと国民を駆り立てた日本軍部と神がかりの国粋主義者軍国主義者たちだった。

 軍部と神がかりの連中に引きずられ、中国侵略の戦争を支持し、戦争の拡大を許したからB29から焼夷弾を浴びせられ、焦熱地獄に放り込まれたとき、怒りを誰にも向けることができず、オロオロして想像を超えた破壊に打ちひしがれるばかりだったのだ。そんなことを再現させてはならない。

 中国の民衆は西欧の植民主義者から百年にわたって痛めつけられながら、誰が侵略者―敵で、誰が頼りになる味方か見分ける眼を養った。見分けた上で、ある者は侵略者と戦った。ある者は侵略者に屈従した。しかしいつか引っくり返してやろう、と思いながら……。ある者は侵略者とうまくやって、自分らのために利用しようとした。

 私が中国で見たのはこの3つのタイプである。みんな私たちを侵略者として見ている点では共通していた。 日本人が虚脱状態で侵略を迎えるのではなく、どんな形にせよ侵略者に立ち向かって行くことができるようになるには、常に誰が侵略者なのか、どこに侵略戦争震源があるのか、それがどう日本に作用してくるのかをはっきりつかんでいなければならない。

 世界の現実について、どんな意味でも盲目になってはいけない。攻撃的、神がかり的な盲目はいうまでもないし、平和主義的な盲目も注意しなければならない。同時に、日本からは絶対に侵略戦争を仕掛けない。侵略には断固として、あらゆる形でトコトンまで反対するという覚悟を決め、そのように戦える力を養っていく必要がある。 私は軍国主義のため戦場に引き出された。

 しかし千数百万にも上るであろう中国人民に死と計り知れない苦痛をもたらし、莫大な破壊と損害を中国に与えた侵略軍の兵士として、この侵略戦争のために働いた。今私の為すべきこと―それは前を向いて、新たな侵略戦争に反対することだ》

 

「戦争紀行」 日中戦争の実相を描く本

「戦争紀行」2 学生兵士の体験とは

「戦争紀行」3 時代を超えて

映画『おかあさんの木』 忘れてはならない戦争の不条理

太平洋戦争開戦から73年 「恐ろしい冒険」と記したチャーチル

「戦争」を憎むシャガールの絵 チューリヒ美術館展をのぞく

戦争は人間の所業の空しさ 戦艦武蔵発見に思う